第17話 人類の希望

「騎士団長『レイ・フォース』よ。お主が人類最後の希望となっておる! 不毛の地が王都へ及ぶ前に魔王軍の侵攻を食い止めてくれるか」


 広い一室に男の声が響き渡る。


 その場所は王の間。


 一室としてはとても広く数百人は余裕で入る広さ。内壁にはステンドグラスが埋め込まれ外の光が色鮮やかになって室内を照らす。


 中央の入口からは赤いカーペットが反対側の突き当りまで敷かれており、定期的に手入れがされているのか深紅の赤色が印象的である。


 天井も思わず見上げてしまうほど高い。どれだけ運動神経のよい人間がジャンプしても届かないだろう。


 そして、王の間の奥。


 階段が設けられ少し高い位置にある玉座へと腰を下ろし、眼下に見下ろす白銀の騎士団員たちに視線を向ける小太りの男がいた。その視線は鋭く、どこか冷徹である。


 赤と金色で装飾された王冠を被り、黒と赤で装飾された衣服を身に纏い、首から二の腕に掛けて肩掛けを羽織っている。


 腕や胸元には金色で王都の国旗が刻印されていた。


「センス王。わたくしレイ・フォースは、魔王軍の侵攻を食い止めるため、全力を尽くすことを誓います」


 玉座にどっしりと腰を下ろす王都の王『センス』の前で片膝を地に着け、頭を下げている白銀の甲冑に身を包んだ騎士たち。


 その先頭でひざまずく茶髪の男は、センスの言葉にはっきりとした口調で答えを返す。


 レイ・フォースと名乗ったその男は、顔を上げる。端整な顔立ちが目立ち、野望に満ちた目つきから慎重でありながら優秀さが感じ取れる。


 レイは団長の証である赤いマントをひらりとなびかせ、規律正しく立ち上がる。


「国民は存在するかも分からない伝説の勇者や”一ノ瀬組”と言った反逆的な組織集団に希望など持っておりません。今や国民が希望を抱いているのは私たち『白銀の騎士団』です。白銀の騎士団が自ら不毛の地へと趣き、魔王軍に属する魔族たちを排除しなければ国民も安心して眠れないでしょう」


「そうであるな。その国民を思いやる気持ち見事である」


 そう言い、センスは玉座に立てかけてあった杖を握り、レイへと向ける。


「レイ・フォース騎士団長、お主を『対魔王軍特別機動隊』として任命する。特別機動隊に任命された者たちは自らの判断で、魔王軍に対する行動を自由に起こしてよいという称号である」


「有り難き幸せ!」


 レイは右拳を自身の胸にあて、一礼する。


「この『レイ・フォース』、対魔王特別機動隊に任命されたからには、国民や世界平和のため、必ずや良い成果を持ち帰ってくることを誓います!」


「期待しておるぞ」



 —

 ——

 ———


 王の間を出た『白銀の騎士団』は、さっそく自分たちの拠点へと戻るため、王都の城下街を闊歩する。


「見て! 白銀の騎士団様たちよ! あの方たちが魔王軍をなんとかしてくれるわ!」


「白銀の騎士団様! 応援していますよ! 私たち国民に安堵日々をもたらしてくれることを!」


 街中を歩けば、すれ違う老若男女が道を開け白銀の騎士団に声援や歓声を送る。


 王都の皆が、白銀の騎士団に希望を抱いている証拠だった。


 その中でもひときわ目立っていたのが、騎士団長であるレイ・フォースだった。


「レイ様! 応援していますわ!」


「レイ様ぁ~! こっち向いて~! きゃー! 手を振ってくれたわ!」


「美しきレイ様! 今度、うちのお店によって遊んで行ってね!」


 レイに対する若い女性からの黄色い歓声が凄まじく、アイドル的な偶像を抱かれているようだった。


 それもそのはずで、端整な顔立ちでさらには有能、騎士団員をまとめあげるほどの実力を持つのだから、モテて当然と言えるだろう。


(若い女性に歓迎されるのは嬉しいが、少し疲れるな……)


 黄色い歓声が飛ぶたびに、レイは優しく微笑みかけながら軽く手を振って見せる。


 あまり、笑顔を作ること自体が得意でないレイにとって、アイドル的な偶像を抱かれるのは少し苦痛でもあった。


 ———

 ——

 —


 白銀の騎士団の駐屯地へと戻った騎士団員たちは、さっそく魔王軍への対応をどうするべきか相談を始める。


 騎士団長であるレイを中心に、数名の幹部団員が会議室へと集結する。


「では、今後の方針について話し合う」


 やや小さめの会議室。


 部屋の中心には木の長テーブルが置かれ、使い古されたであろう細かい傷が付いていた。


 内壁には装飾用であろう武器が飾られ、王都の国旗が張り付けられている。


 扉以外の外界を繋ぐものはなく、密室そのものだった。


 会議の内容が外へ漏れないようにするためだろう。機密事項に匹敵する内容があるからだ。


 レイは長机を囲む数名の騎士団員に見えるよう、世界地図を広げた。


 そして、とある場所を指さす。


「依然向かわせた斥候による情報だと、おおよそこの位置まで魔王軍が侵攻し、不毛の地と化しているようだ」


 レイが指をさしたのは王都から北に数百キロ離れた場所。丁度、巨大な森林がある場所だ。


 彼はさらに話を続ける。


「魔王軍の侵攻記録から推測するに、魔王軍の拠点となる場所は北に方向にあると思われる。だが、北のどこの位置にあるかまでは不明だ」


 王都はこの世界の中でも一番大きいと言っても過言ではない。


 それが故に、様々な情報がいきかう場所でもある。


「団長、魔王軍に関する情報はどれほど入ってきているのですか?」


 団員のひとりが質問する。


「それほど多く入ってきていない。助けを求め魔王軍に侵攻された村や町から、王都に入ってくる難民は多いが、ほとんどの人々は逃げるのに必死で何も情報を持っていないからな」


 王都には各地方の情報が様々なルートを経由して入ってくるのだが、魔王軍に関する情報はあまり入ってはこなかった。


 入ってきたとしても、魔王軍は凶悪だった、鎧を纏った魔族がいたなどの曖昧な情報ばかり。


 正直、あまり役に立つようなものではない。


 斥候を送っても分かりえることは少ない。戦いにおいて情報は貴重な戦力のみなもとになる。


 情報が不足しているというのは、魔王軍に後れを取っていると言っても過言ではないのだ。


「実際に魔王軍に属する魔族の強さを知るなら、実際に不毛の地へと足を踏み入れるほかない。多少の犠牲を払ってでも、魔王軍の力を把握すべきだろう」


 騎士団員は国民のため、王都のため、ましてや世界の平和のためと言った清く正しい志を持った者たちが集まった組織だ。


 魔王軍が世界を脅かしているのであれば、自分の命など惜しくもない。ほとんどの騎士団員はそう思っており、レイの言動にその場にいた全員が賛成した。


「明日の明朝、不毛の地に向けて王都を出立する。魔王軍を陰で操っている魔王を倒すためにも、抜かりのない準備をしておくように!」


 団長の言葉に、その場にいた団員の皆が活気の良い返事をした。

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