第68話 紅羽先輩、綺麗です

「ん…」


「あ、新くんおはよー」


「紅羽先輩…?おはようございま────って、え!?どうして紅羽先輩と俺一緒に寝てるんですか!?」


 目を覚ますなり、俺はいきなりの光景に驚いた。

 …が、自分で大声を出し、脳が覚醒した。

 そうだ、昨日俺と紅羽先輩は確かベッドで互いに初めてして…そのまま一緒に寝ていたのか。


「思い出した?」


「は、はい、思い出しました…あの、紅羽先輩?」


「ん〜?」


「ど、どうして下着姿なんですか…?」


「新くんも下着だけだよ?」


「…あ、そっか、昨日俺たち下着だけ履いて寝たんでしたっけ」


「そうそう〜」


 …昨日のことを鮮明に思い出してきた。

 本当に、俺が紅羽先輩と…あんなことを。


「新くん、昨日…どうだった?」


「それはもう、誕生日に紅羽先輩と一緒に居られただけで、俺は本当に嬉しかったですよ」


「もう!そういうことじゃなくて!」


 隣で一緒に寝ている紅羽先輩が俺のことを軽く肘で突いた。


「え、え…?そういうことじゃないならどういうことですか…?」


「だから!昨日の、夜のこと!」


「夜…あぁ、雪のことですか、綺麗でしたよね」


「もう!!」


 紅羽先輩は起き上がると、布団を一気に下の方まで捲った。

 そして怒った表情で俺の上に跨ると言った。


「新くん?もしまだ寝起きで記憶が確かじゃ無いなら私が今すぐに思い出させてあげる」


 そう言うと紅羽先輩は背中に両手を回した。

 この状況で背中に両手…あ!


「そ、そういうことですね!すみません、わかりました!」


「わかってくれたなら許してあげる!それで、どうだった?」


「えっと…今までに感じたことがないくらい、温かい気持ちになりました」


「うん、私も!それに、まだ私の知らない新くんの顔があるんだって驚いちゃった、今後もいっぱい見せてね!」


「そ、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいよ!」


「え〜?可愛かったよー?」


「だから恥ずかしいですって!」


 その後俺たちはちゃんと服を着ると、リビングに向かい紅羽先輩が作ってくれた朝食を食べ始めた。


「…あ、先輩、そういえば今日って大晦日ですよ」


「そうだね〜!年の瀬もこうして新くんと一緒に居られて私は嬉しいよ!」


「俺もです…今日、良かったら深夜とかも時間もらっても良いですか?」


「え、深夜って…もちろん良いよ!二回目は、ちゃんと私がエスコートしてあげるね〜」


 紅羽先輩が笑顔で言った。

 …二回目?


「…な、何か勘違いしてないですか?」


「え…勘違い?」


「俺が紅羽先輩の今日深夜の時間が欲しいのは、紅羽先輩と一緒に初詣に行きたいからです」


 俺がそう言った瞬間、紅羽先輩は自分の頭を自分で叩いた。


「く、紅羽先輩!?」


「う、ううん、なんでもないの、もちろん、初詣一緒に行こ!…できれば除夜の鐘とかもあるところ行かない?私の煩悩も取り除かないと…」


「気にしなくて良いですって!俺も変な言い方しちゃったと思うので…!」


 大晦日の今日も一日中紅羽先輩と一緒に過ごしていると、時間が夜になってきた。

 深夜と呼べる時間ではないが、あと数時間もすれば年明けの時間だ。


「…新くん、ちょっとだけお出かけしてきても良い?」


「あ、大丈夫ですよ、買い物とかなら一応夜ですし俺も付いていきま────」


「新くんは!お家で待ってて!できるだけ早く戻るから!」


 紅羽先輩は俺に笑顔で手を振ると、この家を後にした。

 …初詣まで時間に余裕があるとはいえ、大晦日の夜に出かけるなんて、どういう用事なんだろうか。


「…わからないな」


 考えてみてもわからなかったため、考えることはせずに大人しく紅羽先輩のことを待つことにした。

 そのまま待ち続けて一時間後、インターホンが鳴ったため、俺は玄関から外に出た。


「…えっ!?」


 すると、そこには紅羽先輩にお似合いな赤色の着物を着た紅羽先輩の姿があり、髪の毛なんかもとても大人な感じの括られ方をしていた。


「ど、どう…かな?」


「めっちゃ綺麗です!紅羽先輩!それどうしたんですか!?」


「し、知り合いにこういうのができる子がいたから、その子にお願いして着物を借りて、着付けもしてもらったの」


 だから初詣の数時間前のタイミングで家から出て行ったのか。

 …紅羽先輩が綺麗すぎてまともに直視できない。

 俺が紅羽先輩の方を見れないでいると、紅羽先輩が両手で俺の顔に触れて、自分の方に俺の顔を向けさせた。


「えっ!?」


「新くんに綺麗って思ってもらいたくて着てるんだから…もっと、見て」


「…はい、綺麗、です」


 俺は紅羽先輩に感服し、素直に紅羽先輩に見惚れることにした。

 そして数分後。


「…あ、神社の距離も考えると向かい始めてちょうど良いくらいだと思うので、そろそろ神社に向かいましょうか」


「うん!」


 俺は今年最後の…そして、来年最初の思い出を、紅羽先輩と作りに行くために、紅羽先輩と一緒に神社へと足を進めた。

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