第27話 紅羽先輩、かっこいいです

「それにしても、異性なのに二人だけで旅行に行っちゃうくらい仲良いんだね」


「そうなんだよね!ほら、見てみて!」


 紅羽先輩は今回の旅行の間に撮っていた写真を姉さんに見せた。

 旅行といえばお土産と共に写真なんかもほとんど確定で入ると思うが、俺たちも例外ではなかった。


「…へぇ〜、二人でこんなに仲良さそうに写真なんて撮ったんだね」


「うん!で、こっちの写真なんかの新くんが超可愛くて────」


「それより可愛い新のアルバム写真があるけどね」


「…え?」


 姉さんが突然辺なところで張り合いだした。

 …百歩譲ってかっこいいということで競われるのであれば男名利というやつに尽きるのかもしれないが、可愛さで張り合い出されても嬉しいどころか恥ずかしいまである。


「…そうかな〜?どんな写真か知らないけど、この新くんは超可愛いと思うけどね〜」


「新のの写真だから、もちろん今の新も可愛いけど無垢な可愛さに限るなら幼少期の時の方がいいよ」


「…そんなことないし!今の新くんの方が無垢だし!そこまで言うならその写真見せてよ!!」


「そう言ってただ新の写真見たいだけだよね、バレバレだよ陽織さん」


「ほら!見せれないってことはそういうことだよね!」


「そんな挑発乗らないよ」


 …見た目はしっかりと綺麗な大学生な二人が、中身は本当に小学生みたいな会話をしている。

 …もしかすると、今の小学生はスマホを持っている人が多いからそう表現することも小学生に失礼に当たってしまうのかもしれない。


「…別に良いから!新くんの可愛さよりかっこいい写真私はいっぱい持ってるし!バイトしてる時の必死な顔とか!」


「え…」


 姉さんはその発言に少し反応した。

 …ていうか俺が必死にバイトしてる時にしれっと写真なんて撮らないでくれよ紅羽先輩!


「…へぇ、例えばどんな?」


「そっちこそそう言って見たいだけでしょ!見せないよ!」


「……」


「……」


 二人は目に見えない雷をぶつけているような空気感を作り上げている、なんだかんだで沈黙になるのが一番怖いため、ここは俺が二人を落ち着かせることにした。


「あの…紅羽先輩に姉さん?別に俺が可愛いとかかっこいいとこかで変に喧嘩しなくてもよくないかと思うんですけど…」


「よくないよ!私の方が絶対新くんのかっこいいところ知ってるし可愛いところも知ってるもん!」


「ううん、絶対私の方が知ってるよ、そもそも前のバイトで一緒だったってだけの陽織さんと違って、私は新が生まれた瞬間手を握ってたんだよ?どう考えたって私の方が新の色んな面を深く知ってるよ」


 本当に厄介なことになったな…紅羽先輩は紅羽先輩で意地になったらそうそう簡単に引くような人じゃないし、姉さんは姉さんでこう見えて負けず嫌いなところがあるから本当に厄介なことになってしまった。


「新くんのことは私の方がよく知ってるから!」


「私の方が知ってるし、人の弟勝手に奪わないでもらってもいい?」


「奪われるかどうか決めるのは新くんだし、それで結果的に今回の旅行みたいに奪っちゃったとしてもそれは仕方ないことだよね?」


「なんて言おうと、新は私の弟だから…そっちは?元バイト先の先輩ってだけだよね、バイトで繋がってるだけの関係に、とても私たちの間に割って入れるとは思えないんだけど」


 二人が何の話をしているのか全くわからない。

 これが難しい数学の話とか化学の話とか、はたまた古文の話とかなら俺が二人に及ぶわけがないので理解できないのはわかる。

 だが一応二人が言っている日本語の意味は理解できているのに、話の流れが全くわからないという、なんとも不思議な感覚に現在進行形で陥っている。


「そんなことないし!」


「じゃあ陽織さんは新の何なの?」


「私は、新くんの────……」


 回答を求められた紅羽先輩は、その続きを口にすることができなかった。

 …どうして先輩は何も答えないんだ?


「紅羽先輩、どうしたんですか?俺は先輩と一応仲良くさせてもらってる後輩って言えば────」


「違うの!それじゃダメなの、新くん」


「…え?」


 何が違うのか、何故ダメなのかはわからなかったが紅羽先輩の声から感じる凄まじい気迫がある。

 きっと紅羽先輩の中では本当に何かがダメ、なんだ。

 …どうして俺にはそれがわからないんだ?

 仮にも憧れの先輩として、ずっと見てきていたいのに。

 …どうしてだ?


「…とにかく、陽織さんは新の何者でもないってこと?一応新のって答えても良いんだよ?それで私と新の仲に割って入れるとは思えないけどね」


「姉さん、さっきからよくわかんないけど言い過ぎ────」


「いいの新くん、いくらでも言わせてあげる…だから、今はまだ新くんの何者でもないよ、新くんの先輩だなんて絶対に答えてあげない、もっと近い存在になるから!」


 紅羽先輩は晴れやかな笑顔でそう言うと、先輩も買っていたらしい小さな饅頭をポケットから出すと、それを姉さんに渡し、玄関の方に出た。


「長居しちゃ悪いし、今日はこれで帰るね、旅行で疲れたと思うから新くんもゆっくり休んで」


「あ、はい!紅羽先輩も!本当に今日は姉さんがすみませんでした!あと旅行楽しかったので…その、良かったら、また…行きましょう!」


 やばい、ちょっと照れて言葉が詰まってしまった。

 …が、そんなことを全くきにせずに紅羽先輩は玄関のドアの方から俺の方に振り返ってくれて。


「うん!またね!」


 一切曇りの無い笑顔でそう言った。

 そしてこの家を後にした。

 …本当に、かっこいい人だ。

 …それはそれとして、だ。


「姉さん!さっきのはどう考えたって紅羽先輩に失礼だ!!」


「えっ…だ、だって…!新のこと全然知らないくせにめっちゃ知ってるみたいな感じ出してくるし…!私にだって姉としてのプライドが────」


「そんなのどうでもいい!そこに正座してくれ!!」


 その後は紅羽先輩に対する態度について、俺が散々姉さんに説教した。

 …次に会う時は、仲良くして欲しいものだ。

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