第38話 明日真、文化祭楽しみだな

「天城くん、今日は文化祭の説明会があるらしいよ」


「もうそんな時期なのか〜」


 この学校では文化祭は12月に入る直前である11月末に行われることになっているから、大体あと二週間後くらいか。

 明日真の言う通り、一限目は早速その文化祭の説明、二限目はこのクラスでどんな出し物をするかを決めるということらしい。

 文化祭の説明は、基本的に説明されなくてもわかっていたことだったが、一つだけ先生の言葉で気になる言葉があった。


「次に、家族または学校外の知り合いを連れてきていただいて構いません」


 昨年までだったらなんとも思わなかっただろうが、今の俺にとっては大きな意味を持つ。

 もちろん、紅羽先輩の存在だ。

 去年は先輩と会ったことすらなかったが、今では俺の恋人になっている。

 その紅羽先輩を文化祭に呼べるというのは、非常に嬉しいことだ。

 そして次の時間、とうとう出し物を決めることになった。


「じゃあ、何か出し物の案がある人ー!」


 教壇のところに立って、俺によく話しかけてくれいてた女子生徒が進行係となるようだ、やっぱりクラスの中心人物らしい。

 …話しかけられていたというか、最近は明日真とか紫雨とかと話していることがあるから頻度は減ったが、それでもたまに話しかけてくることがある。


「はーい!お化け屋敷とかどう〜?」


「お化け屋敷…っと」


 もう一人前に出てチョークを握っている男子生徒が、黒板にお化け屋敷と書いた、定番だがやり甲斐もありそうだし、お化け屋敷は良いんじゃないだろうか。

 …俺はホラーは苦手だからできれば受付とかがいいな。


「他は何か無い〜?」


「メイド喫茶は〜?」


「は、メイド喫茶!?」


「そんなアニメみたいな!」


 そこでひと笑いが起きた。

 アニメとか漫画とかならともかく、まさか本気でメイド喫茶という意見が通るとは思っていないだろうし、流石に冗談だろうな。

 きっと俺以外の生徒たちもそう思っていただろうが、提案した女子生徒は真剣らしく、しっかりと詳細まで考えているようだ。


「でもメイド喫茶だと男子が何もできないから、時間交代制で前半はメイド喫茶で後半は執事喫茶にするの、どうかな?」


「え…執事?」


「執事ってことは、執事服見れるってこと?」


 何故か少しだけ視線を感じる。


「いや、流石に冗談でしょ?」


「でも冗談ならそこまで考える…?」


 クラス中がざわざわとしだしたところで、チョークを持っている男子生徒が『メイド・執事喫茶』と書き込んだ。

 あのままだと収拾がつかないだろうし、一応書いて話を進めるためだろう。


「他は〜?」


 その後は飲食から芸術まで様々な内容のものが出て、最後は匿名で紙にどの出し物をするかを書くことになった。

 俺は紅羽先輩はホラー好きだし、楽しんでもらいたいという意味をこめて『お化け屋敷』と紙に書いた。

 多数決、どの出し物になっても恨みっこ無しだができればお化け屋敷になってほしいな。


「えぇ、投票の結果出ましたー」


 クラス中が沈黙し、次の進行係の言葉を待つ。

 そして…


「────合計19票で、メイド・執事喫茶に決定!」


「…え?」


 クラス中がざわつく、もちろん俺も驚いた。

 …まさか本当にあれに決定するなんて。

 しかも合計19票って、クラスの過半数が入れてるじゃないか。


「え、嘘」


「マジか、ふざけて入れたのに」


「俺も」


「私は、執事服見たかったから…」


「私もー」


「同じく、メイド見てぇー」


 様々な意見が飛び交っている。

 …正直紅羽先輩にうちはお化け屋敷に決定したと報告して喜んでもらえるところまで想像してたからショックではあるが、決まってしまったものは仕方がないか。


「じゃあ、とりあえず今日は文化祭については出し物決めだけだから…以上!この時間は自由時間〜!」


「おお〜!」


 各々の生徒は文化祭について色々と話し始めた。

 俺もクラス内で友達と呼ぶことのできるほぼ唯一の存在、明日真のところへ行こうとしたところで明日真の方から俺の方に来た。


「文化祭、楽しそうだね」


「え、明日真もメイド服とか執事服に興味があるのか?」


「ううん、そんなの全く興味無いけど、文化祭でしか味わえないないことだからね、それに今年は天城くんが一緒に回ってくれると思うし」


「もちろん一緒に回る、文化祭楽しみだな…あ、でも午後は多分執事カフェで忙しくなると思うから午前にしよう、の」


 文化祭は二日に渡って行われるため、俺は明日真と過ごすのは一日目と伝えておいた。


「うん、もちろん陽織さんと過ごす時間を邪魔はしないから、それだけで十分満足だよ」


「誰も紅羽先輩と過ごすなんて言ってないだろ!?」


「あれ?天城くん前から陽織さんのこと下の名前で呼んでたっけ?」


「あっ…」


「関係に進展あったんだね、おめでとう」


「うるさい!」


 俺は耳を塞ぎうつ伏せになることで、ひたすら赤面しているであろう自分の顔を隠すことに専念した。

 …紅羽先輩と文化祭、楽しみだな。

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