第24話 総力戦 ~リアン編~
俺は誰よりも早く、灰鎧との決着を付けたかった。
というのも、マオが勝てば俺は恋人にされるし、ライピスが勝てば何かしらの頼みごとをされるかもしれないからだ。
簡単な頼み事ならライピスを応援したいのところだ。しかし何を願うのか分からない以上、灰鎧を倒すのが難を逃れる唯一の策だ。
だから、誰よりも早く最短で灰鎧を叩く!
「敵の数も数だ。使えるものはすべて使う!」
俺はエネルギーライフルの銃口を敵陣へ向ける。そして引き金を引くと同時に、走り出した。
弾丸は四方八方にばらける。しかしそれでいい。灰鎧の前には、壁のようにたたずむ多くの敵がいる。
適当に撃ってもどいつかには当たる。
そして、敵が集まっている場所に最も効果的なのがこれだ!
「グレネードランチャーでも喰らっとけ!」
俺はインプラントを埋め込んだ右腕を前に出すと、肘と手首の間の上部が開き、口径の太い銃口を出現させる。
そして、拳をグッと握ると同時に、拳大の弾丸が発射される。
弧を描いて飛んで行った弾丸は、敵陣のど真ん中に着弾。同時に爆発を起こした。
爆発は強力な破壊力と熱風を巻き起こす。着弾した場所から数百メートル内に居た敵はその場で跡形もなく消し飛んだり、熱風で吹き飛ばされ体は崩れ去った。
敵の士気は混乱に陥っている。
大きなくくりで見れば大規模部隊だが、所詮は小規模な部隊が集まった部隊でしかない。
灰鎧という指揮官がいるとしても、各部隊にもリーダーが存在する。
先の爆発で、数体のリーダーを倒したと思う。その影響で、数部隊が混乱に陥って全体的な士気が下がっているんだと思う。
過去に旅をした世界で経験した知識だ。
俺はさらに敵の陣形を崩し、指揮を下げるためにエネルギー弾を撃ち込み、同時にグレネードランチャーもお見舞いする。
そうやって遠距離から敵の中心部に向かって攻撃を続け、敵の戦力を削ったところで、青鎧と赤鎧、紫鎧の混合部隊が襲ってくる。
「青鎧は遠距離に特化した魔族、赤鎧は近距離に特化した魔族、そして紫鎧は赤と青の両者の特徴を備えた魔族。先に潰すは、青と紫だな」
俺は迫りくる敵に対し、冷静に判断する。
数にして赤鎧が5体、青鎧が6体、紫鎧が2体だ。
灰鎧を守る部隊として、文句なしの戦力と言える。
前線を張って迫ってくるのは赤鎧、その後方に青鎧と紫鎧が大弓を構えている状態だ。
青鎧は魔法の大弓を形成し、魔力が付与された大矢を放ってくる。この世界に降り立ってから小規模部隊との戦闘で学んだ。
俺自身も遠距離に特化した特徴を持っている。エネルギーライフルにグレネードランチャー、ショットガンまで備えている。
武器の種類は豊富だけど、こっちは一人だ。
だから、同じ特徴を持つ青鎧は早急につぶしておかなければ、数で圧倒的に不利になる。
それに、赤鎧との近距離戦になったとき、目の前の戦いに集中できない。
俺は迫りくる赤鎧たちの攻撃をするりとかわし、さらに奥にいる青鎧と紫鎧に向かって走る。
射程は大弓の方が広く有利だ。もちろんかなり離れた状態からでもエネルギーライフルで応戦できるけど、弾がばらけてまともにダメージを与えられない。
案の定、距離を詰めさせまいと青鎧と紫鎧の魔法の大弓が放たれ、計八本の青白く光る大矢が降り注ぐ。
矢の数はさほど多くないしスピードも速くはないけど、巨大だ。普通の矢の数十倍の大きさがある。加えて、着弾時に小規模な魔力爆発を起こすため、とても厄介だ。
そこで俺は真正面から突っ込むのではなく、あえて迂回して走る。そうすることで着弾地点の予測をしにくくし、大弓の照準を狂わせる。そうすることで、ある程度こちらが有利に戦える。
俺は走りながらじわじわと大弓を番える敵部隊との距離を詰める。そして、ある程度まで近づいたらエネルギー弾とグレネードランチャーをお見舞いする。
「ガァァアァッ!」
エネルギー弾の集中砲火で青鎧を一体、グレネードランチャーの爆発で青鎧をさらに二体を瓦解させる。
このままもう一度同じ攻撃で押し切れれば!
「グガァァァァァ!」
「チッ! 赤鎧どもが追い付いてきやがったか!」
殺気のする方へとすばやく視線を横に向けると、さっきの赤鎧たちが、迫っていた。
加えて紫鎧も大弓から太刀に切り替え、距離を詰めてき始めた。
遠距離では不利と感じた鎧たちが、是が非でも近距離戦に持ち込もうと必死なんだろう。
「スピードライズで青鎧たちとの距離を詰めるか? いや、このインプラントはまだとっておきたい。多用すれば体に害が及ぶからな」
この場を乗り切る方法として、背中に埋め込まれたインプラント『スピードライズ』を使ってもよかった。黒鎧と戦ったときに使ったやつだ。
でもこのインプラントは短時間に使いすぎると、内側から体を壊す。すなわち死だ。
だから、スピードライズは灰鎧戦に取っておきたい。
「スピードライズを使わずにこの場を乗り切るんなら、ショットガンとヒートブレードで応戦を——」
俺がショットガンとヒートブレードを顕現させたと同時に、赤鎧たちが一斉に襲い掛かってくる。
ヒュンッヒュンッ!
無数とも言える刃が目の前で半月の軌道を描き、空を切り裂く。
一体が空を切れば別の一体がカバーするように太刀を一閃させる。
そうやって、こちらに攻撃の隙を与えないようにしているのだろう。
確かに数による暴力は何よりも強い。でもそれは相手が格下の時だけだ。
「数で押し切れると思ったら大間違いだ!」
俺は空を切った太刀の一瞬の隙を突いて、左手に持っているショットガンの銃口を敵に向け引き金を引く。まさに早業と言える特技だ。
俺の持っているショットガンは片手で持てる銃口の短い二発まで装填できるものだ。引き金を引けば散弾を発射して、敵との距離が近ければ風穴を開けることができる。
加えてショットガンに使用する弾は特殊仕様の強力なものとなっている。
「おらぁ!」
ショットガンの弾は広がり、四体の赤鎧に無数の風穴を開けた。
「後方から殺気!」
残り二体の赤鎧を処理しようとしたとき、後方からの殺気。
俺は殺気で攻撃されるだろうと気づいたと同時に、横へと飛び攻撃を避ける。
地に手を着いて避けたと同時に伏せた瞳を上げると紫鎧が太刀を振り下ろしていた。そしてもう一体の紫鎧が太刀を振り上げて俺の目の前で立っていた。
即座に横に転がり振り下ろされる太刀を避けると、カウンターでショットガンをお見舞いする。同時に
目と鼻の先に紫鎧が立っていたおかげで、かなり強力な一撃をお見舞いすることができた。おかげで、紫鎧の一体を瓦解させることに成功。
そして赤鎧と紫鎧との距離を詰め、ヒートブレードに熱を帯びさせると横薙ぎに一閃させた。
「赤熱化したヒートブレードはどんなものでも、溶かし切り裂く強力な一撃だ! 地獄で味わう苦痛の余興とでも思って喰らっとけ!」
赤い半月の軌道が赤鎧と紫鎧の胴体を一閃する。数秒遅れて。赤鎧と紫鎧を上半身と下半身に真っ二つになった。
これで邪魔されることなく、残りの青鎧を倒せる。
「——?」
途端、俺は違和感を覚えた。
青鎧の攻撃が飛んでこない。どういうことだ?
不思議に思った俺は青鎧の残党に視線を向ける。
すると青鎧は俺に向かって矢を放ってはいなかった。矢は俺の頭上を越え空高くで大きく弧を描いて、ライピスの居る方へと飛ばしていた。
「まさかこいつらライピスを狙って!?」
すぐさま俺はライピスを助けるべく、青鎧を倒さねばならないとライフルを構えた。
けど、何かおかしい。矢の軌道からして明らかにライピスのさらに奥へと矢を飛ばしている。
一体何を狙って矢を飛ばしているのか、俺は確認するため矢の軌道を目で追ってその正体を目の当たりにした。
「ライピス、マオ! なんであいつらが一緒になって、それに二人と対峙しているあの黄金の鎧を着た魔族は何だ?」
黄金の鎧を纏った魔族は巨大な馬に乗り、両手持ちの戦斧を片手で振り回して暴れている。
黄金の鎧を着た魔族は他に二体いて、それらは灰鎧を率いる大規模部隊と戦っていた。
「味方ではなさそうだな。とにかく二人の加勢をする」
二人かかりでも苦戦している相手に、俺は加勢すべく走った。
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