第21話 姉さん、俺の言いたいこと
俺は姉さんからの電話に出た。
「も────」
『新、今どこに居るの?』
もしもし、という電話では当たり前の挨拶をするまでもなく、姉さんは俺の居場所を聞いてきた。
「どこって…書置きに書いてなかった?」
『書いてたのは大まかな場所だけで細かくどこに泊まるとかは書いてなかったよ、既読ついてなかったけど昨日のメール見てないの?』
「え?メール…?」
言われてみれは昨日先輩と一緒に旅館から外に出るときに何かの通知音が鳴っていたような気がする。
俺は姉さんとのトーク画面を開く。
『書置き見たよ、なんか様子おかしいと思ってたけどこういうことだったんだね』
『細かい場所送ってよ、迎えに行くから』
『私以外と二人でお出かけなんて、友達だからってダメだよ、せめて許可取ってもらわないとさ』
『もし何かあったらどうするの?危ないんだよ?』
俺はそのトーク画面を見て驚き…はしなかった。
姉さんとずっと生活していればそういう一面があることはもちろんわかっているしからだ。
…こうなるのが嫌だったからわざわざ書置きまで残したのに、かえってそれが逆効果になってしまった。
「あ、あぁ…今見た」
『うん、そういうことだから、場所教えて?』
「……」
もし姉さんが今俺の目の前に居るとしたら言えないようなことを、俺は電話越しだからと思い切って言う決意をした。
「姉さん…前から思ってたけど、ちょっと過保護すぎると思う、俺はもう高校生なんだからちょっと友達と出かけるくらい大丈夫だし、バイトに反対した件だって、姉さんが色々と心配してくれてたのはわかるけど俺だってもうバイトができる権利を得れる年齢になったんだし、もし何か身の危険を感じたら自分の意思でちゃんと辞める判断くらいできるから、もうあんまり俺に干渉しないでほしい」
俺は思っていることを全て言い切った。
そう、姉さんが俺のバイトを反対した理由は「怪我したらどうするの?」とか「危ない女の人とか居たらどうするの?」と言った、とにかく俺のことをどこまでも心配している、言い換えればどこまでも俺のことを子供扱いしているようなものだった。
俺はその不満ももろもろ今全て込めて言葉を放った。
こうすることで、今後もしかしたら姉さんに俺が今もバイトをしていることを告げられるかもしれない…と、思ったのだが。
『私は新のお姉ちゃんなんだよ、どうして大事な大事な弟のことに干渉しないでなんて言うの?』
「もちろん姉さんには助けてもらったりしたこともあったけど、少なくとも今はその必要が無いって言ってるんだ」
『私は必要なときに力を借りられればいい道具なの?違うよね?』
「そういうことじゃ…無いけど」
『だったら場所、言えるよね?大丈夫、別に私怒ったりしてるわけじゃ無いから、ちょっと心配なだけなの』
こうは言っているがきっと会った瞬間にあの冷静な怒りという一番厄介な怒り方で俺のことを説教してくるだろうことは間違いない。
「心配は…嬉しいけど、本当に大丈夫なんだ」
『…新、一つだけ聞きたいことがあるの』
「何?」
『そのお友達っていうのは、男の子?それとも…女の子?』
「女の子…っていうよりかは、先輩って言った方が正しいと思う」
『女…の子ね、先輩っていうのは?学校の先輩?』
「う〜ん、そんなとこ」
バイトをしていることを言うわけにはいかないため、ここは曖昧な表現にしておくことにした。
『…じゃあ、女の子と今二人で旅行なんてしてるんだね、そっか、帰ってきたらその女の子と一緒に家で遊んだら?私も会いたいし!』
「え、良いのか!?」
てっきり姉さんはちょっと怒ったりするかとも思ったが、そんなフランクな感じなのか。
『うん!新のお友達に、私も挨拶したいな』
「わかった、伝えとく」
『うん…じゃあ旅行、楽しんでね』
姉さんは結局俺の正確な居場所を最後まで言及することはなく、そのまま通話は切れた。
「何がともあれ上手くいったな…」
あとは帰った後で姉さんと先輩に会ってもらうってところか…多分先輩は快く受け入れてくれるだろうし、これでひとまず何も不安はないな。
俺は先輩のところに急いで戻り、仕事を再開した。
案の定先輩は姉さんと会うことを快く引き受けてくれて、仕事終わりには観光名所を巡ろうという話になった。
…昨日は食べ歩きメインで観光名所なんて遠くからしか見えなかったから、楽しみだな。
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