第13話 先輩、釣り合わないです

 ここ最近のバイトは、理由はわからないが先輩が俺に女性とは会話してほしくないからと女性の対応は先輩に任せ、男性の接客は俺がするという形で俺が何もすることなくバイトが終わる、なんていうことはなかったため俺としては特に不満は無かったんだが…

 バイト終わりの帰り道、先輩から突拍子もないことをを提案された。


「ねぇ新くん、一緒にバイト辞めない?」


「…え?」


 さっきまで楽しそうに仕事をしていたのに、先輩の口からそんな言葉が出てきたため俺は少し驚いた。


「いきなりどうしたんですか?別に今のバイト特に対応が悪いとかブラックとか、そんなのじゃ無いと思うんですけど」


「そうなんだけど…新くんと全然お話できないし、今は大丈夫って言ってももしかしたらいきなり新くんが女の人と話す機会ができちゃうかもしれないでしょ?だから、接客業じゃなくてもっと私たちが一緒に仕事できるバイト、探そうよ!もちろん一緒に!」


「俺は良いですけど…先輩は大丈夫なんですか?もし一人暮らしとかだったら色々と、生々しい話お金とか問題があるんじゃ…?」


「確かに一人暮らしだけど、私は新くんと一緒に居たくてバイトしてるだけだからお金には困ってないの、気にしないで!」


 そんな贅沢な話があるのか…

 かくいう俺もお金が早急に必要で、絶対にバイトをしないといけないという状況でもないのだが、将来のこととか趣味に使いたいお金のことを考えると、特にバイトを辞める理由もない。

 それに俺も先輩とバイトをするのは楽しい。


「…とは言っても、いきなりなので全然目安とか付けてないです」


「そこで!一緒にバイト探そうよって話!」


「お、俺にもできそうなのだと良いんですけど…」


「だ〜いじょうぶ!できなくても私がばっちりカバーしてあげるから!とりあえず日替わりバイト一緒に色々受けてみよ?きっと楽しいと思うよ?」


「良い…んですけど、試験が終わった後でも良いですか?それまでは今のバイトを続けながら勉強をしたいので…」


「はーい、私もそのお勉強手伝っても良い?」


「それはもう、是非!」


 この日から試験の日まで、俺は先輩に手伝ってもらいながら、試験勉強とバイトを上手く両立させることに成功した。

 勉強なんてしていると日が経つのはあっという間で、もう試験日になった。


「まだ体感五日とかなんだけどな…」


 試験日の朝には先輩から『頑張って!試験終わりにご褒美あるよ!』というメールが届いてきていた。


「別にご褒美が欲しいわけじゃないけど…頑張ろう」


 先輩にたくさん時間をかけて教えてもらったのに、全然ダメでしたじゃ申し訳が立たない。

 試験時間になると、俺はペンを止めることなくただひたすらに問題を解き続けた。

 わからなかった時はしっかりと考え、時間が余った時は一秒も余すことなく見返して修正、それを全科目で繰り返し…放課後。


「流石に疲れたな…」


 俺は額を抑えながら呟く。

 今の俺が出せる全力をぶつけてはみたが、正直最後の科目の時は集中力がかなり減ってしまっていたから、普段なら気付けるミスにも気づけていなかった可能性がある。

 …それでも逆に言うと、最後以外は特に問題無くスラスラと解くことができたため、点数には期待できる。


「ねぇねぇ天城くん、今日クラスのみんなで試験お疲れ様会やるんだけどよかったらこない?」


 俺は一度も首を縦に振っていないのに、この女子生徒はよくこんなに俺のことを誘ってくれる気になるな…俺は申し訳ないが今日は疲れているからと断った、が。


「え〜、今日くらい良くない?お願い!なんだったらずっと寝てても良いからさ!」


 女子生徒はいきなり距離を詰めてきた。


「ちょっと…」


 俺は距離を取るように一歩後ろに下がったが、まだ食い下がってくるつもりらしいため俺は教室から出た。

 すると、今度は女子三名で俺のことを追いかけてきた。


「な、なんなんだ…」


 俺は逃げるように早歩きで校門へと向かう。


「待ってよ〜!」


「本当、ただ仲良くしたいだけなの!」


「また後日埋め合わせするから、今日は本当に疲れてるんだ」


 連日の勉強に続いてテストで脳を回転させた後の急な緊張の抜け、体全体に一気に疲れがやってきている、正直立っているだけで少し頭がクラッとする。

 校門に着いてもまだ追いかけてきていたため、俺は少しだけキツく言うことを決意した。


「あの、本当に────」


 ────ところで、校門前に立っていた人から声がかかった。


「新くん、お疲れ様〜!迎えに来たよ〜!」


「…え、先輩!?」


 先輩は俺のことを校門前で待っていてくれたらしい。

 先輩には引っ越す時にそのバイト先と共に学校の名前も教えていたから、先輩がここを知っていたこと自体に驚きはないが…


「まさか待ってるとは…」


「新くん疲れてるかなってね、そしたら案の定疲れた顔してるね…それで、隣の女の子たちは?」


 先輩がどこか澄んだ目で俺のことを追いかけてきていた女子生徒たちのことを見ている。


「え…天城くんの知り合い?」


「めっちゃ綺麗な人…高校生、じゃないよね?」


「もしかして…天城くんの彼女?」


「え、うそ…」


 女子生徒たちが根も葉もないことを噂している。


「違うって、第一俺が先輩の彼女なんて先輩に迷惑がいくからそんなこと言うのはやめてくれ」


「…え?」


 先輩が疑問の声をあげた。

 …え?どうして先輩が疑問の声をあげるんだ?


「あ、そうなんだ〜」


「なんかお取り込み中みたいだし、また今度誘うね〜」


「ありがとう、次は絶対参加する」


「うん、約束ね!」


 女子生徒たちは満足したのか、校内の方に戻っていった。

 …ちょっと驚きはしたけど、普通に良い人たちだな。


「先輩、わざわざ出迎えてくれるなんて、嬉しいで────」


「新くんさっきのどういうこと?」


 俺はお礼を言おうとしたが、先輩が今漂わせているのはそんな空気感では無かった。


「何が…ですか?」


「私が新くんの彼女って言われた話」


「え…俺たち、別に付き合ってないから間違ったこと言ってないですよね?」


「私が聞きたいのはそこじゃなくて、どうして新くんが私の彼氏だと私に迷惑がいくと思ってるの?」


 なんだ、そんな簡単なことか。

 確かに高い景色からでは見えない景色もある。


「先輩と俺とじゃ釣り合わないからに決まってるじゃないですか」


「何が釣り合わないの?どうしたら釣り合うようになるの?」


「どうしたらって…」


 先輩と俺が釣り合うようになるなんて今まで考えたこともない、ていうか先輩と恋人になるなんていう選択肢が想像ですら俺の頭の中に今まで無かったため、俺はいきなりの質問に口を重くしてしまう。


「うっ…」


 元々体調が良く無かったこともあって、俺は一瞬立ちくらみしてしまった。


「あっ…大丈夫!?ごめんね!元々しんどそうだったのに変なこと聞いちゃって…新くんは早く休んだほうがいいよね!お家まで送って…ううん、看病してあげるね!」


「か、看病!?だ、大丈夫ですよ、そんなに調子悪いわけじゃ…」


 俺がそう反論しようとしたところで、クラッとしてしまって体が先輩の方に傾いた。


「そんな状態で言っても説得力ないよ!」


 先輩は俺の体調を心配しつつ俺の腕を握ると、俺のことを家まで連れて行ってくれた。

 そして俺は強制的にベッドで寝かされ、これから先輩の看病を受けることになった。

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