第22話 先輩、動揺してます

「あ、見て新くん!お寺だよ!」


「新くん!あれ大仏かな?」


「あ!大きな鳥居があるよ!」


 その後俺たちは夜までかけて観光名所と呼ばれるところを楽しんだ。

 初めてきたがやっぱり観光名所と呼ばれるだけあって本当に良いところだ、歩いているだけで楽しい。

 また…来たいな。


「新くん、そろそろ夜だし、旅館戻らないとだね」


「あ、はい!そうですね!」


 名残惜しいが、そろそろ旅館に戻らないといけない時間だ。


「…また、来ようね、二人で」


「え…はい!」


 俺は先輩からまた来ようと誘われ、俺としても今ちょうどまた来たいと思っていたところだったので願ってもないとそれを承諾した。

 …が、先輩の反応は俺の想像とは違った。


「え…また、一緒に来てくれるの?…二人、で」


「え?はい、もちろんですよ!」


 先輩から誘ってきたのに…どういうことだ?

 …あ。


「も、もしかして社交辞令でとりあえず言った的な感じで本気じゃなかったとかですか!?な、なら全然大丈夫です!すいませんそのまま受け取っちゃ────」


「ち、違うよ!そうじゃなくて!また私と一緒に来てくれるって…嬉しいなって、思って」


「先輩からのお誘いを俺が断るわけないじゃないですか」


「え…?そう、なんだ…ありがと…」


 先輩は珍しく下を向いた。

 …そろそろ戻らないとまずい。


「そろそろご飯の時間だと思いますし、早く戻りましょう」


「あ…うん、そうだね!」


 俺と先輩は急いで旅館まで戻ると、昨日とは料理の種類は違うがそれでも豪勢なことには変わりない料理が出てきた。

 …美味しい。


「先輩は、今日も部屋のお風呂────」


「あ、あのね!その…お風呂についてなんだけど!」


「え?はい」


 先輩が一度お箸を止めて何かを話そうという雰囲気を作ったので、俺も一度お箸を止めて先輩と顔を向け合うことにした。


「その…ね、昨日も、本当はこうやって言うつもりだったんだけど…」


「はい…?」


「よか…ったら、せっかく、お部屋にお風呂が付いてるところなんだし、その…私と、一緒になんて、どうかな〜、な、なんて?思ったり?」


「…え?」


 せっかく部屋にお風呂がついてる…っていうのはわかる、せっかく部屋にお風呂が付いてるようなすごい部屋なんだし、そのお風呂に入らないのはもったいない、それならわかる。

 が、私と…一緒にって、なんだ?

 もしかして…先輩と一緒にお風呂にってことなのか!?


「あ、え、一緒にって…いう、のは?」


 俺はわかりやすく動揺が声に出てしまう。

 …これは動揺してしまっても仕方ない、だって、先輩は女の人で俺は男なわけで。

 いくら…目に見えない距離を近づけるには見える距離を近づけないととは言っていたがお風呂に一緒に入るっていうのは、近づくという範疇を超えてるんじゃないか?


「も、もちろん別に服を全く着ずにとかじゃなくて、ただ…そう!裸の付き合い?っていう言葉もあるよね?昔の人たちはそうやって仲を深めたっていうのでその言葉が現代まで何かしらの形で引き継がれてるわけだし、だから私たちももっと仲を深めるためにはそれくらい思い切ったことした方がいいかな〜って」


 先輩はものすごく動揺しているように見える。

 …きっと俺と仲良くするために考えてくれたんだろうが。


「先輩もめちゃくちゃテンパってるじゃないですか、俺と仲良くなれる方法を探そうとしてくれた末に出した結論だと思いますけど、別に無理して一緒にお風呂になんて入らなくても仲良く────」


「む、無理じゃないよ!確かにちょっとテンパっちゃってるけど、それは無理してとかじゃなくて!と、とにかく!無理してじゃないってことを証明するためにも!私と一緒に、お風呂入ろ!せっかくの旅館なんだし!!」


「えっ、せ、先輩!?」


 先輩は俺の荷物を無理やり俺に持たせると、俺のことを無理やりその部屋についているお風呂へと続くだろうドアを開けてその中に連れ込んだ。

 …裸の付き合い?

 …こんなことは当然だが先輩と今まで過ごしてきた中でイレギュラーだ、何が起こるのかもはや誰にも予想できない。

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