第267話 ユキヒコ救出作戦3

ユキヒコの魔力の残渣を見ていると、目の前の空間のあちこちに散らばっていることが分かる。


おそらく本来ならばこれが連続した空間であり時間軸なのだろうとハヤトは思う。


「たしかあのラノベでは、通常はひと繋がりの空間が何らかの理由で複数に分断されて、その分かれた空間内でそれぞれの時間経過が発生したものが、『時間軸』と呼ばれるってなってたんだ。


そして時間は1方向に流れるから、切れているはずの空間を同じ時間軸が流れている……」


「それって、もしかすると、時間の経過と共にいろんな空間に移動し続けるってこと?」


「そうだな。そんな感じだと思う」


「……思うって……。


まぁここまで来たら、行くしかないしね。


とりあえずあの魔力の残渣が残った空間の何処かにユキヒコが居るってことね。


そして時間の経過とともに別の空間へと次々に送られるってことなのよね」


「おお!さすがは現役大学院生。理解力が素晴らしい。


そんな感じだよ」


「『そんな感じ』ねぇ……


ふうーー、気が抜けそう。


で、理屈は分かったけど、あれだけの空間があるのよ。

どうやってユキヒコに辿り着くわけ?」


「そうだな、ラノベの勇者は、こう言ってたよ。


『時間の経過は1方向で一定。

いくら空間が分かれていようと、魔法の残渣は一定量で減っていく。

つまり色の濃いのが最近で薄いのがそれよりも以前。

そしてもっとも薄いのが目的地点だっていうことさ』だってよ」


「なんだかね。まぁ色の濃さで判断するのね。


だけど、こんなにもたくさんあったら、どれが1番薄いのか分からないし、時間が経つ度にどんどん色が変わって行くわよね。


それに、既に残渣が消えている可能性もあるから、見つけるのは困難だと思うけど……」


「とりあえず1番近くの残渣が残っている空間に行ってみよう。


そうすれば、そこは今よりも必ず過去なんだから、その時点の魔力の残渣を調べてみれば、同じ時間軸のそれよりも更に古い空間が見つけられるはず。


それを繰り返せば必ずユキヒコに行き着くはずさ」


「……………………………

もしかしてそれもラノベ理論なの?」


「そう……」


「はぁー、分かったわ。一応理屈的には間違って無いから大丈夫かな」


「よし、そうと決まれば行くぞ!」


繋いだ手に力を感じる。


さすがのサユリも緊張してるのだろう。


俺だって自分でトンデモ理論を展開しているのはよく分かっているんだからな。


でも、そもそもこの場所自体がトンデモ空間なんだから仕方ないさ。


サユリの手を握りしめ、ユキヒコの魔力残渣が残る最も近くの空間へと移動する。


移動自体は簡単なんだよな。


そこに行けば良いだけだからね。


だけど、その後が大変なんだ。


空間は絶えず動いているから、その場所に立ち止まって、少し時間が経つと別の空間に移動しちゃうんだ。


これが同じ時間軸の空間に移動するのだったら問題無いんだけど、違う時間軸になると、最初からやり直しになってしまう。


移動したら今度はその空間にマーキングしておくんだ。


ラノベの勇者は自分の魔力が詰まった風船の様なものを浮かべておいていた。


俺も見習ってシャボン玉をいくつも作っておこう。


これが無いと、元居た空間の時間軸に戻れなくなっちゃうんだよね。


「さぁ、空間が入れ替らないうちに、次の空間へと飛ぶよ」


空間が替わるまではおおよそ1分ほど。


その間にマーキングをして、1番薄い残渣を探して移動する必勝がある。


高速演算スキルを持ってて助かったよ。

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