第61話 技術の愛
宇宙が透けて見えるほどの青空。
柔らかいそよ風に、ピンクの蕾が顔を覗かせている草木がカサカサと音を奏でる。
優しい光を放つ太陽は、生きるもの全てに温かい空気の毛布を与えていた。
「……ここは……。どこだろう……」
仰向けで眠っていたところを、目を覚ましたリアン。
温かい光に照らされ、気持ちよさを覚える。
瞼は開き切っておらず、どこか上の空。
意識は覚醒しているものの、まだぼんやりとした状態のようだ。
「まだ眠そうね、リアン」
意識が混濁した中で、ハリのある女性の声がリアンの耳に届く。
声の方向へゆっくりと視線を向けると、ピンク髪の女性が慎ましく座っていた。
そこにいるのが誰なのか、リアンはすぐに理解した。
「マリガン……?」
「おはよ。リアン」
風に靡くピンクのショートヘア。桜を彷彿とさせるピンクの瞳。
ぷっくりとした唇はとても柔らかそうで、艶やか。
白のワンピースに身を包んだ彼女は、とても綺麗で清楚という印象だ。
「俺は、死んだのか? 意識を失う前は、こんなに気分のいいところにいなかったはず……」
春の日差しに、思考がはっきりとしていくリアン。
同時に、現状を理解しようとするが、全く答えが出ず思考がグルグルと巡る。
鬱屈とした気分になったリアンは上半身を起こし、大きく背伸びをする。
久しぶりに体を動かしたような気持ちよさに、思わずあくびがでる。
「あなたは死んではいないわ。まだね。でも、生きているとも言い難いのよ」
「どういうことだ? 俺は夢でも見てるってことか?」
「違う。あなたの精神だけを私のステーションの仮想環境に呼び込んだの。バーチャル技術ってやつね!」
マリガンの説明に、リアンは「そういうことか」と呟き、頷いた。
「つまりは、俺の精神はマリガン・ステーション、肉体はマオのいる惑星ニムンにあるってことか」
「そういうことよ」
「じゃあ、この仮想空間はマリガンが俺の目を通して得た景色を、再現した場所ってことか」
「バーチャル技術での仮想空間はなんでもアリだから。心地いい気分が味わえるところがいいと思ったのよ」
心地よい風が肌に触れるたび、気分が晴れやかになり、戦いで溜まった鬱屈とした気分が洗われる。
リアンは大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
冷たい空気が体の中に入るたびに、心地よさを覚え安息の表情を見せた。
「惑星ニムンに降り立ってから、戦い続きだったものね。久しぶりにリラックスできたんじゃない?」
「そうかもな。休息といえる、休息はインプラントを取り入れた星以来かもしれないな」
しばし風に揺れる草木に耳を貸す。
木の葉の間を抜けるサラサラとした音はとても心地よく、気持ちがいい。
2人は透き通るような青空を見上げながら、とろけたような表情を見せた。
「なぁ、マリガン。俺の肉体はどうなっているんだ?」
今1番聞きたいことをリアンは口にする。
対してマリガンは温もった声で答える。
「率直に言うと、命に別状はない。今はね。けど、インプラントの使いすぎで神経障害の兆候が出ている状況なのよ」
「じゃあ、俺の肉体はまだ眠っているのか?」
「そうよ。でも時期に目を覚ますわ。インプラントの自動修復が終われば、リアンの精神は肉体に戻る」
「そうか……」
「それと、ライピスちゃんとマオちゃんがあなたの看病についているわ。眠っていた5日間、ずっと体を拭いたり、シーツを取り替えたり」
「マリガンの義体は?」
「ワープゲートを通して、ステーションに戻したわ。活動限界も近かったから」
そう言い、マリガンは微笑みながらリアンに視線を向ける。
「マリガン、俺に嘘をついたな?」
「……バレた?」
「インプラントの自動修復なんて、ステーションから修復キットを送れば1日足らずで終わるだろ?」
「そうね。サンドワームを倒して、通信障害も解消されたから」
サンドワームが倒れた今、通信障害も解消され、タイタンと言った大きな物資や装備も送れるようになった。
それでも、マリガンはあえて修復キットを贈らなかった。
「そうしなかった理由? わからない?」
マリガンは首を傾げて、あざとく上目遣いをしてみせる。
その行動に、リアンはため息をついた。
「ご無沙汰だったもんな。それに、マオとヤっといて本当に好きな女とヤらないのは、失礼だな」
「そう言うこと。自動修復が終わるまで『技術の結晶でできた愛』を確かめましょ」
マリガンの言葉にリアンは自身の体温が上がるのを感じる。
両者の頬がわずかに赤くなり、熱がこもる。
互いに視線を外さず、吸い込まれるかのように近づき、リアンは目の前の愛する人をそっと押し倒した。
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