第35話 訓練の成果と結末
魔王軍小規模部隊との戦いを終えた、ポルポ、アイ、エイリアスは、後方で待機していた白銀の騎士団の本体と合流する。
「ご苦労だった。ポルポ、アイ、エイリアス」
「ありがとうございます、レイ隊長。誰も欠けることなく無事に生還することができました。これも日頃の教えがあってのことです」
アイ達は、白銀の騎士団の隊長である『レイ・フォース』の前に立ち、背筋を伸ばして頭を下げる。
「楽な姿勢で頭を上げてくれていい。私も3人が無事帰還してくれたことを嬉しく思う。よく戦ってくれた」
「ははぁ! このポルポ、ありがたき言葉を頂き幸せでございます!」
隊長からの言葉が嬉しかったのか、感情豊かなポルポは瞳に大粒の雫を浮かべて歓喜していた。
「それで、この戦いで何か掴むことはできたか?」
「さらなる戦闘技術向上のため、敵と遭遇したときは〜、3人1組で数的不利な状況を作って戦う。隊長が言ったんですから〜、もちろん掴みました〜。チームの連携力とか、数的不利に陥ったときの打開方法とか、アイアイが意外とリーダー性があって役に立つとか、ポルポンは力自慢なところがあるとか〜」
「だからその、アイアイって呼び方やめなさいって言っているでしょエイリアス。それに、意外って私をバカにしてるの!?」
「褒めてるの〜。リーダー性があることは、悪いことじゃないでしょ?」
「まぁ、褒めているなら別にいいけど」
エイリアスの言葉に言いくるめられたのか、それともチョロい部分があるのか、アイは不服そうな表情をしつつも納得したことを口で伝えた。
「苦しい戦いであったであろうが、日々の訓練を耐え抜いてきた3人なら無事やり遂げてくれると信じていた。戦いを通して得られたものもあったようだし、何よりだ」
3人に労いの言葉をかけると、レイは振り向き、後方で待機していた数十名の騎士団員へ視線を向ける。
「皆もご苦労だった。不毛の地に足を踏み入れ3日、何度も小規模部隊と遭遇した。その度に3人を選抜して、数的不利な状況で戦わせた。あえて厳しい戦い方を選んだが、日々の厳しい訓練を耐え抜いてくれた諸君なら、どんな状況でも打破できる力を身につけて生還してくれると信じていた」
「レイ隊長、ありがとうございます!」
「レイ様、本当に素晴らしいお方です!」
端正な顔立ちから放たれる労いの言葉に、白銀の騎士団一同はそれぞれ呼応する。歓喜の声や尊敬の眼差しを向けるもの、頬を紅潮させ目をハートマークにしているものなど反応はさまざまだった。
盛り上がる騎士団の様子を前にしつつ、レイは言葉を続ける。
「ポルポ・アイ・エイリアスの3人が戦いを終えたところで1巡したと思う。魔王軍と戦い、強くなった自覚はあるだろう。白銀の騎士団は人類の希望だ。私たちは強くなり続ける必要がある」
人類の希望と象徴される白銀の騎士団。少数精鋭の部隊で全員の人数を合わせても20名に満たない。数では他の部隊に劣るものの、それを補うように1人1人が高い戦闘技術を身につけている。
王都内では実力で右に出る部隊はいないと有名であり、世界最強とも言われている。人々の羨望の眼差しを失望させないためにも、高みを目指し続ける必要があるのだ。
「そして今の白銀の騎士団は過去最強の状態と言ってもいい! このまま魔王城まで進み、人類に安心と安全を届けよう!」
レイが鼓舞するように力強い声音で言い放つと、白銀の騎士団員は歓声の声やレイを慕う声を上げ、全体の士気が高まっていく。
不毛の地という人間にとって不利な状況下でこれほど高い士気を維持できる部隊は他にはないだろう。
25歳という若さでリーダー性の高さと決断力を持つレイ・フォースに、騎士団員は凄みを覚えるのだった。
「先へと進む! 皆、隊列を崩さず――」
ドガンッ!
レイが団員たちの先頭に立ちが先へ進もうとした前を向いた刹那、前方から轟音と地響きが起きる。
音のした方へ一同は視線を向ける。
そこには巨大な砂埃が立ち込め、何が起きているのか誰1人視認も理解もできなかった。
「強烈な圧に背中に走る冷や汗、本能が危険信号を出すほどの何かがいる。総員、武器を構えろ!」
視認できないものの、立ち込める砂埃の中から感じる強烈な圧と本能が危険を察知したレイは、騎士団員たちに武器を構えるよう怒声を上げる。
今までの歓喜で満ちた空気とは一変、騎士団たちの間に緊張感が駆け巡る。
ドスッ……ドスッ……。
砂埃の中から砂漠を踏み締める足音が聞こえてくる。その音は徐々に近づいてきていた。
「くるぞ!」
レイがそう口にしてから数秒後、砂埃の中から現れたのは、黒き鎧を纏った魔族だった。
「漆黒の鎧……」
赤鎧や青鎧と同様、人間の1.5倍はある身長に巨躯な鎧。黒く塗られた鎧はもはや黒というよりも、闇。漆黒と言っていいほどの黒さであった。
漆黒であるが故に、分厚い雲から漏れる微かな光すらも飲み込んでしまう。見るものを恐怖に陥れてしまう闇だ。
背中には赤いマントがなびき、威圧感を増幅させる。鎧の曲線に沿うように装飾された金色の細い線が異質な存在感を演出している。
異様な雰囲気を放つ漆黒の鎧を持つ魔族に、騎士団一同は息を呑む。
「みんな、レイ様をお守りしろ! 今の我らなら、あの黒い鎧にも勝てる! いくぞ!」
緊張感の漂う中、1人の騎士団員が声をあげ、皆を我に戻す。
今までの戦いを思い出した一同は、その声に従うように声をあげ、レイの前に出る。
「おい、待て! 皆、早まるな! あの魔族は危険だ!」
レイは一同に止まるよう指示するが、士気が高まった団員たちは聞く耳を持たない。
「レイ隊長!」
そんな中で、1人の騎士団がレイに声をかける。
「我々の実力はレイ隊長の実力の十分の一ほどにも満たないでしょう。ですから、レイ隊長は何があっても死んではならないのです! レイ隊長は人類の希望なのです。我々もあの黒い鎧の魔族が危険だということは分かっています。ですが、奴が我々の目の前に現れた以上、戦いは避けられないでしょう。レイ隊長は、我々に何があっても魔王城を目指してください!」
そう言い残し、レイの返事を聞くこともなく団員は前に出る。
そして、騎士団員数十名全員がレイの前に出ると、各々武器を構えた。
「魔族に我らの力を示そう! 人類のために!」
「「人類のためにっ!」」
その言葉を皮切りに、一同は一斉に漆黒鎧へ飛び込むようにして、距離を詰め始めた。
「愚かな……」
漆黒鎧は人差し指を詰め寄ってくる騎士団たちに向ける。そして人差し指をクイッと下に向けた。
「グラビオル」
漆黒鎧がそう言葉にした途端だった。前線を走っていた騎士団員の半分が突如として体が地面に叩きつけられ、プレス機で押し潰されるようにして跡形もなく消えた。
残ったのは押し潰されてインクのように飛び散った鮮血だけだった。
「なっ!?」
突然の出来事に、レイはただ顔を顰めることしかできなかった。
同時に彼は、今まで共に道を歩んできた仲間が死んだことに対し悲しみと怒りを覚えた。
激情のまま相棒である聖剣を鞘から抜くと、地を蹴り閃光のような速さで漆黒鎧に向かって駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます