第36話 紅羽先輩、モテないです

「新くん、私にして欲しいこととかない?」


「…え、いきなりなんですか?」


 今日はいくらデジタルな世界だとしても読書は大事だし、読書の秋とも言うしということで、紅羽先輩の部屋で静かに二人で読書会をしていると、紅羽先輩は突然そんなことを言い出した。

 …して欲しいこと?


「もう恋人にもなったんだし、もっと私に気を遣わずに色々とお願いしてくれても良いんだよ?私なんでもするから!」


「お願い…そう言われても、勉強とかも教えてくれますし料理とかもしてくれてますし、正直もう十分満足すぎます」


 これ以上何かを求めろと言われても、出ないほどには今が満たされている。


「でもそんなの恋人じゃ無い時からしてたし、せっかく恋人になったんだから何か恋人らしいことしたくない?」


「…そう言われてみれば確かに」


 今振り返ってみると、恋人でもなかったのに俺と紅羽先輩はだいぶ距離が近かったせいで、恋人の距離感というものを掴み損ねていると考えることもできる。


「だよね!だから新くんは何かして欲しいこと無いかなって思って」


「…そう、ですね」


 恋人らしいこと…

 手を繋ぐ…は旅行の時に一時的にとは言えしたし、となるとそれ以上のことになるのか。

 …かなり難しいな。


「新くんがすぐに思いつかないなら、私からしたいこと言ってもいい?」


「あ、はい!なんでも言ってください」


「うん、じゃあ────」


 俺は先輩の言う通りににした。


「…紅羽先輩?これで良いんですか?」


「うんうん、はぁ、落ち着く〜」


 紅羽先輩がお願いしてきたのは、膝枕だった。

 だがただの膝枕ではなく、頭も撫でて欲しいという要望だったので俺は頭も撫でていると、紅羽先輩は気持ちよさそうに目を閉じている。

 …改めて見ても、本当に綺麗な人だ。

 俺がこんな綺麗な人に…告白されたのか、今でも信じられないが紛れもない現実、本当に幸せ者だと思う。


「あ、私今までは新くんと恋人でもなかったしこんな服着ちゃうと新くんの教育上良くないのかなって思って避けてたんだけど、実はこんな服来てきたんだ〜」


 紅羽先輩は上着を脱ぐと、その下に来ている服を見せた。

 その服は、いわゆるお腹を見せるタイプの服で、ダンスをしている人なんかがよく着ているイメージだ。

 …え?


「待ってください、こんな季節にその服装は…もし風邪になったりしたらどうするんですか!?」


「ならないよ!私健康にだけは自信があるの」


 そうは言われても心配だ…が。

 紅羽先輩は日頃からしっかりと運動とかトレーニングをしているからなのか、体が引き締まっていて、くびれなんかも絵に描いたようにできている。


「…でも、似合ってますね」


「本当!?やった!」


 恥ずかしくて直視はできないため、俺はすぐに目を逸らした。


「…あ」


「どうしたの?」


「今日はイヤリングもしてるんですね」


「そうなの!真珠のイヤリングね!」


 紅羽先輩は本当にオシャレな人で、ピアスは開けていないが、たまにイヤリングをつけてきたり、服なんかも見るもの全てが似合っている。

 何を着てもこんなに似合う人は少ないんじゃないだろうか。


「あ!して欲しいことって言えば私新くんにお洋服着せてあげたいんだよね!」


「服…?」


「そうそう、今までは新くんがオシャレなんてしちゃったらモテモテになっちゃうからって我慢してたんだけど、彼氏になったなら私の前だけで見せて欲しいなって思って!」


「モテモテにって…そんなことにはならな────」


 あっ…もしかして。


「バイトの時に俺が女性のお客さんと話すのを嫌がってたのって…」


「うん、新くんがモテちゃう可能性があるのと純粋に嫉妬しちゃうから」


 そこまで俺のことを想ってくれてたのか…

 だがそんなに心配しなくてもちょっと話しただけでモテたりするわけがないから気にしないで欲しいな。


「俺はそんなにモテないので安心してください」


「モテるよ!」


「モテないですって」


「モテるの!」


「…わかりました、だったら軽く検証してみましょう」


「…検証?」


「紅羽先輩、今からどこでも良いので一緒にデートに行きましょう」


「え…!?う、うん!」


 紅羽先輩は突然の申し出に驚いたようだが、それを快諾してくれた。

 こうして、俺がそんなに簡単にモテないということを証明する、なんだか複雑なデートが始まってしまった。

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