第16話 ソードマスター・ライピス

「グルゥゥ、グガァァァ!」


「犬ごときが、俺らの邪魔をするな!」


 リアンとライピスは魔族との戦闘状態に入っていた。


 今回遭遇した魔族は小規模な部隊。


 数匹の犬型魔族と、それらを引き連れる赤鎧二体だ。


 リアンを筆頭に行く手を阻むように突進してくる犬型魔族を一網打尽にする。


 二人が北へ移動し始めてから数日が経過。その間に、両指で数えられる以上の魔族部隊と遭遇し、戦闘を経験していた。


 と、いうのも不毛の地は身を隠せる場所が極端に少なく、敵から視認されやすいのだ。その影響か魔族の方が、リアンたちの存在をいち早く視認し戦闘を挑んでくるのだ。


 これでは、戦闘を避けるのは難しい。


 遭遇したどの魔族も、小規模な部隊を編成しており、数的に不利であった。


 しかしリアンには別の世界での戦闘経験と技量を用いて戦うことで、ひどく苦戦することはなかった。


 エネルギーライフル、エネルギーピストル、ショットガン、ヒートソード、インプラント……。体に組み込まれた多種多様な武器を利用し、敵との距離や仲間の位置を常に把握しながら、的確にそして効率よく敵を排除していく。


 行く手を阻む犬型の魔族を倒したリアンは、次に赤鎧との戦闘に入る。


「赤鎧は遠距離攻撃魔法を得意とする鎧型の魔族だとライピスが言っていたな。なら、俺の得意領域だ。エネルギーライフルと腕に組み込まれたグレネードランチャーで吹っ飛ばしてやる!」


 少し離れた場所で、赤鎧は両腕を上下に動かし赤き魔法を手のひらに宿す。そして腕を左右から前に突き出すと、手のひらに宿った魔法から、球体の炎が放たれる。


 放たれた球炎きゅうえんの大きさは、人の拳ふたつ分ほど。スピードも黒鎧の見えない斬撃と比べてもそこまで速くはない。


 数々の戦いで動体視力が鍛えられた、リアンにとって球炎を避けることなど容易く、余裕のあるサイドステップで躱す。


 スピードライズを使わずとも余裕である。

 

 そして、避けると同時にグレネードランチャーを放つ。


 リアンにとっては相手の攻撃を避けることすらも攻撃のチャンスと考えている。そのため、避けた際に生じるほんの少しの余力で攻撃を行うのが彼の戦闘スタイルのひとつと言える。


 相手の攻撃を避けつつリアンは、エネルギーライフルとグレネードランチャーを使って、遠距離からでも着実に赤鎧へとダメージを蓄積させていく。


「フガァァァ!」


 片方の赤鎧は大きく息を吐く。そして再び腕を振り魔力をあやつり始める。


 しばらくすると、赤鎧の周りに数個の赤い魔法陣を空中に出現する。そして、魔法陣が赤熱化した途端、赤鎧が放つ球炎が魔法陣から放たれる。


 自身が放つ球炎だけでは勝てないと踏んだ赤鎧は、放つ球炎の数を増やし数で押し切ろうとしたのだ。


「そんな力技なんてな、雑魚がやることなんだよ!」


 飛んでくる球炎の数が増えようとも、余裕の表情で対処するリアン。


「そろそろ仕留める!」


 リアンはエネルギーライフルの銃口を赤鎧に向けぶっ放しながら突撃する。加えてグレネードランチャーをぶっ放す。


「ガァアァ!」


 リアンの放ったグレネードランチャーが赤鎧の片方に直撃し、爆散する。爆発の中で四肢は吹き飛び、体は砕け散る。


 もう片方の赤鎧は魔法陣で球炎を放ちつつ、魔力で作り上げた近接武器を召喚する。


 距離を詰めるにつれ、球炎の攻撃が激しいものになる。それでもリアンは詰めることを辞めず、赤鎧の間合いに入る。


 エネルギーライフルからショットガンに持ち替え、ヒートブレードを顕現させる。


 勢い衰えぬまま赤鎧の懐に飛び込むと、ヒートブレードを一閃させショットガンをぶっ放した。


「フグゥウガァァ!」


 赤鎧は召喚した武器でヒートブレードの攻撃を防ぐが抑え込めず、弾かれ、そのまま腹を掻っ捌かれる。


 そして追撃をするように、ショットガンによる攻撃。


 傷口はさらに広がり、巨大な風穴が空いた。


「とっとと消え失せろ」


 留めとばかりにリアンはバックステップで距離を取ると、赤鎧の傷口に向かってグレネードランチャーを放った。


 傷口から膨れ上がる熱量に赤鎧は叫び、そして爆発四散した。


 ひと部隊のほとんど壊滅させ一息つくリアン。そしてすぐさま、ライピスの方へと視線を向ける。


「この! 魔族め! 成敗してくれる!」


 少女はブロードソードを振り回し、部隊からはぐれた二匹の犬型魔族と戦っていた。


 犬型魔族は単調な攻撃が多く、戦闘慣れしていない初心者でも戦いやすいのが特徴。


 にもかかわらず、ライピスは苦戦していた。


 ブロードソードを振るって応戦するが、ほとんどが空を切り、振り切った後にできる隙を狙って犬の牙が襲う。


「数年修行をしたと聞いていたが、やっぱり実戦ではまだ厳しい部分があるか」


 遠目で見ているリアンはそう呟く。


 修行と実践の大きな違いは精神の持ちようだ。


 修行では実力を発揮できていても、実戦では実力を発揮できないなんてことはざらにある。


 その原因は、実戦での命の取り合いにある。いつ命を落とすかも分からないという気持ちが、本来の実力を阻害してしまうのだ。


 リアンはエネルギーピストルに持ち替え残弾を確認。


 そして、ライピスに当てないよう慎重に犬の頭部に狙いを定めながら、ピストルの引き金を引いた。


 —


 ——


 ———



「今回もひどく苦戦していたな」


「ごめんなさい……。私が弱いばかりに……」


 ライピスはリアンに向き直り、頭を下げて謝罪する。


 この数日間、北に向かって歩いている最中に何度も魔族に遭遇している。


 そのたびに戦闘になるのだが、ほとんどの敵はリアンが倒してしまう。


 その間、ライピスはというと魔族の部隊からはぐれた数匹の犬型魔族を相手にして苦戦しているのだ。


 このままでは、ただ足手まといになってしまうとライピスは気持ちを塞ぎこんでしまうだろう。


 しかし、リアンの意見は違った。


「謝らなくて大丈夫。そうだな……。少し俺からの意見を述べさせてもらっていいか」


 ここ数日間のライピスの戦いぶりを見て、リアンは何かを見定めたかのように口を開く。


「まず、ライピス、君は弱くない。普通に強いと思う」


「そんな褒め言葉なんていりません。私は、犬型魔族にすら勝てない雑魚なんですよ……」


 自責の念に駆られているのか、ライピスは瞳を伏せまるで子供の用にいじける。


 その光景を見て、リアンはライピスの頭に手を置き優しくなでる。


「なら、少し言い方を変えよう。俺が何で強いと思っているか分かるか? 嘘を言っている訳ではないぞ」


「……。分かりません」


「なら教える。まず、ライピスの戦闘スタイルは素早さに特化したスタイル。長年の修行で手に入れた実力だろ?」


 確かにライピスは、青鎧との戦闘時、魔法使いの居る中衛を守るべく素早く前に出た。それも、迫りくる青鎧よりも早くだ。


 そして素早い身のこなしで、青鎧と戦い時間を稼いだ実績がある。


「俺の目から見る限り、ライピスには基礎的な実力も、根性も備わっている。じゃあ何が足りないのか。分かるか?」


「経験……ですか?」


「それもある。だけどそれ以上に足りないのは、武器との相性だ。今の使っているブロードソードは正直、ライピスの戦闘スタイルに合っていない」


「どういうことでしょうか?」


「ブロードソードは確かに素早さに特化した戦闘スタイルに適した武器だ。だけど、ある程度実力を身に着けるとブロードソードでは役不足になるんだ」


「役不足……。私の実力を阻害しているということですか? ならどうすれば……」


 リアンが言っていることはこうだ。


 ブロードソードを使うこと自体は間違っていない。むしろ合っているとも言える。


 しかし、ある程度まで戦闘の実力が上がると今まで使っていた武器では成長を阻害し実力を発揮できなくなるのだ。


 つまり、武器の能力が低すぎ、所持者の実力が見合っていないということだ。


 ならば解決するためにどうするべきか。


「今のブロードソードに代わる相性のいい強い武器を持てばいいんだ」


 そう、今まで持っていた武器と同系統の強い武器に切り替えることだ。


「ですが、そんな都合よく武器なんて手に入りませんよ? 魔族の持つ武器だって倒したときに消えてしまいますし」


「心配いらない。俺が今この場で用意する」


 どういうことなのか、ライピスが不思議がっているとリアンは右手を前に出し、手のひらを地面に向ける。


 そしてゆっくりと呼吸をして意識を集中させる。すると、地面に青色の魔法陣が浮かび上がる。


 ライピスが驚いている刹那、魔法陣から一本の武器が生えてきた。


 その武器は、刀身が長くライピスの持つブロードソードの二倍はある。


 柄は黄金色で装飾されており、黒色に塗られたひし形が等間隔に埋め込まれている。刀身に繋がる部分は黒色に塗られ、中心部分には赤い宝石が埋め込まれている。


 その宝石は幽かな光でも鮮やかな光へと反射させ、剣に異様な存在感を持たせるアクセントとなっていた。


 刀身は鋼色で淡い水色の光が宿り、魔力が込められているようだ。


「こ、これは……、なんですか!?」


 当然現れた巨大な武器に、驚きを隠せないライピス。


 その様子を尻目にリアンは説明を始める。


「こいつは、俺がとある人物から譲り受けたソードマスターのつるぎなんだ。いつか、この剣を使いこなせる人物が現れたら渡してほしいという伝言と一緒にな」


 リアンは魔法陣か召喚した剣を柄と刀身部分に手を添え軽く持つ。


 そのままライピスの目の前へと移動し、ソードマスターの剣を差し出した。


「ライピス、この剣は君が使うんだ。この剣は君の力を欲しているように思える」


「そ、そんな、貴重なもの……。それに私にはこの剣を扱えるほどの技量も力もありませんよ!」


「この剣は使い手の能力に合わせて力を調整するようになっている。ライピスが持てばこの剣の持ち主も本望だろう。俺なんかが持っていたって宝の持ち腐れだからな」


 リアンは剣の乗った腕を力強く前に差し出し、ライピスに持つよう迫る。


 彼の言葉にと行動に根負けしたのか、ライピスは渋々と言った形でその剣の柄を握った。


 するとライピスは剣の柄を両手で握るなり、空を切って見せた。


「——! この感じ、なんだか自分にしっくりきます。うまく言い表せないですけど、私の能力を極限まで引き出してくれるような不思議な感じです」


 華奢な体で自身の身長とほぼ同じぐらいの剣を軽々と振って見せるライピス。


「見た目に寄らず軽いだろ? その剣には魔力が籠っていて、使い手に合わせて重さが変わるようになっているんだ」


 と、リアンは説明するがライピスはソードマスターの剣を相当気に入ったようなのか、子供がチャンバラをするように無我夢中で振り続けていた。


 そして、次に遭遇した魔族との戦いで、『ソードマスター・ライピス』はリアンに劣ることない戦いぶりを見せた。

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