第43話 堕天使敢なく散る

『ピルスネ山脈の大爆発』


このゲームにおけるイベントの1つ。


報酬として『必切のナイフ』がもらえるので、是非ともクリアしておきたいイベントだ。


俺、今プレーヤーじゃないけど大丈夫かな…ってもう今更だよね。


俺が率いる調査隊は、ピルスネ山脈に向かって順調に進む。


収納魔法のお陰でで食糧もたっぷりあるし、武器だって十分過ぎるほど持って来た。


もちろんポーションも。


さて、行軍1週間ほどで堕天使が降りてくるはずの場所から少し離れた場所に到着。


ここを陣営とする。


収納からテントと食糧を大量に出すと、冒険者達が手際良く宿営の用意をしてくれている。


「ちょっと調査に行ってくるよ」


副官であるギルド職員に声を掛けて、ひとりで目的の場所まで移動した。


ゲームのシナリオから考えて、冒険者達をここへ連れてきていれば、間違いなくイベントが強制発動したはずだ。


なら連れてこなければ良い。


危険な場所にたくさんの人は要らない。


ただ堕天使が降りてくる条件に調査隊の存在は必要だった。


調査隊の隊員が、ひとりでもいれば発動するはずだ。


ということで、俺が調査隊の一員である必要があったのだ。


「これでイベント発動条件となる堕天使が降りてくるはず。


そして、俺が斃してしまえば、イベントはそこで終わりだ。


また、ユカリ達を残念がらせるかもしれないけど、このイベントは俺にも必要なものなんだよな」


独り言ちながら堕天使を待つ。


果たして、堕天使は降りてきた。


真っ黒な羽根と黒い身体。


元は穏やかな表情だったであろう端正な顔立ちには、張り付けたような不気味な笑みが見える。


神界で何をやらかしたのか、すっかり悪意に塗れてるな。


真っ黒な靄が堕天使を包み込んでいて、余計に禍々しく見えるのだよ。


「ケケケ……」


眼の前に降り立ち、静かに嗤う声が響く。


うん、面倒臭いから早くヤッちゃおう。


「浄化!」


禍々しいものにはとりあえず浄化する。


「ギャーー!!」


激しい叫び声が響く。


うん、五月蝿いね。


「エアカッター!」


複数の風の刃が堕天使を襲う。


「ギャーー!!」


「サンダー!!」


「ギャーー!!」


「ホワイトファイヤー!!」


「グググ、グワァー」


最後は神聖魔法の白い炎が堕天使を包んで、ようやく終了となった。


「結構強かったよな。ジョウイチのレベルじゃヤバかったかも」


とにかく、堕天使がいた場所に転がっている『必切のナイフ』を収納に入れて、皆が待っている宿営地に戻った。


「皆さん、どうしたんですか?」


「あっ!隊長。探してたんです。


さっき、大きな叫び声が聞こえませんでしたか?


すごく気味の悪い声が何度もです」


「ああ、ここまで聞こえてましたか。


実はちょっと辺りの偵察をしてたら、デカい魔物が現れまして。


それでちょっとやっつけて来たんです。

恐らくあいつが今回の元凶ですね。

かなり高温の火を吐きまくっていましたから。


と言うことで、着いたばかりで申し訳ありませんが、任務終了ですね。」



「「「ええっーーーー!」」」



はい、イベント終了です。


既に宿営地は出来上がっており、美味しそうな匂いが辺りに漂っている。


既に酒盛りが始まっているグループもちらほら。


余裕を持った時間からの設営だったから、まだ日も高い。


「今から帰ることも出来るけど、止めておきましょうか。」


「「「ほっ」」」


俺が帰るって言うと思ったのか、出来上がったばかりの料理を作っていた奴とか腹の虫を鳴らしている奴とかが、安堵のため息をついていた。


「ハヤト隊長!!こっちで一緒に飲みましょうや!」


ぐ~~


俺の腹の虫も鳴り出したな。


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