異世界トラベラーは世界を救う

@hajime0012

プロローグ

第1話 死の呼び声 1


 今にも崩れそうな亀裂の入った廃ビルが立ち並び、地面には瓦礫やサビた看板などが倒れ、視線の先にはひしゃげた車が放棄されている。


 割れた地面の隙間からポピーの花や緑の雑草がひょっこりと姿を見せ、緑のツルがかつての人工物に蔦を張っている。


 危険な雰囲気が漂う市街地を、チーム『サバイバー』の4人は警戒して歩く。


「リアン隊長、目的地まであとどのくらいですか?」


 足場の悪い中、青いロングヘアーを靡かせ歩く美少女が1人。


 青を基調とした服を着用し、腕や足に予備マガジンや応急キットを入れた小型ポーチを装備している。


 腰を覆うように青色の合金でできた防具が装備されている。軽量でありながら、高い防御力を誇る防具だ。


 合金装備の下から足先に掛けてはぴっちりとした足の形が浮き出るほどのズボンを履いており、動きやすいように伸縮性に優れたものになっている。


 膝から下は茶色のブーツを履き、前面が合金で覆われている。


 少女は前方を歩く茶髪の男、リアンに問いを投げた。


「残り5キロってとこだな。疲れていないか、フルー」


「大丈夫です。私たちは人間ではなくフレムなので疲れることはありません。お気になさらず」


 フルーと呼ばれた少女は凛とした声音で言葉を返す。


 目的地が近いことを知った少女はさらに警戒を強めるように愛用のアサルトライフルを再度グッと握り締める。


「相手は殺人ロボです。人を簡単に殺してしまう恐ろしい敵なので、くれぐれもご用心ください」


「ああ、分かってる。心配ありがとう。フルーも装備に抜かりはないか?」


「大丈夫です。私の装備は動きやすさに特化した汎用性の高いものですから、戦場を自由に動き回れます。ご指示をくれれば、いつでも動けますので」


 彼女の装備は銃撃戦時に、動きやすさに特化したものだ。敵のビームを防いでくれる優れものでもある。


 無論、フレムは人間に似た体内が機械の存在だ。人造人間と言ってもいいだろう。 


 そのため生身で攻撃を受けても特殊素材で作られた皮膚が体を守り、軽く傷を受ける程で済む。


 最悪、動けなくなっても体内の中心にある、コアを破壊されない限り何度でもスペアボディで復活できるのだ。


「そうか。カラメルとペスはどうだ? 疲れていないか?」


 フルーのさらに後ろを歩く2人に視線を向けて問いかける。


「私も大丈夫ですよ~。ペスはおこちゃまですからお疲れなんじゃないですか~?」


 ほんわかとした雰囲気を纏う黄色のツインテールが印象的なカラメルは、カラメル色の瞳をリアンに向け優しくやんわりとした口調で返事をする。


 しかし、装備しているものはフルーと同様、物騒なものばかり。


 黄色を基調とした防御性の高い二本の白い線が入ったシャツ。腰ベルトにはポーチが数個備え付けられており、どれも星やハートと言った模様が描かれている。


 スカートはオレンジ色で目立つ。


 任務中だというのに、おしゃれさが垣間見える。


 特に手に持つサブマシンガンは簡単に人に風穴を開けられる代物だ。ふんわりとした雰囲気につられて彼女をナンパすれば、相手は痛い目を見るだろう。


「子ども扱いしないでよカラメル! 私だってフルーやあんたと同じフレムなんだから大丈夫なの!」


 一方で、ペスは揶揄からかってくるカラメルに対し犬のように吠えている。薄紫色のショートヘアーを揺らし、今にもガブリと噛みつきそうな勢いだ。


 チームの中で最も低身長であるがゆえに子ども扱いをされることが多いペス。特にカラメルから揶揄われることが多い。


 しかし、装備は部隊の中で一番、重装型。薄紫を基調とした長袖の内側に鉄板が入った服で身を包んでいる。


 これは、彼女が最も近距離で戦うことの多いショットガンを愛用しているからだ。敵との距離が最も近くなる彼女が、多く被弾するため数多くの攻撃に耐えられるよう設計された服に身を包んでいるのだ。


「でも残念だったわねカラメル! 私は最近大人の魅力を引き出す方法を思いついたのよ! どうかしらリアン、今の私、大人っぽさがあふれ出ていない?」


 先頭を歩くリアンに視線を向け、どや顔で胸を張り自身の大人っぽさをアピールする。


 一度足を止め、リアンは振り返りペスへ視線を向けると少し考えこんでから言葉を紡いだ。


「うーん。いつも通りな気がするけど……」


 人間であるリアンにはどこに大人っぽさがあふれ出ているのか、理解できなかった。


「なんでよ! ほら、大人の魅力ってのを感じるでしょ! フルーなら分かってくれるわよね!」


「あなた、香水を変えた? それで大人っぽいって言っているの?」


「そう、だけど……。大人っぽい匂いでしょ!」


「それで大人っぽくなると考えているあたりが子供っぽい」


 的を射るような言葉に、ペスは頬を膨らませ犬のように吠えた。


「しかし、連絡が途絶えた部隊の生存確認なんて、なぜ私たちサバイバー部隊に任せたのでしょうか」


 犬のように吠えるペスを尻目にフルーはリアンに視線を戻す。


「んー。今までそれなりの功績を上げてきたからじゃないか? 今までも大型や特殊個体ブロウクラーを倒すっていう誰も成し遂げられなかったことを成し遂げたわけだし」


「でもこの任務は子どもっぽくない? もっと難しい大人っぽい任務がしたかった」


「この任務も成し遂げれば大人の階段をひとつ上ることができますよペス~」


 大人の階段を登れるという言葉に、頬を膨らませて犬のように怒っていたペスは、打って変わって目を輝かせた。


「三人とも止まれ!」


 先頭を歩いていたリアンが右手を後ろに伸ばし、咄嗟に声を静めるよう後ろの三人に言葉を投げかける。リアンが何か敵がいた痕跡を見つけたようだ。


 そして彼は右手のひらを後方の彼女らに上下させ合図を出す。彼の合図に従うように三人は姿勢を低くし、手持ちの武器を握り締める。


「カラメル、スキャンできるか?」


「了解で~す。スキャンしま~す」


 カラメルは腕時計を見るように右腕を上げリアンが視線を向けている方向へ向ける。そして腕に装着されたスキャン装置を起動する。すると腕に装備されている機械から小型画面が現れる。


 小型画面には水色の画面が全体に表示され、ところどころに白く丸い点があり大小の波紋が出ている。


「小さい点が七つ。波紋はまだ小さいです~。スキャンできる範囲にいるのは小型のブロウクラーですね~」


「大型のブロウクラーの存在を示す大きな点はないか?」


「スキャン装置には映ってませんね~。敵との距離もありますし、迂回すれば接敵は避けられますが、どうしますか~、隊長~」


「このまま進んで、小型のブロウクラーを排除する。迂回すれば、大型タイプと接敵する可能性があるからな」


「了解で~す。波紋の大きさから大体300メートル進んだあたりで接敵すると思います~」


 スキャン装置は一見万能な機械のように思えるかもしれない。しかし、画面に映し出されるのは敵のいる方角とブロウクラーの種類。そして大体の距離だけである。正確な位置までは分からないのだ。


 だが、数々の経験から一度スキャンをしただけで、カラメルは大体の位置を把握できるのだ。


「分かった。みんな、攻撃態勢に移行する」


「了解!」


「了解です」


 壁越しのスキャンで大体の敵の位置と種類を把握したチームサバイバーはフォーメンションを取る。


 チームサバイバーは市街地の大通りを歩いている。目の前に広がるのひびの入った道路やビル、窓ガラスが割れたファーストフード店など廃退した場所だ。歩くたびに小石がじゃりじゃりと音とたて、風化した街独特の空気が四人の間を抜けていく。


 廃ビルを遮蔽物として使いながら、先の状況を視覚で確認しつつ敵のいる位置へと歩を進める。

 

 誰一人言葉を発しない。コンクリート片が転がる道路をじゃりじゃりと音を立てながら歩く音と、服の擦れる音だけが聞こえる。


 何気ない足音も、武器のグリップを握る音も、呼吸する音も敏感に聞こえ、騒音にも似た不快感を覚える。


 シュワン、シュワン……。


 そうした緊張感の中、数百メートル進んだところで奇妙な機械音が聞こえてくる。


 音が聞こえてくる方向からビルを一棟挟み物陰に隠れる。


 リアンはカラメルに視線を向けると自身の右手首の甲に左手でポンポンと軽く二度叩き合図を送る。


 その意図を読み取ったカラメルはスキャン装置を再度起動し、音のする方向へと画面を向ける。


 すると、点の数は変わっていないが波紋の大きさはかなり大きな円を描いて広がっていた。


 その画面を確認したカラメルは三人に敵がビルを隔てた向こう側にいるという合図を出す。


 合図を確認した三人はそれぞれ愛銃を構えて、フルーがビルの物陰から先の状況を確認する。


 敵の位置は視認できない。恐らく、ビルの物陰に隠れているのだろうと推測。


 敵を排除するため、フルーは周りの状況を確認する。


 大通りの中央部分には、壊れた車とビルの上層階から崩れ落ちてきたであろうビルの残骸が放置されていた。


 そこに目を付けたフルーは残骸に向かうと手のひらで合図を出し、彼女を先頭にして一行は大通りに放置されている残骸へと走る。


 腰を屈め、残骸改め遮蔽物へ身を隠し息を整えると、フルーは頭の先端だけを遮蔽物から出すようにして音のする方へと視線を向ける。


 彼らが予想した通り、ビルを挟んだ向こう側に小型のブロウクラーが群がっていた。


 四足歩行の小型タイプで身長は160センチメートル。人間とほぼ同じ大きさ。横幅は人間二人分ほどある。


 上半身の7割は鉄で覆われており、下半身は四足歩行の型、見た目はロボットそのものである。

 

 頭のてっぺんに向かって細くなっていく三角頭タイプから、鉄球のように丸いタイプ、キューブのように四角いタイプが混同している。いずれも中心部には赤く機械じみた目が周囲を見回している。


 頭の形によって、武器が異なり、ガトリング、ミサイル、レーザーなどが装備されている。


「敵を目視。数はスキャン装置に合った通り小型タイプが7体。何かに群がっているようです」


 頭を引っ込め、目視したものを小声で伝えるフルー。


 状況を確認したリアンは、戦闘を開始する合図を一同に手で行い、各々自身の持つ愛銃に手を掛けた。


 そして、リアンの合図とともにブロウクラーとの戦闘が始まり、銃声が廃墟化した市街地に木霊した。

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