第281話 自分の気持ち

結局3次会まで続いた打ち上げも深夜2時にはお開きに。


ていうか、あの業界の人達っておかしいよ。


まだこれから行くんだって言って、タクシーを10台以上連ねて4次会に行くんだって。


俺達も誘われたけど、無理!って断った。


朝里とふたりでタクシーに乗り込み俺の部屋へと向かう。


もう実家は静まり返っている時間だし、早い時間に俺のところに泊まるって連絡済だよ。


「お風呂いれるね」


「ああ、頼む。朝里コーヒーはブラックで良かったっけ?」


「う~~ん、今日はミルクマシマシでお願い。


ちょっと食べ過ぎで胃が疲れてるかも」


「オーケー」


コーヒーを飲んでから別々に風呂に入って、ソファーに並んで座る頃には薄っすらと窓から日が差し込んでいる。


「夜が明けちゃったね」


「そうね。でも今日は1日オフだから、このままゆっくりしたいなーーって」


「よし、じゃあ、朝里が満足するまでこのままでいようか」


「うん」


朝里はにっこり笑って、俺の肩に頭を乗せてきた。


湯上がりの髪の香りが鼻をくすぐる。


思わず肩に手を伸ばすと、それに同調するように朝里の細い身体が密着してきた。


ドキドキする。


あっちの世界じゃハヤトとサユリは結婚しているから、こんなこと当たり前なのに、丈一郎と朝里は血は繋がって無いけど兄妹なんだよな。


決してそんな関係になっちゃいけないんだ。


まぁ法律上は問題無くとも、倫理上はね。


だけど……気持ちは引きずられる……かな。


うつむいて朝里の顔を見ると目を閉じて口は薄く開いている。


これは…サユリがキスをおねだりする時のしぐさだ……


俺は少しの躊躇いの後、朝里の唇をついばんでいた。







「朝里、おはよう」


「おはよう」


日が傾きかけた頃、ベッドの上でおはようのキスをする。


「朝里、大丈夫?」


「……うん」


朝里として初めて男と迎える朝、やっぱり朝里は可愛かった。


俺はやっぱり朝里が好きだ。


そして夜、朝里を実家へと送って行く。


送って行って別れる、いつもの場所。


今日は朝里と手を繋いだまま、その前を素通りする。


久しぶりの実家にドキドキするけど、にっこりとこちらを見つめる朝里に勇気をもらい玄関扉を入る。


「ただいまー」


「お帰り」


元気な朝里の声に親父の顔が覗く。


「おや、珍しい顔だな」


「…久しぶり」


「ふたり共、早く上がれ。

晩飯は食って来たのか?」


「まだだよ」


「そうか、お母さん、料理ふたり分追加だ」


「あら、丈一郎、久しぶりね。早く上がりなさい」


俺の緊張も何処へやら、親父もお母さんも普通に迎えてくれた。


「お兄ちゃん…」


「ああ、上がろうか」


拍子抜けして戸惑っている俺を心配そうに見上げる朝里に優しく微笑んで、俺達はリビングへと進んで行ったんだ。


その後は………


俺の想像とは全く異なった展開を迎える。


何年かぶりのお母さんの料理を食べた後、俺は朝里との結婚を口にした。


てっきり反対されるとばかり思ってたんだけど、親父の口からは正反対の言葉が帰ってきたんだ。


「お前達の活躍はテレビやニュースでよく聞いてるよ。


もうふたりも立派な大人だし、お前なら安心して朝里を任せられる。


元々お前達の結婚については、法律上も含め何も問題無いのだからな。


とはいえ、世間の風は冷たいぞ。


特にお前達は有名になった。


これから誹謗中傷もあるだろうが、なにお前達なら乗り切れるだろうよ。なぁ母さん」


「朝里、おめでとう。丈一郎朝里を頼んだわよ」


「ああ、認めてくれてありがとう」


「お…お母さん……わたし……」


俺と朝里はこの日の嬉し涙を生涯忘れることはないだろう。




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