第30話 決戦

「人間よ、お主も我らと同じ身も守る鎧を纏ったか。我と同等の恰幅だが、人間ごときのお主に扱いきれるのか?」


「悪いな、こいつはただの鎧じゃない。お前が着こんでいるただの鎧じゃない。近距離も、中距離も攻撃できる兵器なんだ」


 トラディスガードも成人男性の数倍はある身長と恰幅の良さ。鎧の中身もかなり恰幅のいい魔族なのだろう。


 一方でリアンが乗っているタイタン・ソルジャー01。こちらもトラディスガードと同等の大きさを誇る。


 全身が黒塗りで、まさに漆黒という言葉が似合う色。頭、胸部、腕、足、すべてがごつごつとした機械的なシルエットをしており、両肩部けんぶには板状のシールドが備え付けられている。


 背中には近距離武器である大型マチェット、左腕にはガトリングガンが装備されている。


「人間がどのような鎧を纏ったところで、我が力の前に平伏す事実は変わらん! 我が戦斧の前に平伏せ!」


 怒号交じりの咆哮を高らかに出すと、トラディスガードは戦斧を振り回し構えると、リアンの元へ軍馬を走らせる。


 同時にリアンもタイタンを操縦し、背負っているマチェットを手に取り構える。


「我が一撃で、その鎧ごと破壊して見せようぞ!」


 戦斧の射程圏内にタイタンを捉えたトラディスガードは大きく飛び跳ね、同時に戦斧を振り上げる。そして、彼自身の力と重量を組み合わせた戦斧がタイタン目掛けて振り下ろされる。


 その力は傍から見ても分かるほど強力で、空気が裂けて見えるほど。


 この世界に存在するどんな丈夫な鎧でも真っ二つにしてしまう勢いだ。


「マスター、敵の戦斧の威力は絶大です。ですが、最新鋭の装備品が備わっている私であれば、マチェットで防げるかと」


「言われなくても分かってる! はなから01の力を疑ってはいない。お望み通り、マチェットで攻撃を防いでやるさ!」


 即座に相手の攻撃を分析したタイタンはマスターである、リアンに提案を持ち掛ける。しかし、リアンはソルジャー01の力を知っており、分析するよりも早く行動に移していた。


 振り下ろされる戦斧、それを防ぐマチェット。ふたつの武器が交差したとき、ド派手な火花を散らした。


 ギリギリと音を立てるタイタン。攻撃を受けた衝撃で地面がクモの巣のようにひび割れ、衝撃波が周囲に広がる。


「こんなもん、弾き返してやる!」


 戦斧から加わる力は巨大で、確かに強い。


 しかし、リアンは余裕の笑みを浮かべて操縦桿をド派手に動かした。


 その動きに合わせて、タイタンもマチェットを半円を描くように振るい、戦斧を弾き返す。


 弾き返されたトラディスガードは、その反動で大きく仰け反りバランスを崩す。


「最適な空間に胸部がガラ空き。こんなもの、弱点をさらけ出しているのも当然だな」


 瞬間、タイタンはマチェットを振りかざす。


 無防備な状態となったトラディガードに対し、右肩から左腰に掛けてマチェットを一閃させた。


 マチェットの軌道は人の目で捉えられるほどの綺麗な三日月を描いており、誰が見ても強力な一撃だと予測できるのは確かだった。


 そして現に三日月の軌道が消えると同時に現れたのは黄金の鎧が大きく引き裂かれた姿だった。


 ぱっくりと開いた鎧からは紫の鮮血があふれ、軍馬を伝い地面をに池を作り出していた。


「グガァゴァァァ!」


 言葉にならない苦悶の声を上げるトラディスガード。


 完全に戦意を失い、戦斧を手から離す。そして、重力に任せるように天を仰ぐ。


 刹那、主人の死期を悟ったであろう軍馬が暴れまわり、トラディスガードを振り落とす。


 トラディスガードは崩れるように落ち、地面へと転がる。


 地に背中を付けて倒れ込むトラディスガード。そこへ軍馬はゆっくりと近寄り、弔意を表すかのように優しく寄り添う。


「ぬぐぅ……やるなぁ……人間……。我が鎧よりもなかなか良い鎧を持っているようだな……。そして、その鎧を手足のように使いこなす……。素晴らしい人間だ……」


 息も絶え絶えの中、トラディスガードは消え入りそうな声でリアンに口を開く。


「自分が死ぬと分かっているのに敵に対して賛美を送る。魔族にしては人間に近しい騎士道を持っているようだな。素晴らしいよ」


「ふぬぅ……その言葉……褒め言葉と受け取って置こう……」


 寄り添う愛する軍馬に手を伸ばし、頬や顎下を摩る。


「すまぬな……我が愛馬よ。一緒に生きて行けず……。お主は、お主の生きたいように生きるのだ。誰に仕えようとも……我は反対せぬ……」


 その言葉に、軍馬は哀傷を目に秘めてトラディスガードに寄り添った。


 そして、顎下を撫でるトラディスガードの手が地面に落ちたとき、軍馬は彼の顔の脇へと立ち自身の顔をその鎧へこすりつけた。


 主人がこと切れたことを察したのだろう。


 しばらく寄り添うと軍馬はトラディスガードの元を離れリアンの元へ近づく。


 敵意はないと感じたリアンはタイタンから降り、軍馬に歩み寄る。


 軍馬はリアンの前に立つとそっと自身の頭を降ろした。


「そうか。あいつの経緯を汲み取って俺の脚となってくれるのか。ありがたい」


 リアンにはタイタンがある。軍馬以上に性能がよいものであり、この世界の技術では計り知れない力を持つ乗り物だ。


 便利だが、異物として扱われる。


 異物として扱われるからには、その世界の世界観や価値観を壊しかねないものなのだ。


 そのため、やたらめったに異物となるタイタンは召喚できないのだ。


 もちろん、異物とならないような世界観であれば問題ないのだが。


 タイタンという移動手段が自由に使えないという意味では軍馬を手に入れたのはとてもありがたいことだった。


 この世界の価値観を壊すことなく、移動手段を手に入れることができたからだ。


「マリガン、サポートありがとう。タイタンと武器ステーションの撤収を頼む」


「分かったわ。でもいいの? タイタンは優秀な移動手段だし、その世界で使えば武力で民を平伏すこともできるのよ?」


「マリガンは結構腹黒いところがあるよな。タイタンはこの世界では異物だ。価値観を壊す。それに、移動手段ならたった今手に入れたしな」


 リアンは軍馬に視線を送る。


「そう。分かったわ。それと約束、時間があるときでいいからよろしくね」


「ああ。数年分の話はあとできちんと話すよ」


 するとタイタンと武器ステーションの頭上にワープゲートが出現、吸い込まれるように飲み込まれ、マリガン・ステーションのところへと戻っていった。


「灰鎧の大規模部隊と残り2体のトラディスガードとの戦闘はまだ続いている。これ以上激化する前にここを離れようか」


 リアンは自身の身長と同じぐらいの身長を誇る軍馬に乗り込むと、その場を離れるように走らせる。


 途中、マオを背負うライピスを拾い、後部へと乗せると激化する戦場から逃げるように軍馬を走らせた。

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