第3章 総力戦

第22話 総力戦 ~ライピス編~

 一番に走り出したはずの私は、マオとかいうクソガキに遅れを取って敵陣の前に到着した。


 あの女から勝負を挑まれたとき、正直乗り気じゃなかった。


 けど、リアンさんを恋人にするとか言い始めたとき、何となく勝負に負けたくないと思った。なんでそう思ったのか分からない。


 たぶん、リアンさんは私を助けてくれた恩人だし、能力を見いだしてくれた人だからあんな女に取られたくなかったんだと思う。


 だから、足の速さに自信を持っていた私は、あの女よりも早く敵と戦って、灰鎧とか言う魔族を仕留めたかった。


 なのに、なんであのマオとかいう女は私よりも早く、敵と戦っているの?


 瞬間移動系の魔法でも使った? それとも、なにか細工でもしていたの?


 最初から勝ち目があると知っていて私に挑んだってわけね。


 最初の競争に負けたのは悔しかった。けど、勝負はこれから。一歩遅れての到着だけど、私もこの数日間、たくさんの魔族と戦ってきて剣術を磨いてきた。


 特にリアンさんから貰った、この『ソードマスターの剣』。


 自分の身の丈と同じぐらい長い刀身をもつ両刃剣。正直、これを渡されたとき、私には使いこなせないと思った。


 だって、村では片手武器の修行しかしてこなかったし、こんな重そうな武器を振り回すなんて無理だと思ったから。


 けど、リアンさんは「この剣は使い手を選ぶ。今はライピスを選んでいるんだ」とか、よくわからないことを言って渡してくれた。


 渡されたときは何か適当なことを言って私に両手剣の扱いを覚えさせようとしていたのかと思った。


 けど、初めて握って振るったとき、なんとなく言葉の意味を理解することができた。


 だって、この剣、私の手足のように動いてくれんだもん。


 初めて両手武器を扱ったのに、訓練のとき以上の爽快感があった。


 そして敵軍を前にしている今、このソードマスターの剣が私を選んでくれた理由が、何となくわかった気がする。


 言葉では言い表せないけど、何となくね。


 敵の軍勢が私の命を狙って、迫ってくる。猛犬、骸骨剣士、赤鎧……。前衛となる部隊が私に集まってくる。


 多勢に無勢、だけど不思議と怖くはない。勝てるビジュアルしか浮かんでこなかった。


 私は柄を両手でグッと力強く握って、腰の横に据える。そしてひと呼吸をして、集中する。


「グルゥゥゥ……グワァァァ!」


 目を赤く血走らせた数匹の猛犬が、私に牙をむいて一斉に飛び掛かってきた。


 だから自分の身の丈と同じぐらいの剣を即座に一閃させた。


「はぁっ!」


 村の訓練で習った片手武器の扱い方を応用して独自のスタイルで、強烈な横薙ぎを繰り出した。大きな剣にもかかわらず、ブオンと風を切る音が出た。


 数匹の猛犬は上あごと下あごの中心を起点に、上半身と下半身に分かれて散っていった。紫色の返り血が私を汚す。


 少し前の私なら、これくらいで腰を抜かしていたけど、今は違う。お父さんやおじさんを超える剣士になるため、私は戦い続けるんだ。


 遅れて骸骨戦士、赤鎧が襲い掛かってくる。


 骸骨戦士は片手武器と弓を番えた二種類がいた。どちらも、私の攻撃で一網打尽にできそう。だけど、弓を番えている方は私のテリトリー外から攻撃してくるから、少しうっとうしい。


 問題は赤鎧。敵は大軍勢。もちろん、赤鎧の数も多い。


 今、私の前に立ちはだかろうとしている赤鎧の数は三体。


 小規模部隊と出くわしたときに何度か戦っているけど、せいぜい一体か二体程度。


 それに、リアンさんの援護もあった。だから問題なく戦えた。


 けど、今は私一人。正直、一人で三体の赤鎧を相手をするのは難しい。


 近距離特化の赤鎧の武器は太刀。私の二回りは大きい巨躯から放たれる一撃は重いし強い。油断したら、人間なんて真っ二つにされる。


 だから考えなければ。


 考えろ私。どう立ち回るべきか、今まで培ってきた剣術を活かして戦うんだ。


「まずは、骸骨戦士を叩く。赤鎧との交戦を避けつつ、剣士タイプ、弓タイプの両タイプを叩いて数を減らす。そして、赤鎧との戦闘に集中できるようにするのが得策でしょう」


 私は口を開いて自分に言い聞かせる。


 頭で考えたことを、口にした方が作戦通りにいきやすいとおじさんから聞いたことがあるからだ。何事も声に出すことが大事。


 迫ってくる赤鎧三体から距離を取るように私は走る。


 昔から足だけは速かったから、赤鎧を突き放すなんて容易だ。


 私が走る先には、骸骨戦士が十体。うち前衛を勤める剣士タイプが六体、その後方に弓タイプが弓を番えて立っている。


「基本的な陣形ですね! こういうタイプはこうやって崩すのが定石です!」


 前衛部隊の間合いに入ったところで私は足に力を入れる。そして地面を蹴り上げて、飛び上がる。


 同時に後方に構えていた弓を番えていた骸骨戦士が矢を放ってきた。


 けど、それが狙い。きっと私が飛んだとき、打ってくると思った。


 だから私は、飛び上がるときに腰をひねって空中で体を回転させた。


 回転切りのように振るった剣で、飛んできた矢をすべて弾き落す。

 

 そして着地。同時に、弓を番えようとしている弓タイプの骸骨戦士に横薙ぎ一閃!


 骸骨戦士はバラバラに砕け散った。


 残すは、剣士タイプのみ。動きが鈍い骸骨戦士は片手武器を振り上げて一生懸命に走り、私に襲い掛かろうとしてくる。


 でも無駄。赤鎧の助けなしで骸骨戦士がいくら集まろうと、赤鎧一体分にも満たない。もろい体に再度、剣を一閃させたら簡単に砕け散った。


 今、私の前に立ちはだかるのは赤鎧の三体のみ。


 まだ、大軍勢が武器を構えて待っている。けど、襲ってくる気はなさそう。


 なら、目の前の赤鎧に集中できる。敵は三体。


 なんとか一体ずつ相手できればいいけど、たぶん難しい。あいつらも連携を取ってくると思う。だから、三体の攻撃を一度に回避して、その隙を突いて攻撃すれば……。?。


「こっちに突撃してくる三体の赤鎧が足を止めた? 一体何でしょうか」


 突然、私に向かって走ってきていた三体の赤鎧が足を止めた。そして何か、よくわからない言語で話し始めた。


 そして、三体のうち二体が横へと体を向き直して武器を構えた。さらに後方にいる軍隊の何体かも、同じ方向を向いている。一体何が起きているの?


 ガシャン……、ガシャン……。


「なんの音?」


 一同が向いている方向から何か音がする。たぶん、鉄と鉄が擦れる音、甲冑を着た何かが近づいているのかもしれない。


 でも、今目を背けるわけにはいかない。接近してきた赤鎧のうち二体は、音のする方に気を取られているけど、先頭の一体は私に視線を向けている。


 音のする方は無視して私と戦う気だ。


 一対一ならなんとかなるかも。


 私一人でも、やれるといことをここで証明する。


「ガァァァッ!」


 太刀を構えて、迫ってくる!


 私も武器を構えて……!


「ガッ!?」

 

「何!?」


 一体何が起きたの? 赤鎧が私に攻撃しようと向かってきたと思ったら、目の前で首が吹き飛んだ。ほんとに突然の出来事。


 そして、赤鎧は力なくその場に崩れ去る。


 後方にいる二体にも視線を向けると、目の前の赤鎧同様に首を刈り取られている!


「どういう、こと!?」


 私は何が起きたのか理解できなかった。けど、何で首が吹き飛んだのかはすぐに分かった。


「剣が……浮いている?」


 目の前で剣だけ宙を浮いてが暴れまわっていたんだ。


 刃の幅が長い片手武器が赤鎧の首元を狙って一閃していた。半月の軌道も残っている。


 すぐに私はその場から距離を取って、浮いている武器に視線を送る。


 すると武器は持ち主の元へ戻るようにして、柄の方から戻っていく。戻っていく先は、音のしていた方向だ。


 私は武器の軌道を追うように、視線を向ける。戻った先には、黄金の甲冑を全身に纏った何かが三体いた。


 甲冑の中身は人間なのか魔族なのか分からない。けど、甲冑の大きさは、赤鎧や青鎧と同様に巨躯。人間の二回りは大きい。


 たぶん赤鎧と同じ魔族だと思う。だけどどうして赤鎧を攻撃しているんだろう。


「現代の魔王軍に次ぐ。先代魔王軍に魔王城を明け渡せ。さもなくば、『三種の神鎧』を我々の手で殺そう」


「黄金の鎧がしゃべった!?」


 いったい、どういうこと? 今の言葉から察するに、魔王軍と敵対している組織ってこと? でも自分たちのことを魔王軍って読んでいた。


 でも、目の前に広がる軍勢と敵対しているのは分かる。


 なら、ここは協力して……。


「現代の魔王軍には力がない。我ら先代魔王軍が人間たちの世界を征服しよう」


 協力は無理そうだ。人の世界を征服しようとしている奴と協力しても、いいことはない。


 もし、私の前に立ちはだかるようなら戦わなくちゃ!

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