第37話 紅羽先輩、誤解です
「…じゃあ、俺がそんな簡単にモテないってこと証明しますね」
「うん…どうやって?」
「あそこに服屋さんがありますよね、あそこで一着何か買おうと思います」
「え、お洋服買うの!?やった!私に見繕わせてよ!」
「もちろんそれはいいんですけど、会計は俺にさせてください」
「え…?」
紅羽先輩は困惑する。
…そう、今まで振り返ってみると、基本的に何かの接客やレジのお会計は紅羽先輩がしていた。
今にして思えば、あれも俺に女の人と会話をして欲しくなかったからなんだろうということが想像できる、そしてその理由は俺がちょっと話すだけで女の人にモテると紅羽先輩が大きな誤解をしているから。
「ちゃんと証明しますから」
「…うん」
紅羽先輩は乗り気では無い様子だが、一度証明してしまえば先は明るいし、今後のためにもこれは良いことなはずだ。
俺たちは一緒に服屋さんの中に入り、メンズのコーナーに移動した。
「うわぁ〜!これ絶対新くんに似合うよ!」
紅羽先輩はものすごく高そうな服を取り出した。
「そんな服俺に似合わないですよ」
「え〜!似合うって!あ、こっちも!この服も似合いそう!え、どうしよ!新くん全部似合っちゃうよ!」
「全部も似合うわけないじゃ無いですか!」
「本当だって!ていうか一着だけとか無理だから私がお金出してもいい?新くんのためにお金使うなら私の本望だし!」
「ダメですよ、今回の趣旨はそれじゃ無いんですから…あとそんな簡単に俺にお金使わないでください!」
服屋さんを選んだのは、一応そろそろ一着新しい服が欲しいと思っていたことと、服屋さんの店員さんというのは基本的にオシャレな多いイメージで、きっと男慣れしている人も多い。
そんな人たちにすらモテるのであれば俺はもう魔性の魅力を放っているんだろうが、そんなことは絶対に無いため紅羽先輩のことを絶対に安心させられると思っての判断だ。
「え〜、最低でもあと20着は買ってあげたいのに…」
「20着!?最低でも!?」
これが…女子大学生の普通なのか、それとも紅羽先輩がすごすぎるだけなのか。
少なくともただの男子高校生である俺とは全く違う世界であることだけは間違いない。
「う〜ん、一着…一着〜?え〜、じゃあこれかな…」
紅羽先輩は黒と白のかっこいい模様の入った長袖を俺に渡した。
…この季節長袖は欲しいし、値段も俺が持っている分で足りるから問題ない。
「わかりました、じゃあ今から会計行ってきますね」
「うん、私もついてく」
紅羽先輩は、俺の隣で見ているようだ。
俺は服を会計のところに持っていく。
「次の方どうぞー」
女店員さんに呼ばれたため、その店員さんの会計のところに移動し、服を店員さんに渡した。
そしてお金もしっかりと払った。
「ありがとうございましたー、こちらお釣りとレシートです」
「ありがとうございます」
こうして俺はただ買い物を終えた。
何も不思議なことはない、ただの買い物。
相手は女の人だったが、もちろん紅羽先輩の思うような事態にはなっていない。
俺と紅羽先輩は、そのまま一緒に服屋さんを一緒に出た。
「ね、紅羽先輩、俺の言った通り────」
「ね!新くん!私の言った通りだったでしょ!」
…え?
「え、紅羽先輩の…言った、通り?」
「うん、私の言った通り、女の店員さんが新くんに見惚れてたよ!」
「え!?」
紅羽先輩が理解できないことを言い出した、あの女店員さんが俺に見惚れてた?
「どう見たって普通に接客してたじゃないですか!」
「いーや!私にはわかるの!業務的にこなしているようでチラチラと新くんのこと見てたよ!」
「だとしてもそれは別に見惚れてたとかじゃなくて普通に目の前に人が居たらちらっとくらい見ちゃうってことですよ!」
「違うよ!あれは新くんだからだよ!」
「違います!」
「そうなの!」
…証明するのが悲しいようなことを証明しようとしたのに、結局は証明することができなかった。
それはそれとして、紅羽先輩の部屋に戻ったら、俺は新しく買った服を着せられた。
「か、か、か…かっこいい〜!!」
「そうですか…?やっぱりあんまり似合わないと────」
「かっこ良すぎるよ!もう我慢できない〜!」
「うわっ!」
紅羽先輩は我慢できないと言いながら俺のことを抱きしめ、撫でて、とにかく俺のことを堪能しまくってきた。
…一着だけでこれなら、20着なんて買ってたら俺の身が持たなかったな。
結局紅羽先輩には俺がモテないということを証明できず、今後も紅羽先輩は変な誤解を続けていくんだろう…いつかどうにかして、その誤解を止めないとな。
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