第18話 先輩、嫌じゃないです
「わぁ!見て見て!紅葉いっぱいあるよ!」
「本当ですね」
今住んでいる家の方の近くでも少しだけ紅葉は見れたりするが、ここまでたくさんの紅葉は見れない、流石観光名所近くと言うべきなのかキッチリと整えられている。
俺と先輩は道中紅葉を見ながら観光名所に向かった。
「あ、見て!有名な神社があるよ!」
「本当ですね」
すごい人だかりだ、やはり相当な人気があるんだろう。
中には海外からの観光客と思わしき人たちも居るようで、まさに異文化交流の場といった感じだ。
「事前に調べた感じだと、学業成就とか商売とか交通とか健康とか…恋愛祈願、とか」
先輩は少しもじもじしている。
トイレに行きたい…わけで無いことくらいは俺にもわかる、きっと今先輩が言ったもののどれかに先輩が成就したいと思っていることがあるんだろう。
だったらここは…
「せっかくですし、俺たちも何か祈願して行きますか」
「え、良いの?」
「はい、幸い写真を撮るためとかに集まってる人は多いみたいですけど、初詣とかって季節でも無いので祈願の方はそこまで並んでないみたいですし」
「やった!じゃあ行こ!」
先輩は俺の手を取ると、祈願の方に並んだ。
そしてあまり時間もかからずに、俺たちの番が来た。
先輩と俺は硬貨を入れてから手を合わせ、祈願する。
…祈願する内容は並んでいるときに決めてある。
「(どうか先輩と長い間楽しく居られますように)」
先輩と今こうして、何かを祈願する場に居るのも偶然じゃないとするなら、やはりこの祈願が今の俺には一番大事なことなんだろう。
…先輩は、何を祈願しているんだろうか。
「(新くんの周りに新くんのことを好きな人が現れませんように、新くんが私のことを尊敬とか憧れとかを乗り越えてそれが恋愛的な好意に代わりますように、私のことを好きって思ってくれますように、新くんが私に愛想つきませんように、新くんと長い間楽しく居られますように)」
俺が祈願し終えた後も、先輩はしばらく祈願を続けていた。
…きっとよほど祈願したいことだったんだろうな。
先輩は俺が祈願し終えてから30秒ほど祈願を続けると、先輩は笑顔でこちらに振り向いた。
「じゃっ、食べ歩きとかしちゃおっか!」
「そうですね!」
俺と先輩は、この辺で有名な食べ歩きスポットにやってきた。
ここは一昔どころか、何百年も前の日本といった雰囲気で、本当に和といった感じで新鮮だ。
「そこの若い恋人さんたち、ちょっとうち寄って行かへん?」
「……」
「お〜い」
「え、あ、俺たちのことですか…!?」
「他に誰がおんの」
確かに周りい若い恋人と称されるような人たちは居ないが…
「あの、俺たちは恋人なんかじゃ────」
「えー?何屋さんなんですか〜?」
「ちょ、ちょっと」
先輩は俺の腕を掴むと、そのままおばあさんのお店の方に俺のことを連れていった。
それから十分後。
「団子ってやっぱり美味しいよね〜」
「はい、このみたらし団子とか美味しいですよ」
「本当?あ〜ん」
「え…」
俺は周りを見渡す。
周りには特に人は居ないが…
「先輩、あの────」
「あ〜ん」
「……」
俺は先輩がそういう雰囲気に入り込んでいたため、渋々ではあったがみたらし団子を先輩の口に含ませた。
「美味しい…ですか?」
「…うんっ!美味しいね!」
先輩はしっかりとそのみたらし団子を美味しそうに飲み込んだが、普段しない食べ方をしたためか口元にみたらし団子のタレが付いている。
「先輩、口元にみたらし団子のタレ付いてますよ」
俺が自分の口元に手を当てながら言うと、先輩は赤面して俺から顔を背けると、もうそのタレを取り終えたらしくすぐにこっちに向き直した。
口元を見てみるともうそのタレはなかった。
「…新くん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「あのお婆さんは私たちのことを恋人だと思ってるみたいだったし…この食べ歩き通りの中だけは、その…手、繋がない?」
「え、え!?先輩と、ですか!?」
「…嫌、かな?」
前もこの流れでバイト休憩中先輩に抱きしめられた記憶がある。
たまたまなんだろうがまた似たようなシチュエーション…別に嫌ってわけじゃ無いけど、そういうのは恋人がすることであって。
俺たちがするようなことじゃない。
だが、嫌かどうかで言われると嫌でもない…なんなんだこの質問は、質問された時点でもう俺に選択肢が無い。
「嫌じゃない、です」
「じゃあ、良いよね…!」
俺と先輩は、しばらく手を繋いで、食べ歩きをした。
…あまり意識をしていなかったが、もしかすると恋人繋ぎだったかもしれない。
そしてそろそろ夜に差し掛かる時間だったので、俺と先輩は旅館の方に帰った。
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