第16話 先輩、俺の男友達です
放課後。
「じゃあ…テストお疲れ様を祝して、カラオケに遊びに行こ〜!」
「おぉ〜!」
何人かと聞いていたが、見た感じクラスの半分くらいはいる。
…確かにクラスまるまると比べると人数は少ないにしろ、何人かと一緒に行くという表現にしてはかなり多いような気がする。
「…今からでも帰った方がいいか」
俺がそう小さく呟くと、隣の男子生徒。
席が近いからという理由と、この全体的に仲の良いクラスでは珍しいぼっち同士ということで話し始めるようになった…
「でも、前教室に居る時次は断らないって言ってたんだよね、だったら次は断らない方がいいんじゃないかな?それに、せっかくのイベントごとなんだし参加しないのは損だよ」
明日真司は一言で言うなら、美形少年で、特徴といえばその中性的な顔に綺麗な銀髪だろうか。
美形なのに高身長で、今俺のことを引き止めてくれたみたいに配慮もできる、これだけ聞くとただの良い友達だ。
「え、明日真くんも参加するの…?」
「初めてじゃない…?」
周りからそんな声が聞こえてくる。
「今までは参加してなかったのか?」
「うん、特に楽しそうじゃなかったからね、表面だけを取り繕うだけのイベントなんて、興味ないんだ」
「そ、そうか」
ただ…俺が先輩に対して男友達も女友達も変な人だと紹介した理由は、この明日真の正直さ…なんて表現をしていいのかわからないが、物事に対して特に嘘をつかないところにある。
例えば俺が初めて明日真と会話した時に言われたのは「君友達居ないんだね、暇つぶしに僕と会話なんてどうかな?ただの時間潰しだから、そう身構えないで」と言われた。
第一印象は良くなかったが、話しているうちにただ良くも悪くも嘘をつけないんだということがわかった。
「どうして今回は参加する気になったんだ?」
「君が参加するなら、何か面白いことになるかもしれないと思ってね、君には分からないだろうけど、君という異質な存在がクラスに入ってから、少しだけこのクラスの雰囲気は変わったんだ」
「そうなのか…」
俺は特に干渉していないつもりだったが、やはり転校生が来たとあれば何かしら空気も変わってしまうものなんだろうか。
「まぁ、そんなに気負うことないよ、彼らにしてみれば普段から数多くあるうちの楽しみごとの一つなんだ、僕たちも適度に楽しもう」
「あぁ、そうだな」
そうして俺は人生で初めての、放課後約二十人で校門を出た。
こんな大人数で移動するなんて、遠足でも無い限り俺の人生ではなかったな。
「…って、あれ?」
校門前にはいつかのように、先輩が立っていた。
俺のことを待っていてくれた…?
でもおかしい、先輩には一応昨日の夜に話の成り行きで俺がクラスのみんなと出かけるということは伝えてあった。
なのに待っているっていうのは…どういうことだ?
校門を抜けてカラオケに向かう最中でも、先輩は後ろからついてきてはいるものの特にこちらに干渉しようとしてきている感じはしない。
「ただついてきてるだけなのか…?」
だとしてもそれはそれで意味がわからないが、きっと俺には理解できない何かしらの理由があるんだろうな。
などと考えていると、女子生徒から声がかかった。
「あと三分くらいで着くよ〜!みんな飲みたい飲み物とか食べたいものとか考えといてね〜!」
「はーい!」
飲み物…無難にお茶とかにしておこう。
「僕はコーヒーにしておこうかな」
「コーヒー…飲めるのか?」
「うん、ブラックだけね」
「ブラック…だけ?」
「ブラックじゃないコーヒーは、コーヒーじゃない感じがして気が進まないんだ、一応飲むことはできると思うけどね」
明日真なりに何かしらこだわりを持っているようだ。
軽く雑談をしていると、俺たちはカラオケに着いた。
カラオケの部屋は、もうすでに予約していたのか、この大人数で入ってもまだ余裕があるくらいには広い部屋だった。
そして各々飲み物を手に取ると…
「じゃあ、試験終了を祝して…かんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」
みんなそれぞれグラスとグラスを合わせている。
「僕たちもやるかい?」
「そんな暑そうなコーヒーと乾杯っていうのもなんか違う気がする」
「ははっ、君との会話は取り繕う必要が一切ないから楽しいね」
明日真は楽しんでくれているようだ。
「そういえば、このイベントは、君が前回参加しなかったからと延期になっていたみたいだね」
「そうだったのか!?」
それは本当に申し訳ない…後で誰かに謝っておこう。
それからしばらく、俺たちは特に歌ったりはしなかったが、他の人たちが歌ったりなんなりしている間に、俺は飲み物を飲みすぎたのか、トイレに行きたくなってしまった。
「悪い、ちょっとトイレに行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
俺は笑顔で手を振ってくれる明日真に背を向けて、部屋から出た。
「はぁ…やっぱりああいうノリは疲れるな」
「やっぱり新くんは私とお出かけが一番だね」
「せ、先輩!?」
「来ちゃった〜」
どうして先輩が…途中から後ろを気にしてなかったけど、もしかしてあのままずっと着いてきてたのか!?
「何しに来たんですか!?」
「新くんのこと、見に来たの」
「見に来たって…別に仕事しに行くわけじゃなかったんですけど」
「そうじゃなくて、新くんのクラスメイトはどんな子達なのかなって思ってね」
「そんな理由だけで!?」
やっぱり先輩は所々異常なところがある。
…それは俺と一緒に引っ越してきた時にはもうすでにわかっていたことではあるが。
「うん…それにしても、やっぱり高校生は若いって感じがして良いね、新くんかっこいいし、言い寄られたりもするんじゃない?」
「しないですよ」
ていうか若いって意味では先輩だってまだ大学二年生なのに、何を言っているんだ。
「天城くん?トイレに行ったんじゃなかったかな」
「あ」
ドリンクバーにまたコーヒーを入れようとしていたのか、明日真が空のコーヒーカップを手にトイレに向かう道中だった俺のところに来た。
横を見てみると、確かにここはちょうどドリンクバーの前だ。
「あれ、そっちの方は?僕の知る限りだとクラスには居ない人だと思うんだけど」
「あぁ、この人は────」
「新くんのバイト先の先輩でーす、よろしくね!」
先輩はいつも通り笑顔で対応している。
「バイト先の先輩…天城くん、バイトなんてしてたんだ」
「あぁ、実はそうなんだ」
「…で、この人がそのバイトの先輩なんだ」
「うん!そうだよー?新くん、そっちの子は?」
「あ、この人が俺が前に言ってた学校の友達です」
友達と言って良いのかわからないが、俺はここで一応明言しておく。
少しだけ明日真の方を見てみるが、特に何も気にしていない様子だった。
「新くんは、学校だとどんな感じかな?」
「僕と話してくれていますけど、クラス内でのそれ以外の交友関係は今のところ無いと思いますよ」
「ちょっ…!そんなことハッキリ…!」
「何かいけなかったかな?」
明日真は真顔で聞いてくる。
…あぁ、本当にやりずらい。
「…クラス内では君だけなんだ、女の子のお友達とかは?」
「どうでしょう…女子生徒数名に言い寄られているところは何度か見ましたけど、それ以外は特に、友達というと違うと思いますよ」
「…ん?」
先輩は今の明日真の話に疑問を持ったようだ。
「…新くん、さっき言い寄られてないって言ってたよね?」
先輩が怖い目をしている。
「う、嘘じゃないですよ!?言い方が悪いです、話しかけられたことはありますけど言い寄られてはいません」
「ごめん、僕の表現が悪かったかな、喋りかけられているところを見ただけなんだけど、遠目から見たらそう見えたんだ」
「やめろ!その表現のせいで俺が色々と危ないことになるだろ!」
「あはは」
あはは、じゃない。
だが先輩は一旦納得したのか、怖い目から普段の目になった。
「…それで、あなたの名前は?」
明日真が先輩の名前を聞いている。
「あ、私
「陽織さん…うん、よろしくお願いします」
なんだか二人がよろしくしている。
別に構わないが、あまり良い予感がしない。
「新くんのその女の子のお友達っていうのは、別のクラスの子なのかな?」
「はい、そうです」
「…どうして陽織さんは天城くんの人間関係を聞き出そうとしているんですか?何か裏でも?」
「え、えぇっ!?べべ、別に!?先輩として、もし何か悩んでたりしたら聞いてあげようかなって!」
「そうだ明日真、先輩は優しいから俺のことを常に気にかけてくれているんだ」
俺は優しいという単語を使ってしまったことに一瞬しまった…と思ったが、先輩は何故か顔を覆っていてそれどころではないようだったから一安心だ。
「…優しい?僕にはとてもそれだけには見えないけど」
「…え?」
俺が疑問を持つと同時に、先輩も顔を覆うのをやめて、明日真の方を見た。
「何を疑問に思ってるのか知らないけど、陽織さんの反応を見れば、君に好意を抱いて────」
「わあああああ〜!!」
「うわっ!?」
先輩は突然大声を出した。
「ど、どうしたんですか?」
「う、ううん?」
先輩は俺には表情が見えない角度で、明日真だけと向き合うと言った。
「それより明日真くん…私が言いたいこと、君なら言わなくてもわかるよね」
「…はい、もちろん、日々の心中お察しします」
明日真は何故か先輩のことを労っている。
「少なくとも僕から言えるのは、クラス内では陽織さんが心配するようなことはまだ起きてないということだけです…天城くん、そろそろトイレに向かったらどうだい?」
「あ、そうだった…!」
二人がなんの話をしているのかよくわからなかったが、俺はとにかくトイレに向かった。
これからはまた先輩と明日真が話す機会なんかも、少しだけあるのかもしれないな。
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