第62話 紅羽先輩、俺からのファーストキスです

 紅羽先輩の家に着くと、俺は紅羽先輩の家のリビングに招かれた。

 紅羽先輩はテレビ前にあるソファに座り、俺にもその隣に座るように隣をポンポンと叩いた。

 俺はその合図通りに紅羽先輩の隣に座った。


「新くん、今日は一日お疲れ様!」


「そんな、紅羽先輩こそ、今日のために色々と考えてきてくれて、本当にありがとうございます」


「今日の最後は一緒にケーキとか食べながら映画でも観よっか〜」


「良いですね!」


 紅羽先輩は一度立ち上がるとキッチンの方に向かい、冷蔵庫からショートケーキを持ってきてくれた。


「ホールケーキもあるにはあるんだけど、昨日もケーキ食べたし、二人で食べるには多いかなって思ったからショートケーキにしたけど良かったかな?」


「あ、はい!お気遣いありがとうございます!」


「こら!」


「痛っ…」


 紅羽先輩はソファの目の前にあるテーブルにショートケーキの乗ったお皿を二皿置くと、後ろから俺の右頬を軽くつねった。


「私はもう新くんの彼女で、新くんは私の彼氏なんだから、お気遣いありがとうございますなんて言わなくていいの!」


「で、でも────」


「でもじゃないの!」


 今度は左頬もつねり、紅羽先輩は今俺の両頬を軽くつねっている。


「わ、わかいまひは!」


「うん!じゃあいいよ!」


 紅羽先輩は俺の両頬から手を離すと、元居た俺の隣に座った。


「新くん、どんな映画────」


 俺は紅羽先輩が俺の方に向いて話し始めた途端に、すぐに紅羽先輩との距離を詰めて────紅羽先輩の唇を奪った。


「……」


 とはいえ、俺は自分からの初めての能動的なキスを長々とできるほどのメンタル力は無いため、すぐに顔を離そうとした。

 …が。


「…っ!?」


 紅羽先輩が俺の両肩を押さえて、俺のことを離さない。


「……」


「……」


 その後、観覧車でのファーストキスと同じ、十秒ほどそのままでいると…紅羽先輩は俺の両肩から手を離した。

 その直後、俺は紅羽先輩から顔を離し少し距離を取った。


「く、紅羽先輩!?」


「新くんからのファーストキス…!嬉しいな〜!」


 紅羽先輩は俺からのキスを喜んでいる様子だった。

 だが、俺としては一瞬キスしてすぐに顔を離そうと思っていた、なのに結局十秒も紅羽先輩とキスをすることになって…ハッキリ言って心臓が持たない。


「新くん、じゃあ映画観よっか!どんな映画が良いかな?」


「落ち着けるやつがいいです」


 いつもなら「紅羽先輩が観たいので大丈夫ですよ」と即答しているところだが、今はとにかく落ち着けるのがよかった。

 そして紅羽先輩が選んだ映画は、CGアニメの日常系アニメで、観ているだけでほっこりするようなものだった。


「……」


 映画の内容がほっこりするものなのと、一日中歩き回ったことによる疲れと、紅羽先輩が隣に居るという安心感からか…俺はいつの間にか────


「え、新くん?」


「…ぅ…」


「私に寄りかかって寝るのは良いことだけど、まだお風呂とかにも入らなくちゃなのに…でも」


「…す…ぅ…」


「そんな気持ち良さそうな顔して私に寄りかかって寝られたんじゃ起こせないし起こしたくないよね…だから、後ちょっとだけ、このままで…」

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