第277話 1日目午後の部

開演10分前、舞台袖で演劇の最終打ち合わせが行われている。


スケジュールの都合もあり、それほど合同練習出来たわけじゃないけれど、何となくふたりとの息は合っていると思う。


なんていうかな、裕太君ともステファンさんとも真剣勝負をしたからね。


心が通じ合うんだよね。たぶんふたりもそうだと思う。


昨日の顔合わせの後で、ふたりも勝負してたし。


そして司会進行の声が午後の部開幕を告げる声が響き、照明が落とされると、舞台のバックは函館の港町。


そこに被せて映し出されてる映像には、軍艦開陽丸が港に入って来るところから始まり、榎本武揚(俺)や土方歳三(裕太君)が降りてくるところが映し出されている。


先ず登場するのは榎本武揚、次に土方歳三。


「やっと着いたな、土方さん」


「ええ、この蝦夷の地を独立させ、徳川将軍をお迎えするのが我らが使命。


榎本さん、この身命を賭して、今度こそ目的を果たしましょう。必ず!」


「そうだな。ここ函館はその第一歩としての足掛かりとなる重要地域である。


何がなんでも占領せねばならぬ」


榎本と土方が熱く語り合うところで舞台は暗くなり、しばしの沈黙の後、スピーカーからはカキーン!、キーン!という剣を交える音が聞こえてきた。


灯りがつくと、そこでは土方が多くの兵士と剣を交えている。


「引けー!引けー!ここはもう無理だ!一旦引いて立て直すぞー!」


土方の悲痛な叫び声が舞台に響き渡る。


20人からの兵士に囲まれるという死地にありながらも、部下を先に逃がし、自らが迎え撃つ。


数分の激しい剣撃の末、ボロボロになりながらも、敵兵を討ち取った土方が部下達を追って舞台袖へと消えていく。






「いやーー、裕太君。また腕を上げたねーー」


「いや、素晴らしい演技だった。


あれほどの演技が出来る役者はヨーロッパ広しといえどなかなかいないな。


何より剣に魂がこもっているから、まるで真剣を振っているようだった」


「そんな〜、結城さんとステファンさんからそんなに褒められると照れてしまいます」


「いや、ステファンさんはともかく、俺なんて芝居は素人だからね。


大河ドラマ常連の西郷裕太にそんなこと言われると恐縮するばかりだよ」


「そんなことないですよ。

でも、朝里さんの演技も凄かったですね。


傷を追って町に流れ着いた歳三を迎えた時の迫真の演技もそうですけど、追っ手から歳三を隠す時の迫力、あれは本物の兵士でもたじろぐんじゃないですかね」





午後の部は3回公演になっている。


1回じゃ全然足りないって。


短めの1時間半の公演が3回。


ステファンさんはフランス軍人役で、新政府軍に雇われて榎本達を追い詰めるんだ。


だけど最後は土方歳三の生き様に感銘を受けて、彼の看取りをするんだよ。


これは完全にフィクションなんだけど、今回の芝居ではここはナレーションで流れるところ。


大河ドラマを追い越すわけにはいかないから、今回の芝居では、函館を舞台に俺達はステファンさん扮するフランス人軍人ボルドーと激しい戦闘するシーンまでなんだけどね。


とにかく、この芝居の見どころは剣と剣のぶつかり合いだね。


些細なことから榎本と土方が言い争いになり剣の勝負で白黒つけようとするシーンや、土方とボルドーの一騎打ち、函館の仮陣屋に奇襲を掛けるボルドーと榎本の対決など剣の勝負が満載だ。


人間ドラマは大河に任せておけばいいじゃんよね。



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