第23話 総力戦 ~マオ編~

 やっぱあたしは最強だ! 誰よりも早く魔王軍の前に立つことができたんだからな!


「オラァ! 切り刻んでやるよ!」


 あたしの前に立ちふさがって群がってくる雑魚どもを、戦斧を振り回して蹴散らす。


 これで、敵の討伐数もあたしが一番だな! 赤鎧、青鎧なんてあたしの敵じゃねぇ!


 あのライピスとかいうおばさんは赤鎧ごときに手こずってるようだけど、あたしは違う!


 この豪快な戦い方に、あたしを止められる奴はいねぇんだ!


「あたしに触れようとすれば、首が吹っ飛ぶぞ!」


 忠告したってのに、このバカどもは数で押し切れると思って、まーた群がってきやがる。


 図体がでかい割に、脳みそは小さいのかねぇ。やれやれだ。


 先陣を切って群がってきた赤鎧六体があたしの周りを包囲した。そしてあたしに向かって一斉に飛び上がり、落下と同時に太刀を振り下ろしてきやがった。


 だがな、そんな数で押すような攻撃であたしが捉えられるかよ!


 あたしは太刀が振り下ろされる寸でのところで、膝を曲げ一気に伸ばし飛び上がる!


「あたしに群がるバカどもが! 苦しませながら地獄に送ってやるよ!」


 そして空中で体を捻る。そして戦斧を振り回し、遠心力を活かして回転しながら奴らの頭上から攻撃する!


 着地と同時に、赤鎧どもを掻っ捌く!


 ズダダダダダッ!


「ふぅ~! 爽快だな! 最高!」


 戦斧が敵を切り裂く爽快感! たまんねぇ!


 赤鎧ども胸に一筋の鋭い一閃の後を残してやった! 同時に大きく仰け反って怯む!


「もういっぱーーつ!」


 あたしは奴らの首元に刃の高さを合わせる。


 そして、勢いのままもう一回転! この風に乗る感じ最高!


「おらおらぁ! 二度と立ち上がんねぇように首を吹っ飛ばしとけ!」


 風のように戦斧で回転切りをした私は、一気に赤鎧どもの首を吹っ飛ばした!


 いくら漆黒鎧の野郎から生み出された人形だとしても、首を吹っ飛ばされちゃあもう動かねぇだろ。

 

 魔王軍の精鋭『鎧シリーズ』とは言え、大したことねぇな!


「青鎧と骸骨ども! 遠くからチクチク矢を打ってきやがって! うぜぇんだよ!」


 あたしは、戦斧を振り下ろして亜空喰いを発動させる。数百メートル先に居た、青鎧どもの間合いに捉えると、風を切るように戦斧を腰から肩に掛けて袈裟切り!


 横薙ぎだけじゃ芸がねぇ! 戦闘スタイルは多く編み出した方が、リアンもあたしに恋してくれるだろ!


 その後もあたしは灰鎧に向かって、立ちはだかる魔王軍の軍勢を一網打尽にする。


 灰鎧から右翼と左翼に展開している魔王軍だけど、あたしが担当している右翼は壊滅状態。左翼との戦力差は圧倒的! あたしの勝ち——!


 ——ドォォン!


「!? なんだこの圧のある感じ……。不吉で強力な存在が近くにいる感じだ。微妙だが、汗も噴き出てやがる。このあたしが無意識に怯えているのか!?」


 あたしは不意に周りに目を向ける。魔王軍の奴らもこの不穏な感じに動きが鈍っていやがる。


「くっ! このおおおおおおぉっ!」


 この声、ライピスの野郎か? 何を叫んで……!


「我の前に立つ人間は排除する! 我らの侵攻を邪魔するというのなら容赦はせん!」


 ライピスの野郎と対峙している黄金の鎧……、まさか! くそ! 考えている暇はねぇ! 亜空喰いでライピスの元に移動する。


「ライピス! そいつと戦うな! お前じゃ勝てっこねぇ!」


 あたしはライピスの近くまで移動するとすぐに声を荒げて忠告する。そして、黄金の鎧を纏った魔族とライピスの野郎の間に割って入る。


「な、なんですか……。急に! 勝負をしていたのでは……」


「んなことはどうでもいい! つーかライピス、てめぇボロボロじゃねぇか!」


「ええ、この魔族、他の魔族よりも強くて苦戦していたところです……」


 巨躯の体に纏った黄金の鎧に、黄金の馬鎧に身を固めた軍馬。それに、先代の恨みということば、こいつら先代魔王の反乱軍か!


「その特徴ある戦斧に、幼いながら美麗な顔立ち、お主、アルディートだな?」


「それがどうしたよ。てめぇこそ先代の魔王軍に従い、現魔王を裏切った反乱軍どもが、ここに何の用だ?」


「ふむ、三種の神鎧しんがいの一人、『灰鎧・グリズィオン』がいると聞いて訪れたまでよ。奴の首を取れば多少なりとも現魔王軍の戦力を削ぐことはできるとおもったが……、アルディートと接触できるとは。我に運が味方したようだ。お主の首を取れば、相当な戦果に繋がる。ここでお主の首を刈り取るのも悪くない」


「そうかよ、やってみな! 黄金の鎧を纏いし魔族『トラディスガード』!」


 あたしの叫びと共に、馬が叫びをあげ後ろ足で立つと、前足バタバタさせる。それに乗ったトラディスガードは、大柄な体で柄の長い巨大な戦斧を振り回す。その攻撃範囲はとても広く、あたしの戦斧の攻撃範囲外からでも攻撃される。


「くそっ! 最悪だ! こんな野郎にここで合うなんてな!」

 

 あたしは、ライピスに下がるように指示する。「私も戦います」とか言ってやがったが、てめぇの実力じゃ勝てねぇ。足手まといだ!


 ここでてめぇが死んだら、リアンが悲しむだろうが。そんなことになってまで、あいつと付き合いたいと思わねぇよ!


 先代魔王軍の戦力はこいつを除いて、トラディスガードは他に二体がいる。だが、そいつらは灰鎧を率いる魔王軍と戦闘を始めてやがる。


 数は圧倒的に不利なのに、トラディスガードが優勢。なんちゅう野郎だ!


 先代魔王軍のトラディスガードは早めに潰しておかねぇと、あたしが魔王の娘ってことがリアンたちにバレる。その前にこいつらをぶっ潰す!


「二度とその減らず口をきけねぇように叩き潰しやるよ!」


「やってみるがよい、アルディート! 小娘が我の戦果としてくれよう!」


 あたしとトラディスガードは、互いに武器を交えた。

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