第29話 紅羽先輩、魅力的です

「あぁ…」


「お疲れ様!昨日の朝ぶりだね!やっぱり三連休の旅行で疲れちゃった?」


 人が誰も居なくなってすることがなくなった時間、俺が疲れていることに気づいた紅羽先輩が気遣ってくれた。


「いえ!全然!旅行は本当に楽しかったです!疲れるなんてとんでも…」


「あれ、そうなの?でもなんか疲れた顔してない?」


「…実は────」


 俺は、今日昼休みにあったことを軽く話した。

 明日真と、もう一人の女友達と何故か軽い喧嘩になって走り回ったこと。

 高校生が走り回るなんてよくあること、なのかもしれないが普通に走り回るのと本気で竹刀で俺のことを斬ろうとしてくる人から逃げるというのは、全くの別物である。


「女子高生…新くんが前見た目は可愛いって言ってた…女子高生…私、女子大学生…新くん、男子高校生…私、女子大学生…はぁ」


 だがそれを聞いた紅羽先輩は、何故か病み気味になっていた。


「ど、どうしたんですか?」


「う、ううん、なんでもないの…そっか、それで疲れちゃったんだね!」


「はい…だから正直今日は紅羽先輩の元気な姿に癒されようと思ってバイトに来た節もあったりします」


 …え?

 …俺は何を言っているんだ!それは口に出すことじゃ無いだろ!心の中に留めておけ!

 俺はすぐに弁明を図ろうとしたがその前に、紅羽先輩が口を開いた。


「えっ…私の元気な姿で癒されてくれるの!?」


 今俺が弁明すると紅羽先輩が言っていることを否定するみたいになってしまうので、ここでは否定せずに紅羽先輩の言っていることを肯定することにした。


「はい、もちろんです、紅羽先輩の元気なところとか好きですから」


「え────え〜〜〜〜〜〜!?好き!?え!?え、え、え、え、え、え!?ま、待って、え!?げ、現実!?嘘!?どう、え!?」


 紅羽先輩が信じられないぐらい赤面になって動揺している。


「何驚いてるんですか、紅羽先輩の元気なところなんて多分みんな好きだと思いますよ?それが紅羽先輩の魅力の一つだと思いますから、紅羽先輩は多分自分で思ってるよりすごい魅力的な人ですよ!」


「待って、嘘、何、え?え?え!?どうなってるの!?幻!?」


 俺はおそらく紅羽先輩の周りに居る人なら誰しもが紅羽先輩に思っていることを口にしているだけなのに、紅羽先輩はそれを幻扱いしている。

 紅羽先輩にはもっと自分の魅力を知ってもらいたい。


「幻じゃないですって!全部本当のことです」


「あ、新くん…!わ、私今日死んでも悔い無いかも…!」


「え?死なないでくださいよ!?」


 俺がそう言うと、先輩は赤面していた顔から落ち着いた顔になると、声も落ち着いた状態になって口を開いた。


「あ…うん、そうだね、もし死ぬにしたってまだ死ねないね、悔い無いって言うのは…嘘、今死んじゃったら絶対後悔する…ねぇ新くん、ちょっと良い?」


「は、はい…?」


 俺は急な空気感の変動に少し動揺しながら紅羽先輩の言葉を聞いた。


「クリスマス…までは待てないから、私の誕生日の11月12日、よかったら一緒に過ごさない?」


「え…良いん、ですか?」


「うん…!むしろ、私からのお願い」


「わかりました、もちろん喜んで一緒させていただきます!」


 紅羽先輩も大学での友達とかが居るだろうけど、それでも俺と一緒に居てくれるというのはなんだか嬉しかった。

 もう片手全てで数えないくらいの日数で11月に入る、紅羽先輩の誕生日というのもあっという間だ。

 一応紅羽先輩の誕生日は知っていたから色々とプレゼントを考えていたが、またしっかりと考えないといけないな。


「紅羽先輩、今何か欲しいものとかあったりするんですか?別にプレゼントに選びたいから聞くんじゃなくて、ただの世間話なんですけど」


「あはは、新くん、そんなのじゃバレバレだよ…プレゼントは、新くんが来てくれるだけでいいの」


「え…?」


 紅羽先輩は優しさとかでそう言っているのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしいことが伝わってくる。

 本当にプレゼントは要らないようだ。


「あ、いらっしゃいませ〜!私お客さんの接客してくるね!」


 いつも通り笑顔で言うと、紅羽先輩は接客に向かった。


「…プレゼント、か」


 俺は少し考え事をしながら軽く仕事をし、時間になったので紅羽先輩と一緒にバイトを終了して駅まで一緒に帰った。

 そしてバイト終わり、紅羽先輩からメールが来た。


『あ!結局新くんのこと全然癒してあげられなかったから、よかったらハロウィンの日一緒に過ごさない?いっぱい一緒に楽しんで癒したりなんでもしてあげる!!』


 こんな風に誘われたらもちろん断れるわけがないし、俺もそうできたら良いなと密かに考えていたため先輩に是非とメールを送り、ハロウィンも先輩と一緒に過ごすことが決定した。

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