第61話 紅羽先輩、ファーストキスです

「うん」


「…え?」


 俺が心臓の鼓動を高めて紅羽先輩からどんな返答が返ってくるのかと頭を巡らせたり、いきなりすぎて引かれたかもしれない、などと考える間もなく紅羽先輩が即答してくれた。


「そ…そんな即答で良いんですか?も、もしかして恋人とかは初めてでもキスは初めてじゃないとか…?」


「ううん、もちろんキスだって誰ともしたことないよ!…でも、ちょっとだけ驚いちゃった」


「や、やっぱりちょっといきなりすぎましたか?」


「それも違うの!私もこの観覧車が一番高いところまで来た時に新くんとキスしたいなって思ってたの!それで、まさか新くんの方から言ってくれるなんて思わなかったから、ちょっと驚いちゃった」


「そうでしたか…」


 俺はほとんど同じことを考えていたということを知って安心し、一度自分の胸を撫で下ろした。


「でもね新くん、いけないところもあるよ」


「いけない…?」


 いけないところって…今このタイミングで!?


「……」


 俺は何を言われるのかと恐れながらも紅羽先輩の言葉を待った。

 そして、紅羽先輩は口を開いた。


「いちいち確認なんて取らなくても、私はいつでも新くんからキスされても良いんだよ?それとも、いきなりキスしたら私が怒るって思ったの?」


「そ…それは…」


 怒るとまではいかないまでも一応俺たちのファーストキスな訳だし「事前に言ってよ!驚いちゃったじゃん!」とかって言われるかもしれないというのは考えてしまった。


「新くんは、まだまだ私のことわかってないね」


 紅羽先輩はそう言うと立ち上がり、俺の顔を自分の手で紅羽先輩の方に向かせると────俺の唇を奪った。

 そして、おそらく偶然ではあるが…その瞬間、観覧車は一番高い地点にあった。


「……」


「……」


 ファーストキスの味を堪能するように、十秒ほどそのままで居ると…紅羽先輩は、俺から顔を離した。


「私は、全部新くんのものだから、新くんも遠慮なんてしないで、これからは私としたいと思ってくれたこともっと積極的にしていいから!ね!」


「は…はい!」


 俺は、自分の顔が赤くなっているということが、顔の熱さだけでわかったので、咄嗟に紅羽先輩から顔を逸らした。


「新くん照れてる〜?」


「う、うるさいですよ」


「照れてるんだ〜」


「く、紅羽先輩だって初めてだったんじゃ無いんですか?なんでそんなにいつも通りに振る舞え────」


 顔を逸らして居たから見えなかったが、キス直後はまだ平静を保とうと頑張れていたから顔が赤くなっていなかった紅羽先輩だったが、今見てみるとおそらく俺よりも顔が赤くなっている。


「紅羽先輩も赤くなってるじゃ無いですか!」


「う、うるさいよ!」


「なんだ、紅羽先輩も照れてるんですね、安心しました」


「だからうるさいってば〜!」


 紅羽先輩はアニメだとポコポコという効果音がなりそうな感じで俺のことを叩きながら少し騒いでいる。

 そんな中、俺は少し思うところがあった。


「…初めてのキスが紅羽先輩から奪われるっていうのは、ちょっと予想外というか、不甲斐ないです」


「何言ってるの新くん!」


 紅羽先輩は俺の手を取ると、満面の笑みで言った。


「これからまた何度だってできるんだから、次はかっこいい新くんが私の唇奪ってよ!次に確認なんてしたら、私も怒るからね!」


「は、はい!」


 その後紅羽先輩は俺に寄り掛かる形で俺の隣に座り、観覧車が下に着くまで恋人らしい幸せの時間を過ごした。

 そして、観覧車が下につくと、楽しく長かった今日の最後の場所、紅羽先輩の家に行くことになった。

 …クリスマスも、もう終わりか。

 そう考えると少し寂しいが、俺は最後の最後まで紅羽先輩とのクリスマスを楽しむことだけを考えることにした。

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