第47話 紅羽先輩、紫雨と対決です

 文化祭の翌日、12月初日。

 紫雨との待ち合わせに向かうために俺と紅羽先輩は一緒に行動していた。


「…紅羽先輩?」


「どうしたの〜?」


「もちろん一緒に行動するのは構わないしむしろその方が嬉しくはあるんですけど…どうして腕を組んでるんですか?」


「え〜、腕くらい組んでもよくない?…それとも新くん照れてるの〜?」


「照れて無いですよ!」


 紅羽先輩は今日に限って見せつけるようにして腕を組んでいる…勝手な推察ではあるが、おそらく紫雨に何か対抗心のようなものを燃やしているんだろう。

 …俺は照れていない、断じて照れていない。

 自分にそう言い聞かせながら、そのまま紫雨との待ち合わせ場所に向かった。


「…こんにちは、天城さん」


 すると、そこにはもうすでに紫雨が立っていた。


「紫雨!?もう居たのか、待ち合わせまであと五分はあるのに…」


「いえ、今来たところなので、情けは不要です」


「な、情け…?」


 よくわからないがとにかく気にしなくて良いという紫雨なりのフォローを入れてくれたんだろうと解釈しよう。


「紫雨ちゃんこんにちはー」


「あなたに挨拶される筋合いはありません」


「えー!なんで私にはそんなに辛辣なの!?」


「恥じることもなく天城さんの腕に自分の腕を絡めるなんて…」


 紫雨は心底軽蔑しているような目で見ている。

 時代が時代で紫雨が刀を持っていたら平気で抜刀していそうな空気だ。

 俺はその空気を変えるべく、紫雨に疑問を提唱する。


「素朴な疑問なんだが、どうして紫雨は制服なんだ?今日は文化祭終わりで休日のはずだろ?」


「細かいところまで気づいてくださるとは、流石天城さんです」


「休日にまで制服だったら誰でも気づく」


「だとしても、私は嬉しいのです」


 紫雨は何故か嬉しそうな顔をしている。

 …別に褒めたわけでも無いのに、何がそんなに嬉しいんだろうか。


「ねぇねぇ、今日は私が新くんに相応しいかを見定めるための会なんだよね?」


「はい、その通りです…今のところ全く相応しくありません」


「あははっ、酷いな〜」


 紅羽先輩は笑っているが、紫雨は全くふざけている様子は無い。


「…それで、見定めるって言っても何をするんだ?まさか紫雨の前に普通にデートをしてくれなんて言うんじゃ無いよな?」


 そんなの恥ずかしすぎて絶対にできない。


「もちろん、私もそんな光景は見たくありません、となれば私たちが向かうべき場所は一つです」


 俺と紅羽先輩は紫雨について行くようにして足を進めた。

 紫雨が向かっていた場所は…


「────スポーツ施設!?」


「はい、やはり天城さんの恋人だと主張するのであれば、武を示してもらわねば困ります、それが戦の世の常です」


 スポーツ施設に困惑しながら紫雨の発言にも困惑し、ただただ全てに困惑している俺の隣で、紅羽先輩は…


「スポーツ!?やったー!」


 嬉しそうにしていた。

 …そうか、紅羽先輩はスポーツが得意だって言ってたな。


「新くんには私が運動してるところなんて見せる機会滅多にないし、私のかっこいいところ見せちゃうね!」


「かっこいいところ…はい!頑張ってくださ────」


「…いいえ、天城さんにかっこいいところを見せるのは私です」


 …え?


「…へぇ、私に勝つつもりなんだ?どの競技でもいいよ?どれでも負けないし、あ、でも先月成人した私が未成年の女の子に本気っていうのも可哀想だし、ハンデしてあげよっか?」


「不要です、その余裕をすぐにでも無くして差し上げるのが我が無常」


 全員で一緒にスポーツ施設に入ると、紫雨は案内を見てからしたい競技はもう決めていると言うように一直線に歩いた。

 そして…


「テニスコート?」


「はい、私はテニスが良いですが、あなたはどうですか?」


「もちろん!良いよ!テニス大得意!」


 どの競技をするかということでは特に喧嘩にならず、互いにラケットを持って紅羽先輩のサーブから始まることになった。

 紫雨はいつもは特に括ったりしていないが、スポーツをするということで髪をポニーテールにした。


「準備は良い〜?」


「はい、問題ありません」


「じゃあ…紫雨ちゃんのお手並み拝見!」


 紅羽先輩はとても早いサーブを繰り出した。

 …が、紫雨はそれに対応し、それを打ち返しながら言う。


「そもそも、あなたは誰なんですかっ…!」


 紫雨もかなり運動能力が高いらしく、とても早いサーブで打ち返して見せた、だが紅羽先輩も当たり前のようにそれに対応している。


「新くんの、恋人だけど…!」


 それからはしばらく同じようにラリーが続けられた。


「どうして、そのようなことに…!」


「私が、告白したの…!」


「思った通り、です…!」


「私は、告白したの!!」


 紅羽先輩は今までよりも力強くテニスボールを返し、紅羽先輩が一点を取る形になった。

 次は紫雨のサーブボールだが、紫雨の顔つきが、今までとは違っていた。

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