第23話 先輩、恋人みたいです
その後俺と先輩はそのドアの先にあった脱衣所で各々お風呂に入れるような格好になると、本当に一緒にお風呂のドアを開けてまずはシャワーを浴びることになった。
もちろんお風呂に入れるような格好というのは裸になったというわけではなく、タオルを巻いたりということだ。
俺は沈黙が辛いため少し話題を振ることにしてみた。
「へ、部屋付きのお風呂って言っても結構広いんですね〜てっきり家のお風呂よりちょっと広いくらいだと思ってたので驚いちゃいましたよ」
「そうだよね!…私は昨日ここで一人寂しく入ってたんだけどね」
「……」
…気まずい!
話題の振り方を間違えてしまった…
「そうだ、体を洗うならタオルは取らないといけないと思うので、体洗うときはちょっと距離とりましょう、流石にシャワーは一つしかないみたいなので交代になると思います」
「別に、私は…距離なんて、取らなくても…いいけど…ね?」
「…え?」
先輩は小声でそんなことを言った。
小声と言っても近い距離だったしシャワーもまだつけていないため俺の耳には先輩がなんて言ったかがしっかりと聞こえてきた。
「きょ、距離を近づけるために一緒にお風呂に入ってるんだし!そんなところで距離なんて取ってたら本末転倒じゃない…?」
「これは距離取るとかじゃなくて!普通にプライバシーの問題っていうか…これはどっちかっていうと先輩のために言ってたりするんですけど…」
「私からお風呂に誘ったのにそんなこと気にするわけないじゃん!」
「それとこれとは別問題じゃないですか!」
「別問題じゃないよ!」
「別問題です!」
どうして俺が色々と大事なことを気にしてるっていうのに先輩は全然それを気にしてないんだ…?
「と、とにかく!距離を縮めたいって話なんだし背中くらい流させてよ!」
「せ、背中…それくらいなら…」
…というか冷静に考えて美人な女子大学生の先輩と二人で旅行して二人でお風呂に入ってる状況ってどうなってるんだ。
俺は今の状況に改めて疑問を感じつつも、シャワー前にある椅子に座った。
先輩は石鹸を手に取るとそれを泡立てて、本当に俺の背中を洗い始めた。
「よいしょ、よいしょ…新くん、痛くない?」
「あ、全然大丈夫です、ありがとうございます」
「そっか…!…男の子とお風呂に入るのも、背中を洗ってあげるのも初めてだからよくわからなくて…」
先輩が俺の部屋に来た時、男子の部屋に来たのは俺が初めてだということを言っていた時点でなんとなくそのことはわかっていたが、改めてそう言われるとなんだか緊張とともに申し訳なさが出てくる。
「…先輩、本当に一緒に部屋に入るのとか、お風呂とかも初の異性の相手が俺でよかったんですか?」
「…え?」
「先輩なら、それこそもっとモデルみたいな人が相手でも────いたっ」
俺がそう言った瞬間突如俺は背中が痛くなった。
もちろんその背中というのは、今先輩が洗ってくれている背中のことだ。
「せ、先輩!?」
俺は急な痛みを感じたので後ろを振り向くと、先輩がいつか見たすごい剣幕の表情になっていた。
「何それ新くん、私が新くん以外の男になんてあるわけないじゃん」
「お、男…?え、先輩?」
普段先輩は男性であれ女性であれ、基本的に男の子だったり女の子とかって呼んでるのに…聞き間違いか?
というか先輩の声が暗い。
「新くんは私がこれだけ言ってるのに、私の中で新くんがどんな存在なのか、その足元すらわかってくれないんだね」
先輩は俺の頬を軽くつねっている。
軽くとは言ってもつねられたら普通に痛い。
「ちょ、い、痛いですよ」
「新くん、今私とこうしてお風呂に一緒に入ったり、旅行に来たりしてることを君はどう思ってるの?」
「どうって…」
もちろん先輩と一緒に出かけられるなんてすごいことだと思ってるし、俺なんかが先輩のことをこんなにも長時間独占…?なんて言い方はちょっと気持ち悪いかもしれないけど、そんなことをしていいのかと常々疑問には思う。
「それは…正直、なんか、恋人みたいなことしてて申し訳ないような────」
「こ、恋人…!そ、そうは思ってくれてるんだ!?ぜ、全然申し訳なくないよ!むしろさ、その…きょ、距離を縮めるって、そういうことなんじゃないかな、とかって、思ったり…?」
「いや…そ、そういうことじゃないですよ!?俺のことからかうのやめてくださいよ!」
「…からかってるように、聞こえちゃうんだね」
「…え?」
その後はただ黙々と互いに体を洗うと、一緒に外気浴のお風呂に浸かることにした。
…先輩は、これから何か大事なことを話そうとしているのか、ずっと神妙な面持ちだった。
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