第60話 紅羽先輩、お願いがあります
高級レストランの中に入ると、受付のような場所で紅羽先輩と受付さんでのやり取りがあった後、俺たちは指定された席に座った。
「本当に…綺麗なお店ですね」
「そうだね!ここからの景色も綺麗だし」
窓が全面ガラスになっていて、外の景色を楽しみながらご飯を食べられるという何とも贅沢な場所だ。
俺がこのお店の高級感に圧倒されていると、スーツのような格好良い服を着た女性のウェイターさんがメニュー表のようなものを持ってこちらに来た。
「本日はご来店いただき、誠にありがとうございます、こちらのA、B、Cのどれかのコースをお選びください」
コース料理…!
わかってはいたことだが本格的に高級感が出てきた。
「新くんはどれが良い?」
それぞれのコースでサラダが付いたりパンが付いたりと、それぞれに利点があるようだ。
「サラダを食べたい気分なので、Aコースでお願いします」
「じゃあ私もそれでお願いします!」
「かしこまりました」
ウェイターさんは俺たちに一礼すると、メニュー表を持ってこの場を後にした。
「私、今本当に新くんと一緒にクリスマスを過ごせてるんだね」
「はい、そうで────え…?」
紅羽先輩が嬉しそうな声音で話し始めたと思ったら、今度は逆に涙を流し始めた。
「どう…したんですか?」
「う、ううん、違うの、別に泣きたいわけじゃなくて…嬉し涙って言うのかな、新くんとこうして過ごせてることが、私は本当に何よりも嬉しいの」
「…何言ってるんですか、紅羽先輩」
「…え?」
「これからはずっと一緒に居るんですから、そんなことで泣いてたら俺の好きな紅羽さんの笑顔が見れないじゃないですか…だから、紅羽先輩は笑っててください」
俺がそう言うと、紅羽先輩は泣き止み、まだ薄らと涙の線が見える顔で笑顔を見せながら言った。
「…うん!これからもよろしくね!新くんのことは、私が笑顔にしてあげるから!」
「…はい!」
俺たちが話をしている間に準備が整ったのか、ウェイターさんがサラダを持って来てくれた、これは前菜ということだろうか。
俺たちはいただきますと合わせていうと、サラダを食べ進める。
サラダを堪能した後で、紅羽さんから疑問を投げかけられた。
「そういえば、朝水族館では私のこと紅羽って呼ぶって言ってたのに、どうしてさっきは紅羽先輩になったの?」
「あ…いきなり呼び捨てになってわかりやすく横並びになるよりも、そんな簡単なことじゃなくて、行動で示していきたいなって思ったから、行動で示すまではやっぱり紅羽先輩って呼びたいなって思ったんです」
「そっか!新くんがそう思ったんならそれでいいや!でもさー、それならもうタメ口とかでも良いんじゃない?」
「ど、どうしてそんなに俺にタメ口で話して欲しがるんですか?」
「その方がドキッとしない?」
「俺、わからないです、紅羽先輩…」
どうしてもそこだけは紅羽先輩のことを理解できない。
その後は明らかに高いお肉を数種類食べたり暖かいスープを飲んだりして、存分にそのコース料理を堪能した。
そしてお会計。
「紅羽先輩、俺も払いま────」
「新くん?何度も同じこと言わせないでくれるかな?」
「…はい」
俺は紅羽先輩の圧に負けてしまい、結局お会計を紅羽先輩に任せてしまった。
そして高級レストランを出た俺たちは、エレベーターで下に降りてビルの外に出た。
その後は服屋さん、アクセサリー店、インテリアショップなど様々な場所を巡り、気づいたら夜に差し掛かろうとしていた。
「あ、もうこんな時間なんですね」
「楽しいとあっという間だね〜!でも!クリスマスは夜が長いんだから!」
紅羽先輩の言う通り、周りを見渡すと、昼間は見られなかった夜のクリスマス、つまりライトアップされた街並みを見ることができた。
イルミネーションなどが見るところ見るところにあって、どこを見ても綺麗だ。
「…新くん、次も行きたい場所は決めてあるの!」
「本当に何から何までありがとうございます」
俺は紅羽先輩の後ろをついて行く。
その道中で、時間は完全に夜になり、あたりはこれからが本番だと言うようにクリスマスムードになっていた。
そんな中、紅羽先輩について行った先にあったのは────観覧車だった。
「夜景を存分に楽しめて、しかも二人きり!どうかな?」
「とても良いと思います」
俺と紅羽先輩は観覧車の列に並び、やがて順番が来るとその観覧車に乗り込んだ。
もちろん二人きりの密室で、他の人に見られるなんていうことはない。
俺たちはしばらく沈黙していたが、それでも観覧車は段々と上に登っている。
…俺は高鳴る自分の心臓の音を聞きながら、ずっと決意していたことを今行動に起こそうとしていた。
「…紅羽先輩、お願いがあります」
「は、はいっ…!」
紅羽先輩も俺のその雰囲気を感じ取ったのか、少し緊張している様子だった。
だが俺は構わずお願いを口にする。
「────今この場で、俺とキスしてくれませんか」
顔を背けたくなるほど恥ずかしかったが、それでも俺は純粋に愛情表現の一つとして、紅羽先輩にそれをお願いした。
…この気持ちは、もう止めることができない。
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