第15話 先輩、頼りにしてます

「新くん!リストアップしてきたよ!」


「何をですか…?」


 バイト休憩に入った途端、先輩がいきなり何かをリストアップしてきたと伝えてきた。


「前の話覚えてないの〜?はい!」


 先輩は首を傾げながら俺にタブレットを渡してきた。

 俺はそのタブレットの画面を見て何のリストかを納得した。


『キッチンバイト』

『オフィスの掃除や雑務』

『陽織紅羽に雇われる』

『化粧品の仕分け』

『観光名所近くの旅館雑務』

『ゲーム体験』


「あぁ…これ、前に言ってたバイトを辞めるって話の続きですか」


「そうそう!この中にあるのは全部接客業じゃなくて、かつ私と新くんの二人で一緒に行けるバイトなの!」


 その条件に適したバイトがこんなにもあるのか…

 キッチンバイトに関しては、前にやったことがあるから無難な選択肢と言えるが、またキッチンバイトをするのであれば引越し先で経験を得るためにと接客業のバイトを選んだ意味がなくなる。

 となるとやっぱりそれ以外が良いがその前に…


「あの…陽織紅羽に雇われるっていうのはなんですか…?一応確認なんですけど先輩の名前ですよね?」


「うん、そうだよ?」


「え…先輩に雇われるって、何するんですか?」


「私に色々とご奉仕してもらうの!内容は秘密ね!」


 先輩に雇われることだけは絶対に避けた方がいいな。

 となると他ので気になるのは…


「観光名所近くの旅館雑務っていうのは、なんか旅館とかも堪能できて楽しそうですね」


「あ!それ私も思ってリストに入れたの!でもこれは短期のバイトだからそんなに長くはできなくて、次の三連休だけなんだって」


「三連休…」


 試験が終わったばかりで学校的にも特に行事はないし、俺も特に個人的に忙しかったりするわけでもない。


「とりあえずで次の三連休旅行がてら、先輩の都合が空いてたらそのバイトしてみても良いかもしれないですね」


「余裕で空いてるよ!ていうか空いてなくても空けるよ!」


「あ、ありがとうございます、無理しないでくださいね?」


 そう注意しておくが、先輩はその言葉が聞こえていないかのようにもうすでにその三連休のことを考えているようだった。


「その旅館の場所っていうのが、ここから大体電車で二時間くらいの場所だからちょっと遠いけど大丈夫かな?」


「旅行のつもりで行くならそのくらいでも全然短いくらいだと思うので、大丈夫です」


 俺がそう答えると先輩は嬉しそうな顔をした。

 …やっぱり綺麗な人だ、こんな綺麗な人が俺にずっと付き添ってくれるなんて。

 本当に優し────って言っても怒られるんだった。

 …先輩は俺に尊敬も憧れもされたくないし、自分のことを優しくもないという。

 その理由が未だにわからない、この旅行中に何か聞けると良いんだが。


「って言っても、あくまでも本題はバイトだから、そっちもちゃんとやらないとね!二人で頑張ろ!」


「はい…!…旅館の雑務って、どんなことするんですか?」


「内容見た感じだと雑巾掛けとか盆栽の手入れとか…目ぼしいのはそれくらいだったよ!」


「盆栽の手入れ…!?」


 なんだその聞いただけでも難しそうなものは。


「あ、でも雑務って言われるくらいだからそんなに難しくないと思うよ、多分本格的に何か手入れするんじゃなくて、ちょっと触るくらいだと思うから」


「なるほど…」


「もし新くんができなくても!その時は私がやってあげるから、絶対私のこと呼んでね!」


「わかりました、頼りにしてます先輩」


「うん!…一応言っとくけど、私が忙しそうだからって他の人に頼んじゃダメだよ、ちゃんと私のこと呼んでね」


「は、はい、わかりました」


 先輩から正体不明の圧を受けたが、気にすることはないか。


「そうだ新くん、前に言ってた試験のご褒美、あげるね!」


「そんな、先輩にもたくさん教えていただいたのでご褒美なんて────」


 俺がご褒美なんて大丈夫ですと遠慮しようとするのを気にも止めずに、先輩は突然驚きの行動に出た。


「…え、え?」


「よく頑張ったね〜!」


 そう言いながら先輩は俺に抱きついてきた。

 …え?

 いや…いくらなんでも過剰なスキンシップすぎないか!?今まででもこんなことされたことがない。


「あ、あの…」


「嫌だった…?」


「そ、そういうわけじゃないんですけど…」


「…じゃあ、良いよね」


 先輩はそれから少しの間だけ俺のことを抱きしめ続けた。

 …正直、嬉しいと思って良いのかどうかすらわからない、どういった感情を抱けば良いんだ?

 …先輩は、今どんな感情を抱いているんだろうか。

 バイトの休憩時間が終わったと同時に、先輩は俺から離れると、いつもの調子でバイトを再開した。


「…よし、俺もバイトを頑張るか」


 バイト後半、少し先輩の様子がおかしかったような気もするが、特に何も大きなことはなくバイトは終了し、俺は家に帰った。

 …そういえば、次の三連休の前に、俺にとってちょっとしたイベント事がある。

 試験頑張ったことを祝して、クラスの何人かでカラオケに行くそうで、次は断らないと言ったから俺もそこに参加することになっている。

 …とにかく場の雰囲気を壊さないことだけに注力しよう。

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