第3話 死の呼び声 3
薄暗い地下渓谷。フルーは瓦礫の中で目を覚ます。
「……うっ!」
青髪の少女は腕の力だけで背中に
フレムいえど痛覚はある。
落ちた時の衝撃と、ミサイルの爆風で傷付いたフルーは眉をしかめた。
「——リアン隊長!」
リアンのことを思い出し、咄嗟に声を荒げる。
地下渓谷に堕ちる際、抱きかかえるようにしてリアンを保護したフルー。すぐに自分の下敷きになっている彼に声を掛ける。
「んっ……。フルーか……?」
「リアン隊長! ご無事で! お怪我などはありませんか!」
「あぁ、大丈夫……。フルーが守ってくれたからな。ありがとう」
フルーの咄嗟の判断でリアンを抱き寄せたことで、落下時の衝撃の緩衝材となり大事に至ることなく済んだ。
かすり傷などはあるものの、問題なく体を起こし立ち上がることができたため、行動をするに問題はなさそうだ。
「フルー、君は大丈夫か?」
「火傷などありますが、全体的な損傷は軽微です。地下渓谷の深さがそれほどなかったことが幸いの救いでしょう」
二人は天井に視線を向ける。
天井はビル七階ほどの高さがあり、落ちてきたところには大きな穴が開いている。外は砂嵐が吹き荒れ、地下渓谷の中に生ぬるい風が吹き入る。
ぽっかりと空いた穴を見上げながら、どうやって脱出を図ろうかと考えていると、リアンがとある異変に気付く。
「フルー! 俺達が落ちてきたところの穴、塞がり始めてないか!?」
天井から見える外の景色が徐々に狭まりつつあることに気が付いたリアンは穴の開いた部分を指さす。
穴の外側から、中心に向かって黒と金箔のようなものが散りばめられた、ドロリとしたものが目で視認できるほどのスピードでゆっくりと穴を塞いでいっているのだ。
「リアン! フルー! 無事かしら?」
「二人とも~、無事でしたか~?」
そこへ、ペスとカラメルが緊迫と安堵の表情でリアンたちの元へ駆け寄ってきた。
「ペス! カラメル! 無事だったか!」
リアンは駆け寄ってきた二人に視線を移す。
軽微な損傷はちらほらみられるが、どちらも大きな損傷などはなく、問題なく動けているようだ。
二人の生存が確認できたことに安堵するリアン。
「聞いてリアン! 私がカラメルを助けたのよ! すごいでしょ!」
「そうなのか、カラメル」
「はい~。ペスがスピードランナーの力を使って助けてくれたのです~」
「スピードランナーの異名は伊達じゃないわね。カラメルを抱えて落ちるがれきを足場に力を使って無事に着地したというところかしら」
「さすがフルー! 私のことをよく分かっているわね! スピードランナーは音速で動くことができる能力だもの! カラメルを抱えてぐらいでスピードが落ちることはないわ!」
いつものチーム『サバイバー』の雰囲気。
全員が無事であったことに各々は安堵のため息や喜びの笑顔を表情を見せた。
「さきほどから、周りが薄暗くなってきていませんか?」
カラメルの言葉に、リアンは穴の開いた天井を再度、指さす。
「穴の開いた天井が塞がりつつあるんだ。その影響で外からの光が閉ざされ始めてる」
一同は天井を見上げる。
ぽっかりと穴の開いた天井はリアンが一度目に確認したときよりも、半分以上塞がっていた。あと数分もすれば完全に塞がり、周辺は暗闇に包まれるだろう。
「あの天井は、ブロウクラーがフレムたちを地下渓谷に陥れるために、作ったものでしょうか。一応、ライトや暗視モードがあるので暗くなっても問題ないですけど、ここからの脱出が難しくなりますね~」
「現状、唯一の脱出口だからな。塞がったら他の出口を探すしかない」
「そうですね~」と言いフフッと笑うカラメル。こんな状況でも、ほんわかとした雰囲気を纏うカラメルは、肝が据わっているというべきか、能天気というべきか。
「リアン隊長、ここは——」
——バンッッ! ヒュンッ!
フルーがリアンに何かを言いかけた瞬間、渓谷の奥で乾いた爆発音のような音が鳴り響く。同時に、リアンの横を何かがかすめ頬に浅い傷が付いた。
「——敵襲!」
それが、敵の銃撃によるものだと気づいたフルーは咄嗟に声を上げ、敵が迫ってきたことを他の三人に知らせる。
咄嗟にチーム『サバイバー』は銃弾が飛んできた方向から身を隠す様に瓦礫の陰に隠れた。
一同は愛銃を構え、弾丸が飛んできた方向に視線を向ける。
穴が塞がった影響で視線の先は光が入らず、敵は視認できない状況となった。
「カラメル、ペス、視界を暗視モードに切り替えて。リアン隊長も暗視ゴーグルを装備してください」
フルーの指示により、フレムの二人は人口眼球を暗視モードへ切り替える。一方で人間であるリアンは、頭に装備してきた暗視ゴーグルを目元にずらし被せるように装着する。
「暗視モードって、視界が緑色になるから嫌いなのよね! 見づらくて仕方がないわ!」
暗視モードで渓谷の奥まで見渡せるようになった。しかし敵を視認することはできない。
スキャン装置も試してみるが、反応はなく完全に敵を見失っている状況であった。
「周囲を警戒しつつ、先に進みましょう」
このままここに居ても任務を遂行できない。
四人は瓦礫から身を乗り出すとフォーメンションを形成し、渓谷の奥へと足を踏み入れようとした。
そのときだった。
——ダダダダダッ!
けたたましい銃声が鳴り響く。同時にカラメルの体に銃弾の雨が降り注ぎ、大きな損傷を負った。
「カラメル!」
ペスは慌てた様子でカラメルの傍に寄る。
カラメルは銃弾の雨により致命的な破損してしまう。右腕は肘から先が千切れ、胴体は風穴が無数に空いている。
「敵視認! 天井です!」
敵は人型で背中から生えた機械的な足のようなもので天井に張り付き、マシンガンを構えていた。それも三体の敵が天井に張り付きチーム『サバイバー』に銃口を向けている。
フルーとリアンは咄嗟に瓦礫の後ろへ、ペスもカラメルの体を抱え、スピードランナーの力を使い、二人の元に合流する。
「このっ!」
フルーとリアンは瓦礫を遮蔽物として扱い、身を隠しつつ天井に銃口を向け応戦する。
「カラメルッ! カラメルッ! 起きて! 目を覚まして!」
二人が応戦している後ろで、ペスは安否を確認するかのようにカラメルに声を掛け続ける。
フレムにはコアがあり、動力源として稼働している。また頭には人工脳チップが搭載されており、この二つはフレムの大事な部位と言える。
この二つが破壊されない限りは、どれだけ損傷が激しくとも街にスペアボディがあれば、復活することが可能だ。しかし、どちらかが破壊された時点で行動に支障が出る。
カラメルは人工脳チップこそ無事ではあるが、コアが損傷し自力では動けない状態となっていた。
「あれは……まさか!」
応戦していたフルーが敵の正体に感づく。人工眼球のズーム機能で天井に張り付く相手に視線を定めた。
「リアン隊長! 敵はチーム『レガシー』の三人です! ブロウクラーに寄生され自我を失っています!」
「だから、スキャン装置にも引っかからなかったのか!」
「はい! フレムはスキャンに引っかからない特性を生かして利用したようです!」
チーム『レガシー』のメンバー三人はブロウクラーに寄生され、フレムを襲う敵と化していた。
レガシーのフレムの背中からは機械的な足のようなものが数本生え、手足はブロウクラー特有の装甲で覆われている。
腕の装甲は魚のうろこのような造形になっており、常にうねうね動いている。
「敵はフレムです! 情に流されないでくださいよリアン隊——」
フルーが言葉を紡ごうとしたとき、彼女の近くで爆発が起きる。
レガシーのフレムが放ったグレネード弾だ。それが、フルーの近くに着弾し爆発を起こしたのだ。
爆風の熱と風圧がフルーを襲い、後方へと吹き飛ばされる。
「うがぁ!?」
吹き飛ばされた先に尖った岩石が地面から飛び出ており、運悪くその岩石の真上に吹き飛ばされる。そして重力に従うように落下しはじめた体は岩石の真上に落ち、腹部に突き刺さる。
「フルー! この野郎!」
リアンは愛銃であるエネルギーライフルのトリガーを引き続け応戦する。しかし、一人で三体の相手をするのは困難であり、銃弾の雨が降り注ぐ。
「くそっ!」
瓦礫に身を隠すのが精いっぱいで応戦するのが困難な状況に陥っていた。
それを好機とみたのか、天井に張り付いていたレガシーの三人は地面に降り立つ。
レガシーの三人は背中にクモの足のように生えた機械的な六本の脚で地面に降り立つ。
すると銃を乱射しながらリアンの元へと近づき、背中に生えた脚で接近戦を仕掛けてくる。
「くそっ!」
リアンは腰に付けている二連しきショットガンに切り替え、速射をする。しかし……。
「あがぁ!?」
速射よりも早く、背中の脚が彼の腕を捉えショットガンを持っていた腕を切断する。
「ブロウクラー風情がぁぁ! 人間様に敵うと思うな!」
残ったもう一方の手でライフルを持ち、連射する。
しかし、本来両手で持ち撃つエネルギーライフルは片手では制御しきれず銃口がブレ当たらない。もうだめかと思ったそのとき、ペスがスピードランナーの能力で素早く敵の懐にもぐりこみ、ショットガンを連射した。
「よくもカラメルをッ! このぉぉぉ!」
激情のまま目の前の寄生されたフレムにショットガンを撃ちこむ。
近距離で最大の能力を発揮できるショットガンを連射された先頭のフレムはさすがによろめき、体に風穴が空く。しかし……。
「うぐがぁ!」
残り二体の寄生されたフレムの攻撃により、ペスの体は風穴だらけとなった。
ペスの瞳は光を失い、その場に崩れ去るように倒れる。
「くそッ! 俺の仲間たちが……」
腕からの出血が激しく、血液が持続的に地面に落ち足元が真っ赤に染まっている。立っている事さえ困難になりその場に膝をつくリアン。
「ここで、俺の人生は終わりなのか……。四つ目の世界にして俺の人生は……」
敵のフレムの銃口がリアンの頭に向いた。
今度こそもうだめかと思ったリアンは何の感情も沸かないまま、その場で跪いて死を覚悟した。
途端、彼の後ろから神々しい光が辺りを照らす。
何事かと、レガシーのフレムは光の咆哮へと視線を向ける。
それは黄金の両開きのドアで、神々しい光を放っている。扉の面にはさまざまな装飾が施され、金持ちのような豪華さがある。
その状況を不可思議に思ったのかリアンに向いていた銃口は扉の方へと向く。
同時に、扉はゆっくりと開き中からさらに明るい光が漏れだす。
まばゆい光の中から現れたのは、薄い白の布生地に包まれた男女の二人。
ダダダダダッッッ!!
寄生されたフレムは男女二人に対して、銃を乱射する。
しかし、二人は冷静な表情のまま目の前に手をかざすと見えないバリアのようなものが現れ、銃弾はすべてその壁に防がれた。
すると今度は、二人の男女はどこからともなく槍を召喚しそれを敵フレムへ投げつけた。
「グガァァァァ!」
槍はフレムのコアをぶち抜き、一撃で敵を黙らせた。
「彼が、異世界トラベラーの青年でしょうかね」
敵を倒した二人組の男女がリアンの元へ歩み寄り、男が女に問いかける。
「だと思われますよ。アリアンロッド様の求めている方だと思われます」
そう言うと二人はひん死のリアンの両肩を持ち上げ、扉の中へと連れ去っていた。
そして、扉が閉まると黄金に光る扉は姿を消し、当たりは暗闇に包まれた。
地下渓谷に残ったのはフレムの残骸だけだった。
「リアン……隊長……! お助けします……」
その一言を言い終えたところで、フルーの瞳から光が失われ動かなくなった。
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