第40話 明日真、オブラートに包んでくれ
二週間の文化祭準備期間を経て、ようやく文化祭一日目に突入した。
午前中は最初の提案通り女子がメイド喫茶をやることになっているので、俺と明日真は文化祭を純粋に楽しもうとしていた。
まずは校門からすぐ入ったところから探索してみることにした。
「あ、焼きそばだって、良かったら食べてみない?」
「あぁ、そうだな」
今日は朝ごはんを食べず、もちろんお弁当も持ってきていないため今はちょうどお腹が空いている。
「じゃあ僕買ってくるよ」
「あぁ、後でお金渡────」
「いいからいいから、行ってくるね」
明日真は爽やかな笑顔を俺に送ってくると、すぐ目の前にある焼きそばの屋台で焼きそばを買いに行った。
…ああいうのを爽やかなイケメンって言うんだろうな、もうちょっと性格に融通が聞けば絶対に完璧だったのに。
なんて考えていると、明日真は焼きそばを二つ持ってすぐに帰ってきた。
「はい、天城くん」
「ありがとう」
俺たちは日陰に移動して一緒に焼きそばを食べる。
改めて周りを見渡しても、どこもかしこも活発だ。
「この焼きそば美味しいね」
「あぁ、普通に上手だ」
仮に普通のお店で出されたと言われても何の問題も無いクオリティだ。
「そうだ、ちょっと気になってたことがあるんだけど聞いてみてもいい?」
「なんだ?」
俺は焼きそばをお箸で挟んでそれを口に含んだ。
「天城くんと陽織さんはもう恋人になったのかな?」
「んっ…ごほっごほっ」
焼きそばを含んだ瞬間に言われたため、思わず変な飲み込み方をしてしまうところだった、どうしていきなり動揺させてくるんだ。
「どうして明日真がいきなりそんなことを思うんだ?」
「天城くんならまず「紅羽先輩と俺が付き合うなんてそんなわけないだろ?」って言いそうなのに、言わないってことは恋人になったんだね、おめでとう」
明日真は相変わらずの観察眼で俺のことを見抜いてくる。
…こういうところも融通が効かないというかなんというかの原因の一つだと思う。
「あぁ、なった、それで…どうして俺と紅羽先輩が恋人になってるだろうなって思ったんだ?」
「簡単なことだよ、前に陽織さんと一回だけカラオケで会ったときに陽織さんが天城くんに恋愛感情を抱いてそうだったのと、あとは天城くんが文化祭二日目は…みたいな話をしてる時の反応とかかな」
「え、あのカラオケの時でそんなことまで気づいてたのか!?」
「うん、天城くんは気づいてなかったんだね、驚いたよ、あんなにわかりやすい人なかなか居ないと思うんだけどね」
嘘だろ…どうしてあの一瞬だけ紅羽先輩と会ったことのある明日真が気付けてバイトとはいえ半年以上一緒に過ごしている俺が紅羽先輩の恋愛感情に気づけなかったんだ。
「もしかして落ち込んでる?大丈夫、多分鈍くて気持ちが伝わりづらいところも、天城くんの魅力の一つだと思うよ」
「フォローしてるつもりなら間違ってるからな?もっとオブラートに包んでくれ!」
やっぱり俺って鈍い…のか?
紅羽先輩と付き合うことになった直後もアプローチし続けてたって言われてたけど、俺は全然気づけなかったし。
…そうだとしても、明日真が鋭すぎるというのも絶対にあると思うから、あんまり参考にはならないか。
その後もしばらく明日真とプラネタリウムや劇、絵画展なんかを一緒に堪能してから、メイド喫茶から執事喫茶になる時間帯になっていた。
「そろそろ教室に戻らないとね」
「あぁ」
俺と明日真と、あと数名の男子生徒は執事服を着る役に任命された。
紅羽先輩のためにも執事服は着ておきたかったため進言した方が良いかと思ったが、俺が進言するまでもなく何故か俺と明日真は最初から決められていたらしい。
そして、俺たちはクラスの出し物のために自分たちの教室に足を進めた。
のだが、教室前に…今日は絶対会わないだろうと思っていた人が居た。
「あれって…」
「…え?」
そこに居たのは。
「あ、新くん!やっと見つけた!」
「紅羽先輩!?」
その美貌故に周りからとても視線を集めている、紅羽先輩の姿があった。
…どうして紅羽先輩が今日この文化祭に居るんだ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます