ポリーナ・パーシモン 28 マルコキアスの出現!
その日、たまたまポリーナはレオンに晩餐に呼ばれていた。
すっかりポリーナを気に入った二人は、ちょくちょく妹弟子であるポリーナを食事に誘っていたのだった。
その席でレオンがレオニーに尋ねる。
「そう言えば姉さん、例の件はどうするんだい?」
「ええ、それで私も頭を痛めている所よ」
「そうだな・・・」
気になったポリーナが聞いてみる。
「あの・・・何があったのでしょうか?」
「いや、実はね、最近うちの領地にマルコキアスが出てきたんだ」
マルコキアス・・・
その名前はポリーナも聞いた事がある。
「え?マルコキアス?あの上位悪魔のですか?」
「ああ、うちは治療系が主な都市だからね。
マルコキアスほどの悪魔だと討伐する者がいなくて少々困っていてね。
何しろうちの
彼も一人では自信がないと言うし、誰かを連れて行く訳にも行かないしね。
多少街道からはずれている場所に縄張りを張ったのが救いなんだが・・・」
「そうですか・・・」
「ええ、うちの魔法協会や組合でも単独での討伐は難しそうなので、ロナバールかマジェストンへ応援を頼もうかと思っているの」
「そうですね」
何しろ相手は人の心まで操る上位悪魔だ。
下手にレベルの低い者を連れて行けば、たちまち操られて敵となってしまうだろうし、確かに討伐させる側としては頭が痛いだろう。
ロナバールやマジェストンにならば、高位魔道士や
それに頼めば何とかなるだろう。
そんな事をポリーナが考えていると、レオニーが再び話す。
「ただ、最近組合の方から聞いたのですが、相手が単独ならかなりレベルが高くても有効な戦法が編み出されたと聞いていてね」
「え?」
レオニーの言葉にレオンもうなずいて話す。
「ああ、それは俺も聞いている。
何でも相手が単体だったら、かなり有効な戦法らしいな?
もっともそれには術者がタロスを扱えて、かなりの魔力量がないと厳しいらしいが」
それを聞いてポリーナも軽く驚く。
「そんな戦法が?」
「ああ、何と言ったかな?
確かグレ・・・グレ何とかだったと思うが」
「え?ひょっとしてグレイモン戦法でしょうか?」
それを聞いたレオンが指をパチンと鳴らして叫ぶ。
「それだ!よくポリーナは知っているね?」
「はい、私、シノブさんたちと一緒に、それを考案した人の話と実際にどういう風にやったのかをロナバールで組合長さんから聞きました。
それにその後で御本人の伯爵様にも実際に会って直接聞いています」
ポリーナの話を聞いて二人は軽く驚く。。
「へえ?考案した本人に?」
「あら?それはどんな戦法なのかしら?
私も聞いてみたいわ」
「俺もだよ」
「はい、基本的にはタロスを大量に使って相手を弱らせていく戦法です・・・あ・・・」
ポリーナはここで何かを思いつく。
「どうしたんだい?」
「あの・・・差し出がましいようですが、私とマルコキアスを戦わせてみていただけないでしょうか?」
そのポリーナの申し出に二人が驚く。
「ええ?ポリーナ一人にかい?」
「もちろんあなたの実力は知っているけども、相手はゴブリンではなくて、上位悪魔なのよ?」
「グリーンリーフ先生やシノブにも頼まれているから、ポリーナに危険な事はさせられないな」
「はい、でも最悪時間稼ぎか、ひょっとしたらうまく行けば退治する事も可能だと思います」
「それはどんな方法なんだい?」
「それは・・・」
ポリーナはグレイモン戦法を説明し、さらにそれを応用した自分の思いついた方法を話した。
その方法を聞いて二人が考え込む。
「・・・なるほど、その方法なら確かにポリーナは無事だな」
「ええ、確かに安全だし、うまくいけば倒せるわ。
失敗しても何も被害はなさそうだし・・・」
「ではやってもらうか?」
「そうね?」
「はい」
「しかしポリーナはよくこんな方法を思いついたね?」
「ええ、大御爺様からの教えで・・」
「へえ?それはどんな教えなんだい?」
「それは相手の・・・魔物の身になってみて、自分が一番イヤだと思う事を考えて、それをする事です。
マルコキアスは縄張り意識が強い魔物と聞いてますから」
それを聞いてレオンハルトとレオニーがうなずく。
「なるほど、確かにこれをやられたらマルコキアスはイヤだろうな」
「ええ、本当に・・・」
「ではゴブリンアールの時と同じように、護衛と確認にオーベルとクレイグをつけよう」
「ありがとうございます。
あの御二人がいるなら私も安心です」
翌日になり、オーベルとクレイグが呼び出されて、ポリーナの作戦が検討された。
そしてオーベルの案により作戦が修正され、実行される事となった。
オーベルの修正案を聞いたレオンハルトが
「しっかし相変わらずオーベルの考える事はエグいな!」
「はっは・・・ボクもポリーナちゃんの薫陶を受けて考えてみたからね!」
「何だそりゃ?」
「魔物の身になって考えて、相手の一番嫌がる事を考えるって事さ!」
「なるほど、そりゃ確かにオーベルの得意分野だ!」
レオンハルトが笑ってそう言うと、ドロシーが憎憎しげに同意する。
「ええ、確かにこういう事にはね」
しかしポリーナは真剣な表情でうなずいて答える。
「ええ、確かにこの作戦は良いと思います。
マルコキアス相手にはとても有効だと思います」
「ポリーナちゃんに褒められるとは光栄だねぇ」
「ま、とにかく3人とも危険な範囲には近づくなよ!」
「ええ、よく注意してきてね?ポリーナさん?」
「はい、お任せください!」
いよいよ作戦の準備が出来ると、ポリーナはオーベル、クレイグと共にマルコキアスの縄張りへと向かった。
もちろん、ヴェルダ、フラーバ、フォリオも一緒だ。
歩きながらオーベルが感心したように話す。
「いやはや、しかし今度はマルコキアス退治とはね?」
「いえ、退治出来るかどうか・・・」
「まあ、時間を稼いで相手の力を削ぐだけでも良いさ」
「そうですね。
私もグレイモン戦法の話は聞きましたが、それを早速応用するとはポリーナさんは流石です」
「いいえ、これも大御爺様の教えの賜物です」
やがて一行はある場所に着いた。
マルコキアスの縄張りのギリギリ外側と推測される場所だ。
オーベルがクレイグに尋ねる。
「さあ、この辺がギリギリ限界かな?」
「ええ、これ以上は危険でしょう」
クレイグもうなずく。
「はい、ではこの辺で始めたいと思います。
アニーミ・ドゥミル・エスト!」
そう言うとポリーナは一気に2000体もの戦闘タロスを出現させる。
魔力回復剤を使い、それを何回か繰り返し、さらに大量のタロスを出現させていった。
その数は、何と総数14000体以上だった。
周辺が見渡す限りタロスだらけになり、オーベルとクレイグも驚く。
「いやはや、これは壮観だねぇ?」
「ええ、これほどのタロスを見たのは私も初めてです。
しかもこれが一人の術者のやった事とは・・・」
「はい、これも大御爺様の教えです」
「ゴブリンキングの時もこんな感じだったのかい?」
「ええ、あの時は大御爺様を含めて高レベルの魔道士が数人がかりでしたからタロスの数はこれ以上でした」
「なるほどね?」
「ではポリーナさん、お願いします」
「はい、承知しました」
ポリーナはうなずくと離れているヴェルダたちに命令を出す。
《では、ヴェルダ、フラーバ、フォリオ、始めてちょうだい》
ポリーナの魔法念話による命令を受けると、別の場所でヴェルダたちも同じように戦闘タロスを作り出す。
ポリーナほどの数ではないが、3体とも高レベルのジャベックなので、それぞれが数百体のタロスを作り出す。
但しこちらは鷹型の戦闘タロスだ。
そのタロスたちは悠然と空を飛び、マルコキアスの縄張り上空を飛ぶ。
全てが完了すると、ポリーナが全ジャベックとタロスに命令を出す。
《攻撃開始!》
ポリーナの命令により、全タロスとジャベックが行動を開始する。
そうは言っても動き出したのは288分の1だけだ。
百数十体ほどのタロスが動き出してマルコキアスの攻撃に向かう。
こうしてポリーナのマルコキアス討伐が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マルコキアスは何かが近づいて来るのに気がついた。
それは人間たちが作り上げたゴーレムの類だという事がわかった。
100体少々の戦闘タロスが向かって来る。
(鬱陶しい事だ)
どうやらレベルは100で、タロスレベルの限界値だが、上位悪魔のマルコキアスにとっては百数十体程度のタロスなど、どうにでもなる。
マルコキアスはそれを蹴散らすために立ち上がった。
愚かな人間の所業に軽蔑の薄笑いを浮かべながら・・・
そして2分と経たずにそのタロスたちを全て無傷のまま倒すと、自分のいたお気に入りの場所へと戻った。
しかしまたもやすぐに先ほどと同じような集団が自分へ向かってくる。
(ちっ、またか)
マルコキアスは再び立ち上がり、その集団を蹴散らした。
しかし今度は不覚を取って、そのゴーレムたちが持っていた短剣により、1箇所に軽い傷を負った。
(ふっ、まあ、人間の作った人形にしてはよくやったな)
もちろん、その程度のかすり傷など、どうという事はない。
そう考えて元の場所に帰ると、即座に次の集団を感知する。
(全くしつこい奴らめ!)
マルコキアスは3度ゴーレム退治へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ポリーナは5分おきに自分の戦闘タロスを100体ずつ、そしてヴェルダたちのタロスも10体ずつ、計130体を五分毎にマルコキアスに向けて送るように命令をしていた。
それも24時間昼夜問わずにである!
これは師でもある高祖父アルマンが、ゴブリンキングを倒す時に取った手法だ。
断続的に攻撃を続け、相手に肉体よりも精神の負担を強いる作戦だ。
しかも上空からは散発的に鷹型のタロスも襲い掛かってくる。
最初の14400体は半日で消耗する事になる。
そして次からのタロスは10分毎に送るようにしてあるので、ちょうど1日で全てを使い切る事になる。
それをポリーナは少しずつ場所を変えて毎日するつもりだった。
マルコキアスの探知できない遠距離から大量のタロスさえ出せば、後は家に帰ってゆっくりと休む。
2日目以降のタロスたちは、生成された後はマルコキアスの縄張りの中を無作為に動き、自分の順番の時間が来ると、自動的にマルコキアスの戦いに向かう。
マルコキアスに休む間などなかった。
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