第33話 信頼の価値
リアン・マティアスは悩んでいた。
マオは自分の正体がアルディートという名の魔王の娘であり、魔族であるということを明かした。
その理由は信用できる人間の前で嘘をつきたくないから。
信用できる人間だと判断したからこそ、マオは腹を割って話した。
話すことにどれだけの勇気を必要としただろう。
魔族だと知られれば、斬り殺されるかもしれない。築き上げた信頼が一瞬で瓦解するかもしれない。
そんなリスクがあったのにも関わらず、マオは話してくれた。
自分の正体を明かすことがどれだけ難しく、怖いことなのかリアンは知っていた。
(俺も過去に旅した世界で、正体を話したら拒絶されたこともあったな)
リアンも過去に正体を明かしたことがあった。
結果として関係に捩れが生まれ、その人物とうまくいかなくなったこともあった。
ひどい場合にはリアンを厄災を運ぶ悪魔として存在を否定し、敵として立ちはだかる者もいた。
正体を明かせば今の関係に亀裂が入るかもしれない。
そう考えると、リアンは自分の正体を明かさず、目的を果たしたら彼女たちの前からそっと消えるのが良いかもしれないと思っていた。
「なぁ、リアン」
何かを悩み考えを巡らせて無口になっているリアンを見ていたマオは、気さくな声音で彼の名前を呼ぶ。
考え事に没頭していたリアンはコンマ1秒遅れてハッと我に帰り、伏せていた視線をマオに向ける。
「リアンが何を考えて、何を悩んでいるか、なんとなく分かる。てめぇは真面目な部分があるからアタシが正体を明かしたことに対して何かお返ししなきゃとか思ってるんだろ?」
「ぐっ……」
「図星か! ギャハハ! てめぇは他人を大事にする。だからこそ、アタシの告白にどう答えるべきか迷ってるんだろ?」
今まさに悩んでいたことを見透かされ、リアンは思わず狼狽する。
分かりやすすぎる彼の行動に、マオは再度笑って見せた。
「リアンさん。私はマオが魔族で魔王の娘であることを知って驚きました。私にとって魔族は敵。許すことなどできない存在です。でも、マオは私を守ってくれて、助けてくれた魔族です。魔族の中にも優しくて頼もしい存在がいるんだなと思いました。同時に、マオの存在を受け入れて、今では仲間だと思っています」
ライピスは優しい笑顔をリアンに向けて、今の心境を語る。
リアンの閉ざされた心を開こうとしているのだろう。
「ですから、リアンさん。私もマオもあなたがどんな存在で、どこから来たのか聞かされても受け入れます。私にとってはこれ以上、驚くことなんてないですから」
「だとよリアン。アタシもライピスもてめぇがどんな存在であろうと、受け入れる準備はできている。アタシもライピスもリアンの全てを知りてぇ。だから怖がるな。アタシらは裏切らない」
その言葉に心を揺さぶられたのか、リアンの瞳は震え輝いていた。
視線を伏せ下唇を噛み、溢れ出そうな涙を堪える。
落ち着いたところで、リアンは再度、ふたりに視線を向けた。
「ふたりとも……。ありがとう。おかげで決心がついた」
マオとライピスが信じてくれたように、リアンも「裏切らない」という言葉を信じることにした。
リアンは一度深呼吸をして心の乱れを整えると、気合いを入れるように自分の頬を叩いた。
「それじゃあ、何から話そう。その、俺の話す内容は信じられないような、おとぎ話のような内容だから、理解しにくいかもしれない」
「そんなの、今更だろ。アタシを治したアイテムといい、巨大な兵器といい、見たことないものばかりだ。どんな突拍子もない話でも信じるぞ」
「私も信じますよ。まぁ、私はそこまで頭は良くないので、話についていけるかどうか不安ですが……」
心地よい空気感が3人の間に流れる。
リアンは直感的に話しても大丈夫だろうと思い、自分の正体とこれまでのことを語り始めた。
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