第46話 ピンチはチャンス

 牢獄の鍵を壊し、地下牢の廊下へと出た、リアン、ライピス、マオの3人。


「まずは外に出よう。考えるのはそれからにする」


 リアンたちは番兵が来た方向を頼りに、先へ進む。


 薄暗く、居心地の悪い地下牢。


 不衛生極まりないこの場所に、見張り役の番兵もいない。


 そのため自由に闊歩することができた。


「俺たち以外に誰も牢獄にいないな」


「そうですね。それだけこの魔都は平和的な場所なんでしょうか」


 闊歩する中で目に入る牢獄を覗く。リアンたち以外の牢獄には誰もおらず、拘束器具も古びている。


 中には鉄格子が錆びてしまい、ぽっかりと穴が空いた牢獄もあった。


 ほぼ1本道の廊下を進み、扉を発見した。


「多分この扉が地下牢の出入り口だ」


 扉の隙間から流れ出る、新鮮な空気を感じながら確信する。


 ここから先は、多くの魔族がいるだろう。いかに隠密に行動しながら、クイーン・ガードに接触するかが肝となる。


 リアンが扉の取手を握ろうと手を伸ばした途端、手を止めた。


「外が少し騒がしくないか?」


 微かに聞こえる不穏な音にリアンは動きを止め耳を澄ます。


 突然の発言に困惑するも、ライピスとマオは顔を見合わせ、同じようにじっと耳を澄ます。


「……。確かに来たときよりも騒がしい気がしますね。儀式が何かでしょうか」


「なんだ、祭りでもやってんのか?」


 近く深くにある地下では外の音など全く聞こえなかった。


 しかし今は外に通じる扉の前。外の音や振動が直に伝わってくる。


 リアンはより鮮明に音を聞くために扉に耳を当てる。


 彼の耳に伝わったのは、魔族たちの叫び声、そして何かの破裂音ような音。


 微量だが振動もあり、地下牢が『ゴゴゴッ!』と音を立て、内壁と天井から小石が剥がれ落ちる。


 魔都にたどり着いた時の平和的な印象とは、全く想像もできない奇怪な音。


 明らかに祭りや儀式といった類のものではない。


 そのことを、2人に伝えると、何か思い立ったような表情を見せた。


「もしかして、魔王軍が攻めてきたとかでしょうか!」


「――! 可能性はあるな! 親父のことだ。漆黒鎧に急かされてでもして、兵を動かしやがったんだろうよ!」


 魔都が魔王軍によって奇襲されている。その仮説があっていれば、悲鳴や爆発音もどことなく頷ける。


 リアンは警戒しつつ、扉をゆっくりと開いた。


 扉の先には階段が数段あり、登り切った先から外の景色が見える。


 爆発で揺れる大地を踏み締めながら、3人は階段を駆け上がった。


 最後の段を登り切った先に広がっていたのは、荒れ果てた魔都だった。至る所から黒煙や悲鳴、怒声が聞こえる。


「後衛部隊! 再度弓を番よ! あの大型魔族に対し、一斉に矢を放つ!」


 突如聞こえな野太い声に、リアンたちは我に帰り、近くの柱に身を隠す。


 声をのする方向を見やると、番兵が数人、魔法の大弓を上空に向けて番えていた。


 番えている方向は、魔都の正門。リアンたちが番兵に捕まった場所だ。


 幸い番兵たちは弓を番えることに集中しており、リアンたちが脱獄していることに気づいていないようだ。


 リアンは半身を乗り出し、番兵たちの様子を伺う。


「番兵たちはいったい何と戦っているんだ……」


 リアンは敵がいるとされる正門の方向へと視線を向けるが、絶え間なく飛んでくる攻撃で砂埃が舞い見通せない。


「番兵は巨大な魔族と言っていました。マオ、魔王軍に巨大な魔族はいますか?」


「いるにはいるが……。魔族がわざわざ巨大というほど、大きくはねぇ。そうだな、リアンが出したタイタン? と同じぐらいだな」


 タイタンは人が乗る巨大なロボットであり、人間からしてみたら巨大な存在だ。


 しかし、トラディスガードのようなタイタンと同じ背丈の魔族が存在している。


 魔族たちにとって、トラディスガードは巨大な存在と言い表さないように、タイタンに対しても巨大な存在と言い表さないだろう。


「つまり、あのトラディスガードやリアンさんのタイタンよりも大きな存在である可能性があるってことですか?」


「あくまで仮説でしかねぇがな。でもそんな巨大な魔物は見たことがねぇぞ」


 番兵が『巨大』と言ったからには、相当な大きさであることが考えられる。


「ライピス、マオ、これはチャンスだ」


 唐突にそんなことを言い始めるリアンに2人は困惑する。


「んだぁ? 恐怖で頭がおかしくなったか?」


「俺は至って正常だよ。それよりも、このチャンスを利用するべきだ」


「チャンスって、どういうことです?」


「今この魔都は敵に攻撃されている。攻撃が激しいところを見ると、相当手を焼いていると思う。そこで。俺たちが加勢して、共に魔都を守ったら、相手に1つ大きな借りを作らせることができないか?」


 その言葉に、2人はなるほどと頷く。


「確かにいい案だけどよ、アタシたちの武器を探さねぇと戦えねぇぞ。リアンはともかく、アタシとライピスは丸裸だ」


 リアンには体内に埋め込まれたインプラントがある。攻撃性のあるもので、最低限戦うことはできる。


 しかし、マオとライピスは別だ。


 マオは魔族でありながら、脳筋で魔法がほとんど使えない。


 ライピスに至っては武器を扱った基本的な攻撃しかできず、武器を持たなければ戦いに出るのは難しい。

 

「武器の在処は分からないし、どうしたものか……」


 脱獄の罪を背負っている以上、番兵に聞くわけにもいかない。


「マリガンとの通信もできない。どうなっているんだ」


 通信を試みるも何かに妨害され、助けを求めることができない。


 しかし、またとないチャンス。ここで逃げるわけにはいかなかった。


 ここからどう動こうか考えた刹那、リアンはとあることを思い出す。


「正門から牢獄へ連行されている途中、露店が並んでいる場所にあったよな?」


「あぁ、確かにあった気がする。耳障りな魔族どもの声がいまだに響いてやがる」


「そこに、武器を扱っている露店があったはずだ。まずはそこを目指さないか? 覚えている限りだとここからそう遠くないはず」


「そうですね。どこにあるか分からない自分たちの武器を探すよりも確実ですし、丸腰の状態ではなくなるメリットは大きいですね」


 愛用の武器は魔都の番兵たちに没収され、どこに保管されているかわからない。


 場所を特定できない以上、捜索に無駄に時間を費やすのは合理的ではないと考えたのだ。


 現地で武器を調達し、戦いに備える。これも、強くなるための1歩と思えば良いのである。


「よし、じゃあまず武器を扱っていた露店に向かおう。番兵に見つからないように」


 リアンの言葉に2人は力強く頷く。


 後方支援を行っている魔族を尻目に、リアンたちは武器屋を目指し移動を始めた。

 

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