第24話 先輩、思ったことないです

 先輩は一度ここから見える夜空を見てから、先輩はその神妙な面持ちと共に口を開いた。


「新くん…そろそろ、彼女欲しいとか思ったりしない?」


「…え?」


 何を言われるのかと思えば、高校生や大学生ならありきたりな話題で、俺は少し驚いた。

 …何か重たい話でもあるのかと少し覚悟していたが、案外そうでもないのか?

 俺は先輩の方を見つつもできるだけ変な意識はしないように話す。


「彼女…好きな人でもできれば良いんですけど、そんなに女の人と話す機会とかもないので多分高校ではできないんじゃないかと思ってます」


「別に高校じゃなくたって…できるかどうかじゃなくて、もし絶対にできるんだったら、欲しいと思うの?」


「え、絶対に…?まぁ…それが、俺が好きだと思える人なら、思う、かもしれないです」


 俺は何を言っているんだ。

 ていうか先輩はいつまでその神妙な面持ちでこんなことを話しているんだ、明るい感じに話そうにも先輩がそんな感じだと俺が困る。

 今はお風呂に浸かってる最中だし、話題も話題なため変な熱さを感じてきた。


「どんな人がタイプなの?…やっぱり、綺麗でお淑やかで高嶺の花みたいな子が好きだったりするの?」


「そ、そんなことないですよ!明るくて元気があって優しくてかっこいいところもあったりして、引っ張ってくれたりする人が良いです」


 俺は俺の好みの人を先輩に想いのまま伝える。


「そっか…新くんから見て、私はどういう女の子?」


「え、え!?先輩のこと女の子、なんて思ったことないですよ!」


「…それ、どういう意味?私ってそんなに女の子としての魅力ないのかな?」


 先輩はより一層暗い表情になった。

 変な誤解を生んでしまった、すぐに弁解しないと。


「ち、違いますよ!そうじゃなくて、先輩のことは女の子っていうよりは、女の人っていう見方をしてたんです」


「じゃあ女の子っていう見方をした場合、私は新くんから見てどういう感じの女の子に見えてるのか教えてよ」


「えぇ…それは、明るくて元気があって優しくて勉強もできてかっこいいところもあって、俺のことをいつも引っ張ってくれる女の子…?じゃないですか?」


 先輩のことを女の子と表現するのはなんだか違和感しかないが、俺の先輩に対する女の子としての印象を伝えるのであればこんなところだ。


「えっ…」


 だが、それを聞いた先輩の反応は、何故か驚いているような表情をしていた。

 …先輩は周りから自分がどう見られているかわかっていないんだろうか、きっと俺が今抱いた印象は、俺以外の先輩に関わってきた大半の人たちは同じことを思っている。


「言っときますけど、お世辞で褒めたんじゃなくて、本当にそう思ってるんです」


「…あ、ありがと」


 先輩は何故か赤面している。

 …どうしてただ褒めただけでそんなにも恥ずかしがっているんだ、今までだって何度だって褒めてきているのに、どうして今回だけ…?

 俺は疑問もあるが話題を変えた方がいいと思ったため、話題を変えてみる。


「ここのお風呂は本当に良いですね、プライベートな空間で」


「…二人きり、だね」


「え…そ、そうですね」


 話題を変えたつもりが結局なんだか変な空気になってしまった。

 二人きりとか、初めてとか、偶然なんだろうが変なことを意識させるワードが頻繁に続出してなんだか本当に変なことを考えてしまいそうだ。


「そういえば…明日真くん、だっけ?カラオケで私が会った新くんのお友達、あの子とは仲良くできてるの?」


「はい、一応」


「面白い子だよね、うん、新くんにピッタリな子だよね!洞察力もすごいみたいだし、ちょっと性格は変わってるかもしれないけど」


「そうですね、ちょっと変わって…え、洞察力?」


 先輩と明日真の会話で洞察力を示しそうな会話なんてあったか…?

 もしあのカラオケ以外で会っていないなら俺は先輩と明日真の会話を全て聞いているはずなんだが。


「こんなにずっと一緒に居る新くんが気づいてくれないのに、一目見ただけで明日真くんは気づいてくれてたよー?まぁ普通は一目じゃ気づかないからあの子がすごいってことなんだろうけど、それでも新くんは気づかなさすぎなんじゃないかなー?」


「なんですかそれ、ネイル変えたとか?」


「違うよ〜」


「髪の毛切ったとか!」


「ぶー」


「こ、これ以上のことに気付くのは逆にアウトなんじゃないですか…?」


 これ以上はプライベートなことで他人に、それも異性に気付かれるなんていうのは良くないことではないんだろうか。


「…うん、そうだよね、だから新くんには気づいてもらうんじゃなくて、伝えることにしたの、いつまでも足踏みはしてられないからね」


「…伝える?」


 それを言った先輩の表情は、何かを決意したような、人生で何か大事なことを行うときのような表情だった。

 表情だけじゃない、空気までもが先輩の何かの決意を伝えさせてくる。

 …なんだ?


「新くん、よく聞いてね」


「はい」


「私…新くんのことが…いてたり…その…」


「俺を…いてる?」


 先輩は小声で俺のことを空いてると言ってきたかと思えば、今度は急激に顔を赤くして水飛沫を立てるくらいの勢いで立ち上がり口を開いた。


「だから!新くんのことが好────」


 先輩が勢いよく立ち上がったことで、アニメみたいなことが起きた。

 タオルの結びが甘かったのか、はたまた勢いよく立ち上がったせいなのかはわからない。

 だが…確実に、俺の視界に先輩がタオルで覆っていた二つの大きくて柔らかそうなものが見えてしまった。

 

「えっ…きゃああああああっ!」


 先輩は咄嗟に水の中に体を沈めた。


「み、見た!?見えてないよね!?」


「は、は、はい、も、もち…ろんで、す!」


「その反応絶対見えたよね?見えちゃってたよね!?忘れて!忘れて!!」


 先輩は俺に忘れてと言いながら俺の肩を揺らす。

 忘れる、忘れる…たった一瞬の記憶だし、他の記憶で上書きすれば忘れられる…はずがない!

 一度見えてしまったものはしょうがないし、ていうか────あれ、揺らされてるからだと思ったけど、おそらくは話題が熱くなる話題だったのとお風呂に浸かっていたということもあって、俺は…


「────え、新くん!?」


「……」


「嘘、のぼせちゃった!?待って!まだ言えてないんだって!新くん!聞いて!私新くんのことが好き!好きだよ!もちろん恋愛的な意味でね!新くん?…新くん〜!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る