第28話 明日真、俺の女友達だ

 三連休明けの学校での昼休み。

 明日真がいつも通り整った顔立ちで俺に話しかけてきた。


「天城くん、よかったら一緒に屋上でご飯でもどうだい?」


「あぁ、大丈夫だ」


 俺は明日真と屋上へ向かう。

 道中、俺になのか明日真になのかはわからないが、女子から好意的な視線で見つめられた。

 おそらくは明日真にだろうが、たまに俺に向けられている視線もあったような気はするが、きっと何かの間違いだろう。


「天城くんはいつもお弁当を食べているけど、自分で作っているのかな?」


「まさか、俺に毎朝お弁当を作るなんてできない、姉さんが作ってくれてるんだ、いつも」


「お姉さんが居るんだね、僕と同じだ」


「明日真にもお姉さんが居るのか」


「うん」


 なんていうたわいもない話をしながら、俺と明日真は二人で屋上のドア前に来た。

 屋上は人が居る時と居ない時で五分五分だが、今日は三連休明け。

 友達が居る人は屋上に行くよりも早く教室で話したいはずだ、だから今日は人が居ないはず。

 そう思いながらドアを開けたが…


「あれ…」


「先客だね」


 誰も居ないと思ったが、そうでもないらしい。

 奥の方を見てみると、女子生徒が一人で屋上にいるようだった。

 …それにしても、こんな時期に一人で屋上に居るなんて、よっぽどの変わり者じゃないと────ってあいつは!?


「今宵の空は…快晴なり、雲一つ無い空は悲しけり…あら、天城さん、ちょうど良いところに」


「明日真今すぐここから離れよう」


「え?とてもそうは見えないけど」


 先に屋上に居たのは、よく見てみると俺と別クラスではあるが、日陰ものは惹かれ合う運命にあるのか、図書室でたまたま仲良く…というか俺がほぼ一方的に話しかけられる形であの女子、紫雨むらさめみやびだった。

 見た目の特徴といえば、髪の毛が紫色なことと、読書中以外は常に竹刀を背負っていることだ。


「それに、何も個性が無い人よりそういう人の方が話していて楽しそうだし、初対面だからちょっと会話してみるよ」


 明日真は命知らずにも紫雨に近づいて話しかけた。


「紫雨さん、天城くんのお友達なのかな?よかったら僕とも軽くお話しして見ないかい?無理にってわけじゃないんだけどね」


「…立ち去れ、愚か者よ」


「…え?」


 紫雨はその綺麗な紫色の髪の毛を括っているポニーテールを揺らすほどの勢いで身振りを取ってそう言った。

 いきなり表情から声まで全てを変えた紫雨に、明日真は素直に驚いた様子だった。


「ここは戦場、死して尚生きながらえようとする魂の集い」


「…え?」


 明日真は録画映像をもう一度再生したかのように、全く同じ反応を取った。


「これでわかっただろ明日真、普通に話してる時は全然普通なんだが、全く入り方のわからないスイッチが入ったらいきなり古文なのか昔話なのかはわからないが、変なモードに入るんだ」


 見た目は美人なのに性格で損をしている、というのは明日真にも言えることだが、ハッキリ言って紫雨の場合はその比ではない。


「あはは、面白いね」


「面白くないだろ!」


 明日真は気に入ったらしい。


「…失礼、初対面の方がいらっしゃったので緊張してしまいました」


「今の緊張だったのか!?」


 お笑いで表現するならボケが多すぎてツッコミを入れきれないと言った状況になっている、俺が分身してあと五人くらいは欲しいところだ。


「それで…えっと、紫雨さん?は、天城くんとどういった友達なんだい?別クラスだしあんまり接点も無かったと思うんだけど」


「図書室で歴史コーナーに居ると、天城さんも歴史の本を熱心に探しておられたようで、その必死さに感銘を受けてというのが成り行きです」


「それは試験勉強のために探してただけだって」


「ですが、私が古の本を探している時手伝ってくれたじゃありませんか、そして三十分ほどかけて見つけてくださりました」


 事実ではあるがそれは俺本人がどうとも反応しづらいため、そこは沈黙しておいたが、明日真が余計なことを言う。


「流石天城くん、かっこいいね、それで紫雨さんは天城くんに恋愛しちゃったのかな?少女漫画みたいだね」


「れ、れ、恋愛!?そ、そのような感情では決してありません、そもそも恋愛というものは元来より愛し合っているもの同士でするもので愛し合って────」


「待て待て、そんな早口で否定すると変な空気になるから、こういう時は毅然としてれば良いんだ」


「────斬り捨て御免」


「…あぁ、もうそれでいい」


 さっきよりかは幾分かマシだ。

 明日真が隣で小さく笑っている、からかわれているみたいだ。


「天城くんのバイト先の先輩…陽織さんにも、ちゃんと報告しておいてあげないとね、心配してたみたいだし」


「や、やめてくれ!」


 紅羽先輩に言っても良いことに転がることは絶対に無い。


「…天城さんの、バイト?」


 特に何も伝えていない紫雨は、少し困惑した表情になっている。


「あれ、紫雨さんは知らないのかい?天城くんはどこでかは知らないけどバイトをしてるんだ、綺麗な女子大学生の人と一緒にね」


「綺麗な…女子大学生…天城さん」


「ん?」


「斬り捨て、御免!」


 紫雨はそう言うと、背中に背負っていた竹刀を取り出した。


「待て待て!なんでだ!?どういうことだ!」


「黙ってください!謀反は許しませんよ!!」


「だから何もしてないって!明日真も見てないで助けてくれ!」


「えっと…なんだっけ?…斬り捨て、御免?」


「明日真〜〜〜!」


 俺たちは昼休みが終わるまで誰も居ない屋上を走り回り、とにかく俺と紫雨が互いに頭を下げることで丸く収まった。


「…何も丸くない!」


 …とりあえず明日真は絶対に許さない。

 今日は夜にバイトがあるっていうのに…

 俺はなんとか放課後まで授業を受けて、家に帰りゆっくり休んでから時間になったので紅羽先輩も居るはずのバイト先に向かった。

 …少し、今日は紅羽先輩に癒しを求めてみよう。

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