第34話 最強部隊・白銀の騎士

 分厚い雲がかかり魔族たちが支配する土地・不毛の地。魔王軍の侵攻で木々は枯れ果て緑に溢れていた場所は今や砂漠と化していた。


 太陽すら拝めず、人間にとっては最悪の環境とも言える場所で、白銀の騎士団は魔王軍小規模部隊と激闘を繰り広げようとしていた。


「敵の数は6体。赤4、青2よ。対してこっちは半分の3。気合い入れて行くわよ、ポルポ、エイリアス!」


 キリッとした目つきに、パープル色のポニーテール。整った顔立ちをしたアイは、2人を鼓舞するように力強い声音で気合を入れる。


「分かってますとも、アイ殿! このポルポ、レイ隊長のお眼鏡に添えるよう、全力で奴らを叩きのめしましょうぞ!」


 それで従うように返事をしたのは、黒髪オールバックに優しい目つきをした男性、ポルポ。言葉が独特だが、筋肉質で頼りがいのある男だ。


「ポルポンは相変わらず、気合が入ってるね〜。アイアイもそこまで気を張らなくても〜。気楽に行こうよ〜」


「その腑抜けた呼び方はやめなさいといつも言っているでしょエイリアス! 少しは気を引き締めなさい!」


「は〜い」

 

 適当な返事をしてアイに叱られているのはエイリアスである。金髪という派手目な色でチョココロネのような髪型をした彼女は、誰よりも目立つ。


 髪のボリュームも大きく、1番に敵から視認されるだろう。


「それで〜、作戦はあるの〜? アイアイが言い出したんだから何かしらあるんだよね〜?」


「あるわ。レンジャーである私とソルジャーのポルポが前線を張って、エイリアスが後方支援をする。青は遠距離攻撃を得意とするから、メイジのエイリアスは魔法を使って青の攻撃を阻害して」


「りょうか〜い。アイアイは優秀で助かる〜」


「だからその呼び方やめなさい! ウザすぎ!」


「え〜、可愛いからいいじゃん。ポルポンもそう思うよね〜?」


「ま、まぁ……このポルポ、なんと呼ばれようとも気にはしませぬが」


 自軍3人、数十メートル先にいる敵軍は6体という不利な状況。加えて敵は、成人男性の1.5倍はあろうかという巨躯だ。


 誰もが大柄な敵を前に及び腰になるであろう状況下で、3人はどこか余裕の表情を見せていた。


「とにかく、私たち白銀の騎士団は人類最後の希望であって、最強の部隊! その名に恥じない実力を魔王軍に刻み込んでやりましょう!」


「そうですな! 人類の希望を背負っているからには、気を抜かずにやるに限りますな!」


「人類の希望は重すぎるから、私はアイアイとポルポンのために戦う〜」 


 ポルポとアイは数歩前に出て、前線に立つと剣や槍といった近接武器を構える。


 その少し後ろでエイリアスは先端に翡翠色のエメラルドが飾られた杖を握り、全員が臨戦態勢となったところで戦いの火蓋は落とされた。


「行くわよ!」


 アイの言葉を皮切りに3人は一斉に動き出す。


 前線の2人は地を蹴り前方で身構えている赤鎧に向かって走り出した。


 身につけている白銀の鎧の重さは15キロほどと他の鎧に比べてやや重めなのだが、物ともせず俊敏な動きで距離を詰めていく。


 後方で身構えているエイリアスは2人が小さくなっていくのを見届けると、杖の先端を敵の方へと向け呪文を口ずさむ。


「ファーストマジック・アイスファング!」


 エイリアスが怒気の籠った声音で発すると、彼女の周りの温度が急激に下がる。


 白い胞子がフワフワと宙に現れたと思った刹那、胞子は何かを作り出すように数か所に集まっていく。


 胞子はやがて形となっていき、先端の尖った氷を形成する。


 牙のように尖った氷はまるでナイフのように鋭く、殺傷能力を持つには十分な尖り具合だった。


「遠距離攻撃は封じさせてもらうよ~! それ!」


 エイリアスが杖を振るった刹那、宙に浮いていた数十個の氷の刃は大きく弧を描いての青鎧の方へと飛んでいく。


 青鎧は魔法の大弓を既に番えており、前線を進む2人に向かって放とうとしていたところだった。


 そこへタイミングよく、氷の刃が襲いかかる。


「ガァァァッ!」

 

 雨のように降り注いだ氷の刃は青鎧に喰らい付き、番えた大弓を解除させることに成功させる。


「このまま一気にトドメまでさしちゃうよ〜」


 エイリアスは追加で氷の刃を作り出し、青鎧へと浴びせる。


 大きな体を持つ青鎧には避けることなど難しく、刃は青鎧を串刺しに、完全に動きを封じることに成功した。


 後方の援護が無くなったこと好機とみたポルポとアイは一気に加速し、あっという間に赤鎧の懐に飛び込む。


「私がこっちの赤2体を相手する! ポルポは残りの赤2体を相手して!」


「任しておきなされ! このポルポ、レイ隊長に実力を示すべく全力を出し切ろうぞ!」


 力の籠った声音と同時に、ポルポは黒髪を靡かせ白銀の剣を横に薙ぐ。


 半月の軌道を描いた白銀の剣は赤鎧の腹部を捉えて、火花を散らす。


「グガガガ」


 腹部は多少鎧に穴をあけることに成功はしたが、中までは刃は届いておらず、致命傷には至っていない。


 それどころか、薙いだ後の隙を狙ってポルポの頭上目掛けて、赤鎧が身の丈ほどの太刀を振り下ろす。


「ぬぅ! そのようなトロい動きで私を捉えられようか!」


 太刀が頭上に当たる寸前、ポルポは身軽なバックステップで攻撃を避ける。


 振り下ろされた太刀は地面を叩き、大きく砂埃が舞う。傍から見ても威力は十分にあり、一撃でも食らえば致命傷は避けられないだろう。


 しかしそんなことで怯える白銀の騎士団ではない。


「次の一撃で仕留めようぞ!」


 そういうとポルポは深呼吸を行い、剣と盾に神経を集中させる。


 しかし敵は待ってくれない。赤鎧は好機とみて、集中するポルポとの距離を詰め、2体同時に太刀を振り上げる。


「ファーストマジック・ディフェンド!」


 ポルポが呪文を口ずさむと、盾に鱗のような紋様が浮かぶ。


 紋様は盾の形に沿うように張り付き、強固な盾を作り出す。


「ディフェインドで強化した盾なら、お主らの攻撃など容易く防ぐこともできようぞ!」


 ポルポは呪文で強化した盾を頭上に掲げ振り下ろされる2本の太刀を同時に受け止める。


 ガンッ!


 太刀と盾がぶつかると同時に火花が散る。そして大きな力がのしかかる。


 生身の人間に直撃すれば、一撃で死に至らしめることができる攻撃を、ポルポは防ぎ全身に力を入れて踏ん張る。


「ファーストマジック・パワーアタック!」


 盾で攻撃を防ぎ、赤鎧の隙を作り出したポルポは呪文を口ずさみ、今度は白銀の剣を強化する。


「強力な攻撃に、高い硬度を誇る鎧。敵ながら良い装備を持っている! だけどそんなもので、私を止められるならいいですな!」


 するとポルポは腕を伸ばし白銀の剣を構えると、力一杯に薙いだ。


 ガンッ!


 白銀の剣は赤鎧の脇腹を捉えて、喰らいつく。


 赤鎧の高い硬度にコンマ1秒止まるも、


「このポルポの前では何があっても止まりませんぞ!」


 ポルポは強引に振り抜き、2体の赤鎧を同時に上下半分の真っ二つにしてしまった。


 赤鎧の上半身は数秒、宙を舞った後、地面にドサりと落ち、下半身は膝から崩れるようにパタリと倒れた。


「グガガ……」


 真っ二つにされた赤鎧は悲鳴の咆哮をあげる間も無く、力無い声で唸り声をあげていた。


 ポルポは赤鎧の切断面を覗き込む。


「中身は空洞。てっきり何かしらの魔族が鎧を着込んでいるのかと思っていましたが、この鎧自体が魔族そのもののようですな!」


 ポルポが赤鎧の正体を知った刹那、赤鎧だったものに変化が訪れる。


 赤かった鎧は手足の先からモノクロのような灰色へと変色し、亀裂が入る。そしてポロポロと崩れ去り塵となった赤鎧は、わずかな風になびいて消えた。


 赤鎧が完全に消え去ったところを見届けたポルポは、同時に前線を張って間をつめたアイへと視線を向ける。


 アイに群がっていた2体の赤鎧のうち、1体はすでに塵となって消えていた。


「なんて遅い攻撃。そんなもので私を捉えられるかしら」


 アイは槍をクルクルと回し、体を翻しながら、残った赤鎧の攻撃を避けている。


「アイ殿の攻撃は美しく、見応えがありますな。私の力づくで戦うやり方とは雲泥の差だ!」

 

 ポルポの視線の先では、アイが槍を振り回し体を翻しながら乱舞している。


 見るものを魅了するような動きで、攻撃を避けて、時には弾いて隙を作り出して攻撃を繰り出す。


 パワーで押し切るリスクタイプのポルポとは違い、アイの攻撃は少しずつ着実にダメージを蓄積させていくセーフタイプなのである。


 ダメージの蓄積と疲労が溜まってきている影響か、赤鎧の動きは鈍くなりつつあった。


 戦いが長引けばアイの独壇場となる。そうなれば、彼女の勝利は確実なものとなるだろう。


「あなたの攻撃はもう当たらない。だから、あなたに勝ち目はない。決着をつけさせて貰うわ!」


 鈍くなった太刀ではアイの踊りを捉えることなどできず、ただ空を斬るだけだ。


 そして、何度目かの空を斬ったとき、アイは槍に意識を集中させ呪文を口ずさむ。


「ファーストマジック・クイックファング!」


 アイの持つ槍が淡い青色を発色させる。


 その槍を力強く握ると、赤鎧に攻撃をさせる暇など与えない素早さで呪文が付与された槍を踊るように薙ぐ。


 すると、ひと薙で赤鎧に着いた傷は1つではなく、獣の引っ掻き傷のように3つの傷跡が付けられていた。


「1度の攻撃で、3倍のダメージを与えられる魔法よ。私は弱りきった魔族を圧倒的な実力でいたぶるのが好きなのよ!」


 踊り狂いながら武器を振り回して、赤鎧に傷を刻んでいく。


 赤鎧は素早い動きと、流れるような攻撃に反撃ができず、傷がどんどん増えていく。


 最初は浅かった傷も、回を重ねるごとに深くなっていく。踊り始めてから数分後には赤鎧の体には無数の穴が空き、ズタボロになっていた。


「グガガガガァァァ!」


 防戦一方だった赤鎧が突如咆哮をあげる。


 このままやられるだけでは終わらない。そんな意味合いの籠った咆哮だったのか、手に持った太刀を無理やり振り上げた。


「死を目前とした最後の一撃と言ったところね。でも、そんな大振りじゃ、私に一生かないっこないわよ!」


 太刀を振り上げて胴体が、隙だらけになった赤鎧へ、アイは一閃の如く槍を薙いだ。


「グガッ!?」


 すでに皮一枚で繋がっていたような状態であった赤鎧は、アイの強力な一撃によって大きな風穴が空いた。


 致命的な一撃を受けた赤鎧は、太刀を振り上げたまま千鳥足になる。


 やがて太刀を握る手から力が抜け、武器を手放すと、そのままヨロヨロとよろめき壊れた人形のように背中から倒れた。


 そして赤鎧の体は色を失い、灰と化して消えた。


「初めて相手した敵だったけど、たいしたことなかったわね。王都のスラム街を仕切る『一ノ瀬』の方が強いんじゃないかしら」


「見た目によらず意外と脆かったですからな。このポルポのパワースタイルと相性が良くて、爽快でしたぞ!」


 赤鎧を始末した2人は残りの青鎧の方へと視線を向ける。


 すでに色を失い、灰となり始めている状態だった。青鎧の周りには氷の刃が何本か地面に突き刺さっており、エイリアスが魔法で攻撃を阻止してくれていたのだと、すぐに気づいた。


「よくやったわ、エイリアス。あなたが、青鎧の攻撃を阻害してくれていたおかげで、私たちは目の前の敵に集中することができたわ。ありがとう」


「このポルポが務めるソルジャーや、アイ殿が務めるレンジャーでは遠距離攻撃を駆使する敵は、戦いにくいですからな。本当に助かりましたぞ!」


「私のような優秀なメイジがいてくれたことに感謝するといーよ。さぁー、もっと私を褒め称えよー」


「こうやって調子に乗らなければ、素直に感謝するんだけどね」といい、アイは眉毛を八の字にしてため息をついた。


 


 

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