第13話 ライピスの質問攻めタイム

 夜の帳が下り始め、風も冷たくなり始めたころ。


 リアンとライピスは黒鎧と戦闘した場所から数キロ離れた洞穴に身を隠していた。


 砂漠から吐出した巨大な岩にたまたま洞穴が空いており、身を隠すにはちょうどいい場所を見つけたのだ。


 そこで枯れた枝葉を種に焚火をして、二人は暖を取っていた。のだが、リアンは少し困った状況に陥っていた。


「リアンさんはどこから来たんですか? 私たちの住む村以外に人の存在は確認できなかったのですが、どこかに人が住んでいる場所があるんですか?」


 どこから来たのか。正直、彼にとって一番困る質問だった。


 適当に、『王都から来た』とか答えようものなら、下手に希望を持たせることとなる。


 だからと言って馬鹿正直に、『異世界から来ました』だなんて言っても信じてもらえないだろう。嘘つき呼ばわりされて信用を失うだけだ。


 どうしたものかと考えていると、リアンはふとアリアンロッドの言葉を思い出した。


『世界の三十パーセントが支配された世界』だという言葉。


 この惑星ニムンはアリアンロッド曰く、魔王軍による侵攻が三十パーセント進んでいるとのこと。


 つまり、今いるこの不毛の地は侵攻された三十パーセントの位置しているということだ。


 ならば、こう答えれば辻褄合うかもしれない。


「と、遠くの街から来たんだ。魔王軍とは無縁の小さな街でな。魔王軍に侵攻されたこの不毛の地で何かお宝がないか探していてだな……」


 リアンは溢れ出る冷や汗と戦いながら、フワッとした回答をする。


 なんとかこれで納得して貰えればいいのだが。


「——! じゃあつまり、私たち以外に生きている人はまだ多くいるってことなんですね!」


 ライピスの希望に満ちた目。ひどく眩しく感じたリアンは顔をそっぽへ向ける。


「そ、そうだな……」


 嘘は言っていない。が、自分の目で確かめたわけではない。本当に生き残りがいるか分からない。


 しかし、アリアンロッドの言ったことが本当なら、まだたくさんの人が生きているのは確実だろう。


「それなら、不毛の地から出れば助けを求められるかも! 王都の騎士団とか冒険者ギルドに私たちの存在を知らせれば、村人たちを助けられる!」


 さらに希望に満ちた目。希望を持たせまいとしたが、結局は希望を持たせる形となってしまった。


 ならば、ここは下手な希望を持たせないためにも、今一度、現状を修正したほうが良いかもしれない。


 リアンは、心苦しいながらも口を開いた。


「それは、厳しいかもしれない」


「なぜですか! 王都の騎士団は優秀な人たちの集まりと聞きますし、冒険者ギルドだって戦闘能力に優れた人たちがいるって聞いたことがあります! 私がなんとか王都にたどり着ければ……!」

 

「不毛の地から出るにはかなり距離があるんだ。数日かけても抜けられるかどうか……。だから、村人を救う手段として最適なのは魔王を倒すことだと思う」


 リアンがあえて、不毛の地から出ることをではなく魔王を倒す方向へ話を持って行ったのには理由がある。


 ここで不毛の地から出る方向へ話を持って行ってしまっては、リアンの嘘がバレる。加えてライピスは村人を救うため一人でも不毛の地から出ようと旅に出るだろう。


 もちろん、ライピスを放っておいてリアン一人で魔王を探す旅に出てもいいのだが、こんな環境下で少女一人にするのは胸糞が悪い。


 であればライピスの目的を手助けできる方向にしつつ、リアンの目的を果たせる方向へと持っていければと考えたのだ。


「そう、ですか。確かに不毛の地から出るまで村人を守るのは難しかもしれませんね」


「村人を不毛の地から救い出すのは、魔王を倒して安全を確保してからも遅くない。魔王軍が衰退すれば、他の街からの救援も望めるかもしれないしな」


「ですが、たった二人で魔王を倒す気ですか? かなり強力な魔物だとの噂ですよ」


「そこらへんはなんとかする。俺自身、過酷な環境を何度も生き抜いてきたんだ。魔王と一対一になったとしても勝つ気でいる」


 リアンは決意に満ちた表情をする。


 それを見たライピスは、どこか納得がいったのかそれ以上深堀はしなかった。


 だが、少女の質問はさらに続く。


「リアンさんの持っている武器、それに服装、見たことないんですけどそれも街で手に入れた武器ですか」


 この手の質問もかなり困るものだった。


 異世界の武器でなんて口が裂けても言えない。街で手に入れたものですなんて言ったら、後に嘘だとバレて大騒動になる。


 なんとかして、切り抜けなくてならない。


「これは、その……。魔法武器ってやつ……だ。どこの街でも売っていない一級品で、特別なものだ」


「へぇ~。じゃあ腕から剣を生やしたのも、魔法武器ってやつですか?」


「そ、そうだ! 魔法で武器を作って近距離で戦う! そ、そうすれば不必要に重い武器を持ち歩かなくて済む!」


 リアンは勢いのままパッションで乗り切ろうと、声を張る。


「じゃあ、その服装も特別なやつなんですね」


「う、うん。フ、ファッション的な要素を取り入れた……的な……感じの逸品だ」


 こうも質問攻めにされては、リアンもしどろもどろになる。


 過去に別の世界を旅したときも、これほど質問されたことはなかったからだ。


 異世界トラベラーであることは、いずれ親しくなったら話すつもりでいるリアンだが、まだ時期尚早。


(トラベラーに関しては、互いに信用できる関係になったら話そう。これまでの世界でもそうしてきた)


 過去の経験から信頼を互いに得てから話す方が、得策で安全だと知っているからだ。


 それからも、外の世界を知らずリアンの存在が物珍しいからか、ライピスからの質問は夜通し続いた。

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