第28話 マリガン

 眼下に見下ろすは青い球体、地球。


 見上げれば漆黒の空が広がり、星粒のような光が見渡す限り淡い光を放っている。


 ここは宇宙。地球の外側である。


「お久しぶりです、リアン様」


 その宇宙に漂う六角形の棒状のステーション・マリガン。一軒家が2つ並んだほどの大きさの無人ステーションだ。ステーションに備え付けられた人工知能のみが動いている。


 漆黒の宇宙に同化するように外壁が黒塗りにされ、あまり目立たないようになっている。ステーションの外壁にはくぼみがあり、人型の巨大な機械や武具、アーマーなどが収められている。


『マリガン……。その、久しぶりだな……』


「はい、最後に通信をしたのは6年と105日前です。私は人工知能なので寂しくはありませんが、心配はしていました」


 リアンの言葉に答える声はマリガン。ステーションの人工知能である。声は機械的。


 しかしながら声音に抑揚があり、感情があるように思える。


『そうか。すまないな。マリガン、積もる話はあとだ。これまで得た知識や土産話に関しては後で話す。至急、俺のところにタイタンとタイタン用の武装を送れるか?』


「少々お待ちください……。リアン様の体内に埋め込まれているGPSを確認したところ、ここから別の世界にいるようですね」


『別の世界に飛んだからな。それで、送れそうか?』


「ご心配なさらず、ワープゲートを使ってお送りします。タイタン・ソルジャー01と武装セットです。タイタンはリアン様の仕様に調整されいますので、すぐに乗り込めます」


『何秒だ?』


「15秒で到着すると思われます」


『了解した。タイタンに乗っている間、サポートを頼む』


「了解いたしました。タイタンのカメラを通して状況を確認し次第、サポートへと徹します」


『それと、その……マリガン。堅苦しいのはなくていいよ。いつもの君と話したい』


 リアンがそのように言った途端、マリガンは5秒ほど黙り込む。


 そして何かを考えこんだ後に、マリガンは通信を再開する。


「なら、6年もの間、一切通信をしてこなかったことについて聞きましょうか! 寂しかったんだからね!」


『そうだな。こうしてまたマリガンと話せて俺も嬉しいよ』


「全く、調子のいいひと。長い間、話せなかったんだから優しく愛撫してよね」


「そうだな。世界の秩序を変えてしまえないがためのルールとは言え、通信しなかったのはごめんな」


 本来のマリガンはこうだ。とてもフレンドリーで、優しい。人間だったころの人格をそのまま引き継いで、人工知能になっている。


 敬語で話していたのは、仕事だからということと、6年間も連絡が取れなかったことに腹を立てていたからだ。


 わざと敬語で話して他人行儀を装ってツンケンしていたのである。


 人工知能であろうとも、腹を立てたりすることもある。感情がないなど嘘なのだ。それが元人間であるならなおさらである。


「よろしい! リアンのためなら、ルールなんて破る覚悟はできているから」


 ステーションから人型の巨大ロボットと、様々な武具の備わった武装セットポットが切り離され、射出される。


 そして、ステーション・マリガンの少し先に円形状の紫色のワープゲートが出現し、射出されたものはすべてそこへと吸い込まれていった。


 


 

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