第11話 異世界トラベラーは少女を救う

 リアンは惑星ニムンに降り立った先で、黒い鎧を身に纏った化け物と少女が対峙している場面に遭遇していた。


 少女の剣を握る手は力が入り、怒りに任せた攻撃をしようとしているのが明確だった。自分が危ない立場にいることも見えていないだろう。


 そして明らかに少女の力量では、黒き鎧に敵わないのは明白。


 正義心が働いたリアンは少女を手助けするべく咄嗟に右腕を前に出す。そして腕の内部に仕込んだインプラントからグレネードランチャーを射出した。


 少女に気を取られていた黒鎧は、飛んでくる弾丸に気づかず、牙をむいたグレネードランチャーが直撃。狙い通り爆発による風圧が、黒鎧は吹き飛ばす。


 少女との物理的距離を取らせることに成功した。


 さらにリアンは黒鎧を対処すべく、愛用のエネルギーライフルをぶっ放しながら黒鎧に向かって走る。


 爆風で吹き飛ばされただけで大きな傷など負っていない黒鎧は、すでに体勢を立て直しリアンに視線を向けて武器を構えていた。

 

「まだいたか人間! 無駄なあがきを!」


 黒鎧は遠方から飛んでくるエネルギー弾をその身に受けながらも手に持った二刀の大剣で空を切る。すると、空気を切り裂く斬撃が砂埃をかき分けながら飛び、リアン・マティアスに牙をむく。


 その斬撃は、どんなに硬い鎧すらも切り裂いてしまう強力なものだ。まともに受ければ命はない。


 しかしリアンは、避けられるかも分からない斬撃に焦ることなく、正面から突っ込むように走り続ける。


「こっちも時間がねぇんだ! 一気に決めさせてもらう! 『スピードライズ』!」


 背中に埋め込まれたインプラント『スピードライズ』を発動さる。するとリアンの体は一気に加速する。


 その動きは、目で追うことのできない速さ。


 本人のスピードが上がれば、周りの景色はゆっくりに見える。


 それが適応されているリアンにとって、空気を切り裂く斬撃など、躱すなんて容易だった。


 そして黒鎧との距離、数百メートルを、わずか一秒足らずで詰め寄り、相手の間合いに入った。


「愚かな人間! 遠方から攻撃し続ければ少しは長生きできたものを。近距離戦は我の得意分野だぞ? 我が大剣の錆となれ!」


 黒鎧は瞬間移動でリアンと適切な間合いを取ると、左右から中心に向かって挟み込むように大剣を力いっぱいに薙いだ。


 その大剣を振るう速度は速く、その威力は凄まじい。空気が震え、砂埃が舞う。


 もろに受ければ、どんな分厚い甲冑を装備していようとも、肉のように引き裂いてしまうだろう。


(砂埃の中でも斬撃が直撃した感覚がある。このまま薙ぎきれば人間の体も真っ二つよ!)


 斬撃はリアンを捉える。砂埃が舞う中で黒鎧は仕留めたと確信した。


 しかし……。


 それは大きな間違いだった。


「ぬぅ、我が剣を受け止めただと!」


 砂埃が晴れて、黒鎧の目に入った光景はリアンが左右から来た大剣を受け止めている姿だった。


 右の斬撃を右腕に仕込んだヒートブレードのインプラントで押しとどめ、左の斬撃を左足に仕込んだ隠しの特殊鉱石で製造された甲冑インプラントで防いでいた。


 二本の大剣とインプラントが火花を上げ、ギリギリと音を立てる。


 黒鎧は自慢の力で大剣を押し込もうとするが、微動だにせず動揺を隠せない。


「時間がねぇって、言ったろ!」


 そう言ってリアンは空いた左手で腰に掛けたエネルギーショットガンを手に持って、黒鎧の腹部に銃口を密着させた。


 片手で持てる小型のショットガンで、一度に二発分の弾丸を装填できる。


 ショットガンは近距離であればあるほど、その威力は倍増する。


 鋼鉄の黒き鎧に密着させたショットガンの引き金を、リアンは躊躇なく引いた。


 ダーンッ!


 鼓膜を破るような甲高い音が響き渡る。


 同時に、ショットガンから放たれた弾丸は黒き鎧を貫通した。


「ヌガァッ!」


 黒鎧は宙を二秒ほど舞った後、地面に叩きつけられ両手を付く。そして穴の開いた腹部を片手で抑える。


 自身が見下す人間に致命的な傷を負わされたことが、黒鎧のプライドに傷を付ける。表情は読み取れないが、かなり焦っているようだった。


 相当ダメージが入ったのだろう。兜越しだが呼吸は荒々しく、穴からは紫色の鮮血があふれ出している。


 そして、伏せた視線を上げると、リアンがショットガンを構えて目と鼻の先に立っていた。


「おのれぇ……、人間!」


「口を慎めよ化け物。時間がねぇから率直に聞く。魔王はどこだ。とっとと教えろ」


 リアンは冷静で冷酷な声音で尋ねる。ギラリとした目つきで黒鎧を睨みつけると、握っているショットガンをグイッと前に出しでさらに威圧する。


「言うわけがなかろう! だがな、我に手を出したからには魔王様や漆黒鎧様が黙っておらぬぞ!」


「そうか、残念だ。なら用済みだから、砂漠にでも埋もれてろっ!」


 言葉を言い終えると同時に、リアンはショットガンの引き金を引いた。


「ッ!」


 ほぼゼロ距離で放ったショットガン。避けられるはずがない。


 しかし、ショットガンの弾は空を打ち抜き砂漠へと着弾した。


「どこに行きやがった!」


 リアンは荒々しく言葉を吐き捨てながら、ショットガンの弾を排莢し、新たな弾を装填する。


 そして黒鎧を探し、辺りを見回す。


「残念だったな! 人間!」


 刹那、黒鎧の声が響き渡る。


 リアンは睨みつけるような目つきで、声のする方向へ視線を向けた。


 そして見つけたときには、すでに黒鎧は数百メートル後方に移動をしていた。


「瞬間移動しやがったのか! なら、こっちも『スピードライズ』で!」


「無駄だ人間! 我は一度撤退する。貴様のような化け物じみた人間がいると魔王様に報告せねばならぬからな」


 そう言うと、黒鎧は自身の右手を後方に手をかざす。すると、楕円形のポータルが現れる。


「さらばだ人間! それに女! 貴様らはいずれ魔王軍が殺す! それまで死なぬことを願っているぞ」


 黒鎧はそう言葉を残し、ポータルと共に消え去った。

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