第25話 過去の囚われ
また、俺は仲間を失うのか。俺はあんな苦しく悲しい気持ちになるのか……。
俺が走り向かう先で、苦戦しているライピスとマオを見て、過去のことを思い出してしまう。
最初は家族を殺した奴に復讐するため強くなろうとした。銃の扱い方だって覚えたし、インプラントだって入れた。
家族を殺した奴に復讐することが出来ればそれでいいと思っていた。
最初に飛んだ異世界で、俺は本当に狂っていたいと思う。
復讐心に囚われて、何もかもどうでもいい。自分がいる世界に復讐する相手が居なければ、とっとと課題を達成して人と関わることなく、壁となる存在が現れれば暴力で押し通ろうとしていたのだから。
弱いのにも関わらずだ。
だから、力づくで通ろうとする場面があれば必ず俺がやられていた。ボコボコにされたし、何度大きなけがをしたかも分からない。
その世界に住まう医者や神父にどれだけ迷惑をかけたかを分からないほどに。
それくらい自分以外のことはどうでもよく、世界のすべてが灰色に見えていた。精気なんてなかったと思う。
でも、そんな俺に色を与えてくれたのは、一人の女性だった。
「私の名前はマリガン、よろしくね。君に少し興味を持ったから話しかけさせてもらったよ!」
その女性は殺気立つ俺に物怖じすることなく明るく話しかけてくれた。
彼女の名は『マリガン』。星の首飾りをした金髪の女性。
とても優しくて、こんな俺にも優しく笑顔を向けてくれた。
「あなたも誰か大切な人を殺されたの?」
最初こそ、俺は彼女にさらなる強力な圧と殺気を向けて追い返そうとした。けど彼女は冷静で物怖じせず、俺が質問に答えてくれるまでじっと笑顔で見つめてきた。
結局、根負けした俺は渋々質問に答えた。
「……そうだ」
「そうなんだ。なら、私と一緒。仲間だね!」
彼女は弾んだ声音で答えて見せた。そして、自身の胸元に首から垂れ下がっている星型のアクセサリーを指さす。
「この星はね、死んだ人との絆を結んでくれる代物なんだ。だから、私の大切な人といつまでも繋がっていられるんだ!」
そう言って無邪気な笑顔を向ける彼女。
そんな彼女に俺は不思議と興味を持ち、同時に疑問を抱いた。
「……。なぁ、どうしてそこまで笑顔でいられるんだ? 口調からしてあんたも大切な人を殺されているんだろ? どうして他人に構う余裕があるんだ? 復讐しようとしないのか?」
「ん~~。そうだなぁ。復讐はよくない! とは思わないし、復習したいと思うよ? でも復讐心に囚われたら、自分を見失うから」
「自分を見失う……?」
「そっ! 君にだって心当たりがあるんじゃない? 復讐のことばかり考えて、周りのことがみえていない。チャンスを無駄にして目的の達成も遠くなる。目的を達成するにはね、一人ではできない。仲間の協力が必要なんだよ」
この言葉に俺は、ハッとさせられたのを覚えている。不思議な気持ちになって、周りが色鮮やかになっていくのが分かった。
「大事なのは次の一歩を踏み出すこと。そうすれば新しい自分を見つけられるから」
その笑顔と言葉は俺を復讐という鎖から解き放ってくれたと思う。俺を変えてくれた恩人だ。
だから、彼女が望むことなら何でもしようと思った。
——でも彼女は殺された。
彼女はとある組織の長の娘で、常に狙われている存在だった。そして組織を狙う者たちから暴力を受け、慰め者にされて、最後は絞殺。
ひどい殺され方。無慈悲な世の中で最低だと思った。みんな、死んでしまえと思った。
彼女のおかげで組織の長に口利きをして、銃の扱い方を教えて貰った。俺を復讐の鎖から解き放ってくれた。
何もかも助けてもらった。
なのに俺は何も恩返しできていない。
——悔しかった。
だから俺は、この時ばかりは修羅となった。長に先を急ぐなと止められたけど、突き進んだ。あらゆる手を使って犯人を突き止めて、そして覚えたての実銃で銃殺した。死体に鉛弾を何度も打ち込んだ。
でも悲しい気持ちは晴れない。
また大切な人を失った事実は変わりないから。
一度宿った喪失感は、俺の心をえぐり続け、奈落の底に落ちていくかのようだった。
そんなとき組織の長、つまりマリガンの父親が俺を呼んだ。喪失感に心を追われながらも長の前に座る。するととあるものを俺に差し出した。
星の首飾りだった。彼女がいつも身に着けていた大切な首飾り。
『私が死んだら、リアンに渡して。これは、私とリアンといつでも一緒にいるっていう証だから』という遺言と共に。
とても泣いたのを覚えている。皆がいる前で、大泣きした。多分、組織に仕える他の人たちも泣いていたと思う。
涙がひと段落着いたところで、長はもう一つ、手渡してきた。
「この……四角いチップは……?」
「娘のすべてが入ったデータチップだ。性格、人格、すべてが入ったチップだ。死ぬ前日までの記憶も入っている」
彼女の生きた世界では人工の脳として、データチップに生きた者のすべてを科学的な力で残せる技術がある。
莫大な資金が必要なため、一般人には到底無理だがここは組織。それも巨大。財産もたんまりあるというものだ。
長はその資金力を使って、彼女の脳をデータ化して保存していたのだ。
それを聞いたとき、俺はこれが彼女との思い出、キズナなのだと思った。
彼女のことを一生忘れないように、お守りにしようとした。
そして俺はこの世界での三つの課題を終え、次の世界に向かった。
次の世界ではさらに技術が発展しており、人間に機会を埋め込む『インプラント化』ができる世界だった。そこで彼女のチップを人工知能化して、俺のサポートシステムにすることができると言われた。
最初こそ、拒否していた。
だって、大事な『思い出』だし、お守りだ。
でも、眠るたびに彼女が夢に出てくるんだ。そしてこういう。
『君を助けたいよリアン。ただ守られているだけじゃ、君のことを良く知れないじゃないか! だから、私に君をサポートさせて』
一度だけでなく、何度もだ。これは、彼女の求める意思なのだと察した。
だから、彼女を近くでもありいつでも会える、そして安全な場所から俺のそばに居られる場所へ、データチップをステーションの人工知能にした。
そしてロケットで宇宙へとマリガンの人工知能が積まれたステーションを発射。
サポートができる、マリガン・ステーションを宇宙へと解き放った。
そして俺はさっそく通信を試みた。
「マ、マリガン?」
「やぁ、久しぶりだね。リアン」
その優しい声を聞いたとき、俺は自然と涙を流していた。彼女が生きている。生身じゃないけど、こうやって話せている。
それだけで嬉しかった。
「
「とてもきれいだよ。私たちの住む星が光っていて綺麗だよ」
「そっか。よかった」
「ありがとう私をサポートステーションのAIにしてくれて」
「これなら、俺といつでも繋がれる。世界のどこに居ても、世界を超えた別の場所に居てもだ」
「そうだね。ずっと君のそばに居られるよ。ありがとう」
あのときは、世界観的にも運が良かった。だからマリガンは……、俺の大切な人を別の形で助けられた。
だけど、そうよく運がいいことは続かない。
俺は、フルーとカラメルもペスを救えなかった。あの厳しい世界で俺のことを認めてくれた最初の仲間だったのに。
恩を仇で返した気分だった。
だから俺は二度と仲間を失うようなヘマをしない!
できることはすべてやる!
ライピス、マオ! 俺が助ける!
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