ギルバートと仲間たち 08 驚きのゴーレム使い
ギルバートとウォルターは一瞬顔を見合わせたが、お互いに目で合図をしあうと、即座にその少年の言葉にギルバートがうなずく。
「そうですね、あなたの魔法の勉強になるのであれば・・・」
そう言ってウォルターの方に向かってうなずく。
「あの人」に初心者にはやさしく助けてあげろと言われている。
まさに今がその機会と思ったギルバートはウォルターを促す。
ウォルターも少々躊躇した様子だったが、その事を理解してうなずいて答える。
「ええ、まあ、構いませんが・・では、・・・アニーミ・エスト」
ウォルターが呪文を唱えると、そこに一体のタロスが現れる。
頭と拳の部分だけが卵形の銀色で、他は筋骨隆々たる木人形のような感じのタロスだ。
特に拳に相当する部分は銀色の卵型で、かなり金属的だ。
その少年は出現したタロスをしげしげと感心して眺めてから、ピタピタとあちこちに触ってみる。
その手つきは中々手馴れていて、どうも初心者っぽくはない。
そして納得したようにうなずくと、そのタロスを批評する。
「なるほど、中々の出来ですね?」
「そうですか?」
「ええ、この手首の部分が銀色の卵型なのは、相手を殴るためですか?」
「ええ、そうです
私はまだ剣を使えるほどの器用なタロスは作れないので、代わりに戦闘に向いている物をと考えたらこうなりました」
そうウォルターが説明すると、少年はうなずいて答える。
「なるほど、とても興味深いです。
これで時間はどのくらい持ちますか?」
「そうですね・・・まだせいぜい1時間という所でしょうか?」
「なるほど・・・頭と両手の部分が銀色というのは面白いですね」
「ええ、戦闘用に頭と拳部分を強化しようと金属をイメージしたらそんな具合になったのです」
「なるほど、しかしまだ強度が今ひとつのようですね。
生成する時にもう少し金属のイメージを具体的にすると良いと思いますよ?
例えば鋼とかミスリルをイメージして生成するとか・・・」
その説明を聞いてウォルターは驚いた。
この説明の仕方はどう考えても素人の説明ではない。
自分でもタロスを作れる人間のセリフだ。
「なるほど、御助言ありがとうございます。
ひょっとしてあなたもタロス魔法を?」
「ええ、そうです。
お見せしましょうか?」
「はい、是非お願いします」
「承知しました。アニーミ・エスト」
そう言って少年が出したタロスを見て、ギルバートたちはギョッとして驚いた!
それは紺と金色の甲冑で作られた、剣と盾まで装備している戦闘タロスだ!
そのピシッ!とした、いかにも戦闘的なタロスを見て、ギルバート一行は声も出ない。
明らかに見た目が自分たちよりも年下の成金のボンボンのようで、組合にも登録していない初心者のような少年が見事なタロスを出したので驚いたのだった。
これはどう控えめに考えても初心者の出すタロスではない!
「これは・・・!」
愕然とするウォルターに、タロス使いの少年はそのタロスを薦めてきた。
「せっかく出したのですからこれは差し上げましょう。
皆さんはこれから迷宮へ行くのですよね?」
「ええ、そうです」
「ではこのタロスを参考に使ってみてください。
あなたがたの命令を聞いて、明日の夜位までは持つように作っておきましたので」
「え?このタロスはそんなに持つのですか?」
ギルバートたちはその持続時間に驚いた。
特にタロス使いであるウォルターの驚きは大きい。
自分と比べて恐ろしく長い持続時間だ。
ウォルターはまだせいぜい1時間程度しか持たせられないだけに、その持続時間に驚いた。
タロスは最長三日間は持たせる事が可能だとは聞いていたが、まだそんな人物には会った事がなかった。
1日半でも驚きだ。
この幼い少年は明らかにタロス魔法の上級者だ!
それも自分たちの師匠である正規の魔道士であるボロネッソを上回るほどの魔法使いだ!
その上級魔法使いである少年が、申し訳なさそうにウォルターに話す。
「ええ、あなたの魔力を私のわがままで無駄に消費させてしまいましたからね?
申し訳ないので、是非これを迷宮へ連れて行って使ってみてください。
そうすればあなたのタロスの代わり位にはなるかと思います」
「ありがとうございます」
「それともう一つ・・・アニーミ・エスト」
その少年が再び呪文を唱えると、今度はウォルターが作った物とそっくり同じ形のタロスが出現する。
そのタロスを見てまたもやギルバートたちが驚く。
「えっ?」
「これは・・・」
自分が作ったのとそっくりなタロスを初見の少年が作ったので、ウォルターは驚いた。
そして少年がそのタロスの説明をする。
「あなたのタロスをまねて作ってみました。
一応、先程私が言った部分を考慮して、両腕の部分はミスリル並の強度で作ってみました。
こちらも明日の夜位までは持つように作ってみましたので、参考までに使ってみてください」
「これは凄い!ありがとうございます!」
「それとこれもどうぞ」
そう言うと、この少年は自分のベルトに挿してある緑色のマギアグラーノを確認すると、4つほどギルバートに渡す。
「これは・・?」
不思議そうにそのマギアグラーノを見つめる四人に若者が説明をする。
「それは戦闘タロスが入っているグラーノですよ。
見掛けは違いますが、強さは今出したタロスと同じ位です。
使用する時は「起動、ザク」という言葉で戦闘に使えます。
皆さん、お一人に一つずつさしあげます。
そちらは三日ほど持つので使ってみてください」
「え?三日も?本当によろしいのですか?」
三日と言えば通常タロスの持続時間の限界だ。
そんなタロスには初めてお目にかかった一行はまたもや驚いた!
「ええ、構いません。
ちょうど誰かに使ってもらって、使った感想を聞いてみたかったのでね。
試供品のような物です。
ですからもし今度会う事があったら、そのタロスたちを使った感想を聞かせてください」
その言葉にある程度納得したギルバートが礼を言って、少年からマギアグラーノを4つ受け取る。
「わかりました。
それでは遠慮なくいただきます」
「ええ、どうぞ。
それでは私達はこれで・・・」
そのまま立ち去ろうとする二人に、ウォルターが話しかける。
「あの・・・あなたは組合員ではないようですが、かなりの迷宮上級者なのでは?」
「いいえ、単なる通りすがりのちょっとしたタロス使いですよ。
お気になさらずに」
そう言ってその若い男女は去って行った。
残されたギルバートたちは自分たちのそばにいる三体のタロスを眺めながら話す。
「しかし驚いたな?」
「ああ、こんなビシッとした戦闘タロスを作ったのにも驚いたが、ウォルターのタロスとそっくりなのを作ったのにも驚きだな?」
「ああ、全く人は見かけによらないと言うが、俺はてっきりどこかの資産家の道楽でここにいたのかと思ったが、とんだ見当違いだったよ」
デボラの言葉にウォルターもうなずいて同意する。
「それは俺もだ。あの子は明らかに俺なんか足元にも及ばないタロス魔法使いだよ」
「おや、このタロス、よく見るとちょっとだけ違うな?」
「ああ、本当だ。腕の所に紺色の線が一本入っているな?」
確かにその少年の作ったウォルター型タロスの両腕の外側には肩から手首の辺りにまで、紺色の線が入っていて、それがあるおかげでウォルターのタロスと区別をつけられるのだった。
「それにしてもどうするよ?これ?」
「いや、本当にこれから迷宮に行くんだから使ってみりゃいいじゃないか?
そのためにお前にくれたみたいだし」
「しかし、ここからわざわざタロスを連れて行くのは初めてだな?」
「どうやって連れて行く?」
「まあ、俺たちについてくるように命令してみればいいんじゃないか?」
「ああ、それでいいだろう」
一行は迷宮に向かって歩き出すと、三体のタロスについて来るように命じた。
命令したタロスの様子を見ると、どうやら三体ともギルバートたちについて来ている様子だ。
しかし明らかにウォルターの作ったタロスは他の2体に比べて遅れ気味だ。
そして迷宮に着くとほぼ同時に、ウォルターの作ったタロスは消えた。
「ああ、やっぱりこの程度しか持たなかったか?」
「まあ、だいたいこんなもんだろうよ?」
「しかしあの人のタロスは言った通り、ちゃんと持っているようだな?」
「ああ、両方とも凄いな?」
「さて、いよいよ迷宮だがどうする?」
「まずはいつもの辺りへ行って、この二体を試してみればいいんじゃないか?」
「そうだな」
「よし、お前たち、これから我々は迷宮へ行くが、魔物を見つけたら即座に倒すんだぞ?」
そうウォルターが命令すると、二体のタロスは無言でうなずく。
そうして四人は二体のタロスを連れて迷宮へ入っていった。
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