第35話 紅羽先輩、姉さん、仲良くしてください

 俺は一旦姉さんに落ち着いてもらうために二人に椅子に座ってもらい、俺は二人にお茶の入ったコップを持って行った。


「新くんがせっかく淹れてくれたんだし、お茶でも飲んで落ち着いてよ」


「……」


 姉さんはひとまず俺が淹れたお茶を飲んだ。


「ど?落ち着いた?」


「落ち着くわけないでしょ!新のか、彼女になったってどういうこと!?私の許可取ってないし!そんなの無効!!」


「姉さん、俺だってもう高校生なんだし、そんなに心配しなくても────」


「心配してるんじゃなくて!新は私のなの!」


「…え?」


 姉さんは紅羽先輩がいるにも関わらず、子供みたいに俺に抱きついてきた。

 …というか、俺の前でもこんなに子供な姿を見せるのは本当に珍しい。


「新はずっと私と一緒だったの!それがバイト先の女の先輩とかいう人の話ばっかりするからわざわざバイトをやめてもらうために引っ越しまでしたのに!」


「…は!?」


「…え」


 姉さんは衝撃の事実をその勢いのままに発した。

 …俺がバイトを辞める原因になった姉さんの引っ越しは進路のためだと聞いていたが、進路のためではなくて俺にバイトを辞めさせる為だったのか?

 …一度紅羽先輩と本当に縁を切るまではいかないまでも、もう会えない可能性だってあるという覚悟までしていたのに。


「それなのに────」


「…お姉さん、ちょっといい?」


「言いたいことなら私にだってあるんだけど」


「うん、言いたいことは一つだけだから」


 紅羽先輩は椅子から立ち上がると、座っている姉さんの隣に立って、姉さんに顔を近づけて言った。


「私はあと一歩で新くんと長い間会えなくなるところだったんだよ?…それって要は、私から人生の生き甲斐を奪うのと同じこと、そんな理由で私から生き甲斐を奪おうとしたってこと自覚してもらっても良い?」


 紅羽先輩がどんな顔でその言葉を言っているのか俺には見えなかったが、声はとてつもなく重たい。


「そんな理由って…私にとってはそんな理由じゃ済まない、もちろん新がバイトしたいって言った時は新もそろそろそんな年頃か〜ってだけだったけど、女の先輩と仲良くしてるって聞いて、何ヶ月か我慢はしたけど、私は新にもっと私のことを見て欲しかったの」


 …姉さんが俺に対して好意を持っているということはわかっていたが、まさかここまでだったとは少し驚いた。


「もう新くんは私の彼氏だから、ダメだよ」


「……」


 姉さんは少し顔を下に向けたが、立ち上がって紅羽先輩と顔を向け合った。


「まだ結婚したわけじゃなくて、彼氏になっただけだよね、新は私の新だから、もし新のことを悲しませるようなことがあったら無理矢理にでも別れてもらうから」


「あの、姉さんに、紅羽先輩も、もっと仲良く────」


「それで良いよ、私が新くんのこと悲しませるなんてないもん」


「……」


 姉さんは、次は紅羽先輩の方ではなく俺のところに歩いてくると、俺に抱きついて言った。


「あぁ〜!新、将来は私と二人で幸せになろうね!もしあの女と居て嫌なことがあったらすぐに言ってね!私が絶対新のこと守ってあげるから!」


「新くんは私の彼氏なんだから兄弟だからって抱きつくのはダメ!」


 紅羽先輩は俺から姉さんのことを引き剥がした。


「抱きつくくらい良いでしょ、兄弟なんだから」


「ダメだよ、私が嫉妬しちゃう」


「それはそっちの問題」


「そもそも抱きつかなかったら良いんだからそっちの問題だよ」


「人の弟奪っておいて…」


「いつまでも弟離れできてないくせに…」


「新は私の弟なんだから!」


「新くんは私の彼氏なんだから!」


 …はぁ。

 結局は似たもの同士というかなんというか。

 二人が言い合っている間に俺は簡単な料理を作り、それを二人にも振る舞った。

 二人とも一度は落ち着いたが、その後また何かを言い合っていた。

 …この二人が仲良く過ごすという未来は存在しないんだろうか。

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