第54話 紅羽先輩、恥ずかしいです
今日は少し肌寒いが、たまにはただ公園でのんびり過ごすのもしてみたいということで俺たちは公園のベンチに座っている。
「クリスマスまであと二週間くらいなんだね〜、長いな〜」
二人の時間を堪能していると、紅羽先輩がそんなことを言った。
「そうですか?俺はなんだか最近楽しくて時が早く感じます」
「…待って待って!私だって楽しいと思ってるよ!?もうこれ以上ないくらい!ただクリスマスも楽しみにしてるってだけだからね!」
「わかってますよ」
紅羽先輩は安心したように胸を撫で下ろした。
…こっちは大して気にしていないのに紅羽先輩が焦ったりしているところを見ると、紅羽先輩に対して可愛いという感情が湧いてくる。
この感情は、恋人になったからこそ生まれた感情だと確信できる。
「…あ、そういえば今更なんですけど、紅羽先輩って友達の人とかに恋人ができたとかって話してますか?」
「うん!話してるよ!」
話しているのか…
なんとなく気になったことだから別に深い意味はなかったが、聞いてみたら聞いてみたで気になることができた。
「…俺のことどんな風に話してるんですか?」
「かっこよくて可愛くて優しくて最高の彼氏だって話してるよ!」
その印象付けは絶対に俺には荷が重い。
「そ、そうですか…も、もうちょっと控え目な感じで話せないですか?」
「えー?これでも結構抑えてるんだよ?」
「抑えてそれなんですか…」
「うん────あ!そうだ!せっかくだし今その友達に電話しちゃおっかな!」
「え、なんでですか!?」
いくらなんでもいきなりすぎる、どうしてその考えに至ったんだ?
「私が友達にどんな風に新くんのこと紹介してるのか気になるんでしょ?だから普段通り私が新くんのこと友達に自慢するの!」
紅羽先輩はスマホを取り出すと、すぐにその友達という人に電話をかけた。
その電話相手は通話に応答したらしい。
「もしもし────」
それから少し会話を織り交ぜてから、とうとうその話題になったらしい。
「────もちろん!上手くいってるよ!あ、聞いてよ!この間なんてホラー映画が怖いからって私にお風呂の前に居てってお願いしてきたんだよ!?めっちゃ可愛くな────」
「ちょ、ちょっと、紅羽先輩!」
「ん、どうしたの?」
「そ、そんな恥ずかしい話しないでくださいよ!」
「えー、可愛いのにー」
紅羽先輩が「新くんはわかってないなぁ」とでも言いたげな顔になった…そんな顔をされても俺は恥ずかしい。
そして程なくして。
「────うん!じゃあまた大学で!」
紅羽先輩はスマホ画面をワンタップすると、スマホを元あったカバンに戻した。
「みたいな感じかな〜!」
「全然ダメですよ!めっちゃ恥ずかしいじゃないですか!」
紅羽先輩は何故か意気揚々としているが、俺とのテンションの差が激しい…俺はこんなにも恥ずかしがってるのに。
「えー、でも名前は言ってないよ?ちゃんとプライバシーは守ってるから!」
「友達さんになら名前なんていくらでも言ってもらっていいですからあの可愛いエピソードとかはやめましょう、せめてかっこいいエピソードとか…」
「それはできないよ」
「…え?」
…まぁ、確かにかっこいいエピソードなんて無いと言われてしまえばそれまでだが、ストレートに言われると心にくるものが────
「新くんのかっこいいところは私だけのものだから、絶対に他の人になんて教えてあげない」
紅羽先輩はそう言った後、俺を抱きしめてきた。
かっこいいエピソードが無いとストレートに言われたと勘違いして、心に来ていただけに少し涙腺にくるくらいには感動するものがあった。
「…俺も、紅羽先輩の可愛いところは他の誰にも教えません」
俺は紅羽先輩のことを抱きしめ返し、少しの間だけ俺たちは誰も居ない公園で抱きしめ合った。
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