第59話 紅羽先輩、流石です

 水族館を出ると、時間はお昼時になっていて、朝から行動しているとそろそろお腹が空いてくる時間になっていた。


「新くん、今日朝ごはん食べてきた?」


「食べてないです、紅羽先────紅羽と一緒に食べるときにお腹いっぱいになってたら嫌だったので」


「紅羽…!私も〜!新くんと一緒に食べたくて朝食べてないの!」


 紅羽呼びにまだ慣れていない様子ではあったが、紅羽先輩は俺と同じ考えだったらしい。

 特に示し合わせたわけでもないのに同じことを考えていたというのは、恋人冥利に尽きるんじゃないだろうか。

 …因みに、俺は紅羽先輩に俺の気持ちを分かってもらうために表面上では紅羽と呼び捨てにすることにしたが、もちろん敬っている部分も多いため、心の中では紅羽先輩と敬称をつけたままにしている。


「そこで!私ランチ予約してるから!今から食べに行こ!」


「ランチ…予約!?」


 本当にどこまでもデートプランを考えてきてくれたようだ、嬉しいと同時に自分の不甲斐なさも感じてしまう…次のデートは俺が頑張ってプランを立てよう。

 …それにしても。


「ランチの予約って…クリスマスとは言えちょっと並べば良さそうなのに、わざわざ予約までできる場所ってことは相当値段が高いと思うので、今日は流石に俺もお金を払わせてくださ────」


「お金とかは私が払うから気にしなくて良いの!早く行くよ!」


 紅羽先輩は基本的にいつも俺はお金を払わなくて良いと言ってくれるが今回は流石に払おう…と思ったが、その俺の言葉を遮るように俺の手を取ると、予約しているというランチのお店に足を進めた。

 足を進めた先にあった建物は、高級感ある高いビルだった。


「ここの上の方に予約したレストランがあるから、行くよ!」


「この上!?」


 俺たちはビルの中に入ると、エレベーターに乗った。

 ガラス越しに外が見えるが、地面がどんどん遠くなっていく。


「ほ、本当にこんなところの上にあるレストランなんて俺が行っても良いんですか?場違いな感じがすごいんですけど」


 周りに人が居るため俺は小声で紅羽先輩にそう話しかける。

 …周りに居る人たちは皆高そうな服やアクセサリーを身に纏っていた。

 ブランド物に詳しくない俺ですらわかることなのだから、きっと相当高いものなんだろう。


「大丈夫大丈夫、堂々としてれば良いんだから!」


 紅羽先輩は驚くほどにここの雰囲気とマッチしているが、俺だけ場違い感がすごい。

 周りの人たちはそんな俺たちの会話を微笑ましそうに聞いている様子だった。

 やがて予約したというレストランがある階層に着くと、俺たちはエレベーターから降りた。

 道中、壁全体がガラスになっている場所があり、俺は思わず目を奪われた。


「すごい景色ですね」


「うんうん!建物とかいっぱい建っててすごいよね〜」


「はい、今日はクリスマスなので、夜に来てみるともっと良い景色が見られるかもしれないですね」


「新くんがそう言うと思って、ちゃんとそのことも考えてあるから!」


 流石と言うべきか、紅羽先輩は俺のことを本当になんでもわかっている様子だ。


「紅羽は俺のこと本当になんでもわかってるんですね」


「紅羽…!うん!もちろんだよ!」


 紅羽先輩は笑顔で言った。

 …が、俺は少し気になることがあったため、それを聞いてみることにした。


「あの…もしかして今後俺が紅羽って呼ぶ度に「紅羽…!」ってリアクションするつもりですか…?」


「そ、そんなことないよ!?で、でも…仕方ないよ!数ヶ月前までは先輩呼びだったのが、紅羽先輩になって、今度はいきなり紅羽になるなんて言われても毎回ドキッとしちゃうよ!」


「そうですか…どうしても違和感があるなら、紅羽先輩に戻した方がいいですか?」


「ううんううん!?紅羽で良いよ!私はそっちの方が嬉しいから!」


「わかりました」


 俺たちは高いところからの景色を十分堪能したところで、紅羽先輩が予約してくれていたというレストランに向かった。


「着いたよ!」


 …食に詳しくない俺でもわかる。

 このお店は…絶対に高い。

 下手したら万額くらいするんじゃないだろうか、そう思わせるほどの店の雰囲気があった。


「…もしかしてここって高級レストランってやつじゃないですか?え、本当にこんなところで食べるんですか…?」


「うん!」


「…わ、かりました」


 紅羽先輩は高級レストランだということを一切気にせずに堂々とその中に入っていく。

 そして…その紅羽先輩に手を握られている俺も、その高級レストランに入っていった。

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