ギルバートと仲間たち 18 そして魔法士に・・・

そして2年ほど経って、全員が無事に魔法士の資格を取る事が出来た。


「やったな!ついにこれで全員が正規の魔法士だ!」

「ああ、しかもギルバートとウォルターは使空魔法士にまでなれたじゃないか!」

「うん、俺もここ2年でタロス魔法も随分上達したし、もう10時間もタロスを持続させられるようになったからな!」

「ああ、同じタロス魔法士と言っても、俺はまだ一度に出せる数は30体程度だからな!」


そう言ってギルバートも感心する。

ウォルターは熱心にタロス魔法を修行した甲斐もあって、タロスを50体ほど一度に出し、制御する事も出来るようになった。


「さすが未来の俺の旦那様だぜ!」


そう言ってデボラはウォルターにしなだれかかる。

ここ2年の成長でデボラは言動はともかく、体はすっかり女らしくなり、胸は以前よりもさらに大きくなって、巻いた布では隠しきれないほどになったので、さすがにもはや男と間違えられる事はなくなっていた。


「ははっ!デボラだって、立派な魔法士じゃないか!」

「へへっ苦労したけどな!」

「おいおい!惚気るのは二人だけの時にしてくれ」


生真面目なギルバートがウォルターに釘を刺すが、ウォルターはそれを笑って返す。


「いいじゃないか?ギルバートだって、ハンナと付き合う事になったんだし」

「まあ、そうだが・・」


そう言ってギルバートがハンナを見ると、ハンナはにっこりと笑う。


「ヨハンだって、年中アンナといちゃこらしているしな!」


ウォルターにそう言われてヨハンは笑って答える。


「ははは、よろしく頼むぜ?ウォルター兄さん!」

「おいおい、それはまだ気が早いだろ?」


ウォルターとデボラは元々恋仲だったが、この2年間でギルバートはハンナと、ヨハンはアンナとすっかり出来上がっていた。

6人はそれぞれ結婚の約束もして、今はそれぞれ組合の二人部屋に泊まっていた。


「しかしこれで四級昇格以外は、当初の予定は全て達した訳だな?」

「ああ、次はいよいよ等級を上げるか!」

「そうだな、次は一気に四級まで上げるか?」

「ああ、今や俺たちのレベルは65だ。

 ゴブリンロードをあと1回倒せば6人分のゴブリンの短剣も集め終わるしな」

「最近はメイジゴブリンのゴブリンタクトでも良いらしいから、そっちを倒しに行ってみるか?」

「そうだな、色々な魔物と戦った方が経験になるからな」

「賛成だ」


一同はその意見に賛成し、メイジゴブリン討伐のミッションを引き受けて、ゴブリンタクトを1本手に入れた。


「よし、これで四級の昇級資格は大丈夫だな!」

「ああ、もうミノタウロスは全員一人で倒せるし、後は傀儡の騎士くぐつのきしを倒せるようにならないとな」

「ああ、あいつはかなり手強いらしいからな?

組合員の間でも「第1のブロンズの壁」と呼ばれていて、あれのせいで5級で何年も止まっている人たちもいるらしいしな」

「うん、俺たちも本番で手こずらないように練習しておこう」


6人は草原の傀儡の騎士くぐつのきしが出現する場所へ行って、訓練をした。

傀儡の騎士くぐつのきしは中々手ごわく、二人以上ならば簡単に倒せるが、ギルバートとウォルター以外の4人は単独で15分以内に倒すのは中々厳しかった。


「いやあ、さすがに6人だと楽勝だけど、一人であれを倒すのはキツイな?」

「だが、アレを一人で15分以内に倒さねば四級にはなれん」

「20分あれば余裕なんだけどな~」

「そうなんだよね~」

「ギルとウォルターはタロスを使えるからかなり楽そうだな?」

「ああ、確かに俺たちは問題ない」


すでにレベルは65になり、タロス魔法も使えるギルバートとウォルターは、2分もあれば傀儡の騎士くぐつのきしを倒す事が出来た。


「あいつは戦闘タロスを出してくるからなぁ」

「ま、仕方がない。

 それが組合の基準で、四級の人間は全員、アレを倒しているんだからな」

「やるしかないか!」


何回も戦っているうちに六人は全員が15分以内に傀儡の騎士くぐつのきしを倒せるようになった。


「よし!」

「これで四級も大丈夫だな!」

「ではいよいよ昇級試験を受けるか?」

「いや、あと1ヶ月ちょっとで今年の義務ミッションの時期になる。

それをやってからにしておいた方がいいんじゃないか?」

「ああ、そうだな?六級の義務ミッションの方が楽だろうし、それをやっておけば昇級しても今年の四級の義務ミッションはないし、来年の義務ミッションまではもうやらないで済むからな?

それまでの間に俺たちも四級に慣れているだろうしな」

「そうだよ、その方がいい!」

「ではそうするか?」


こうしてギルバートたちは昇級を少々延期する事にした。

そしてその間はさらに訓練に励む事にした。

そんなある日の事だった。

ギルバートたちがデパーチャーで食事をして終わりかかった時に、ある連中と顔を合わせた。


「おや?君たちは・・?」

「あ・・・」


それはいつぞやの「双闘士」三人組だった。

しかも驚いた事にあれからもう二年も経っているというのに、この連中はまだ六級だった!

そして相変わらず自信たっぷりにリーダーのリアムがギルバートたちに話しかけてくる。


「久しぶりだな?君たち?」

「ええ、そうですね?」


ギルバートは特に感慨もなく返事をする。

ここでようやくギルバートたちの等級に気づいた相手が少々驚いたように話しかけてくる。


「ほう?君たち?六級になれたのか?」

「ええ、お陰様で」

「中々やるじゃないか?」

「そうですか?」

「ああ、俺たちのように初等訓練所をたったの一ヶ月で出て、すぐに七級になったのと違って苦労しただろう?」

「ええ、まあ・・・」


ギルバートが適当に答えているとアンナが不思議そうに尋ねる。


「え?たったの一ヶ月って・・・あの訓練所って、誰でも逃げ出したり、追い出されさえしなければ、みんな一ヶ月で卒業できるでしょ?」


そのアンナの言葉に3人が怯む。


「う・・・まあ、そうだが・・・」


さらにハンナが言葉を続ける。


「それに卒業した時はレベル30にしてもらっているから全員七級になるんじゃないの?むしろなれない人なんているの?」

「ま、まあそれもそうなんだが・・・」


ハンナの指摘に相手はしどろもどろだ。

しかしここでもう一人が得意げにいつもの自慢をする。


「ふ、しかし俺たちはそれからたったの1ヶ月もしないうちに六級だ!」


だがこの言葉にもアンナが不思議そうに言い返す。


「え?何を言っているの?

卒業した時にレベル30なんだから、六級なんてなろうと思えばすぐになれるでしょ?

そのつもりなら次の日にだってなれるじゃない?

まあ、私たちは用心深くしばらく七級でいたけどね?」


アンナの反撃に三人組はタジタジだ。


「ま、まあ、そういう事もあるかな?」

「ふ、しかし同じ六級と言っても、しょせん君たちはまだなったばかりだろう?

間もなく五級に昇級する我々とは大きな開きがある!」

「え?私たちはもうすでにレベルだけなら四級以上だよ?

ただ用心して昇級してないだけだよ?」

「な、何だと?」

「そんなバカな!」


動揺するマイケルとダニエルだったが、リーダーのリアムは動じなかった。


「ふ、君たち、嘘はいけないな?

四級になれる者が六級のままでいる訳ないだろう?」

「別に嘘なんか言ってないよ?」

「見栄を張るのもいいかげんにしたまえ!

そんな嘘を言ってもすぐにわかるんだぞ?」


ここでリーダーのギルバートが話を遮る。


「嘘かどうかは次に会った時にでもわかるでしょう。

確かに我々は現在四級相当ですが、用心のために昇級をしていないだけです。

ですから・・・そう、あと二ヶ月も後に会えば、どちらが嘘をついているかはわかるでしょう」

「あと二ヶ月?」

「ええ、その頃には我々は全員四級に昇級しているでしょうからね?

当然あなたたちはその頃は五級に昇級しているはずですよね?」


そのギルバートの言葉にリアムが得意げに反論する。


「はっ!自ら墓穴を掘ったな!

現在六級の者がたったの二ヶ月で四級になれる訳がないだろう!」

「いいえ、なれますよ?」

「そうそう楽勝だよ!」

「だって私達もうミノタウロスだって、傀儡の騎士くぐつのきしだって簡単に倒せるもんね?」

「な、なに?」


驚く三人を尻目にギルバートが答える。


「で?あなたたちは一体いつ四級、いえ五級になれるのですか?」

「そ、それは・・・」

「お、俺たちは後一ヶ月もすれば五級になれる!」

「そ、そうだな?」

「ああ、一ヶ月もあれば十分だ!」

「そうですか?」

「ああ、君たちこそ二ヶ月で四級などというホラ話はやめたまえ!」

「いえ、私たちはホラ話なぞしていないですよ?」

「そうそう!なろうと思えば今日にだって四級になれるだろうしね!」

「単に義務ミッションを簡単に済ませたいだけだもんね?」


そのアンナとハンナの言葉に相手は動揺する。


「そ、そんなバカな!」


愕然とする三人にギルバートは落ち着いて話しかける。


「まあ、とにかく二ヶ月以降後にもう一度会えば、どちらが嘘をついているのかはわかるでしょう。

さあ、みんな行くぞ」

「ああ、そうしよう」

「行こう、行こう」


こうしてギルバートたちはリアムたちをその場に残し、去って行った。

迷宮へ向かいながら六人はあきれたように話し合っていた。


「それにしてもあの連中がまだ六級だったとは驚いたな?」

「ああ、全くだ、散々俺たちを下に見ていたくせにな?」

「一体、何なんだろうな?」

「さあ?確か連中も俺たちと同じで全員が魔法士のはずだよな?」

「そうなんだ?」

「ああ、しかも見た通り、3人とも「双闘士」様だ」

「うん、私、あれを見た時は驚いたよ~」

「私も~、六級で双闘士になんてなる人がいるなんてね!

恥ずかしくないんだろうか?」

「ああ、しかも三年近くもそのままだなんてな!」

「うん、俺たちは確かに運が良かったけど、さすがにあれだけ自慢していて、しかも「双闘士」が三年間も六級はないだろう?」

「一体この三年間、あの連中は何をやっていたんだ?」

「わからないな?」

「四級はともかく、五級のミノタウロスは攻撃魔法を三発も出せば倒せるんだから、魔法士のあの連中に倒せない訳がないよな?」

「そう言えば、そうだな?」

「それで五級になれないって事はあの連中、まだ規定レベルに達してないって事か?」

「え?じゃあ、訓練所を卒業した時にはレベル30になっている筈だから、それから3年近く組合員をやっているのにまだレベル40になってないって事?」

「え~?ただの「戦士」ならともかく、あの人たち3人とも私たちと同じ正規の「魔法士」なんでしょ?」

「それで3年でレベル40未満はないわ~」

「ましてや3人とも「双闘士」様なのにね?」


そう言ってハンナがくっくっくと笑う。


「確かにあの連中は組合員になる前から魔法士だったみたいだし、それにしてはレベルの上がり方が遅すぎる気がするな?」

「商隊護衛とか実入りはいいけど、あまりレベルの上がらない仕事ばかりをしていたんじゃないかな?」

「それはありそうだな~」


商隊護衛は給料はそこそこだったが、護衛をしている間は寝泊りは馬車か野営で、食事は付く事が多い。

つまり貰える金がほぼ丸々懐に入るので実入りは良いと言えた。

また盗賊などはそうそう出る訳でもなく、商隊の通り道に出る魔物は大抵の場合、大した魔物ではないので、比較的割の良い仕事と言えた。

しかしその代わり、お世辞にもレベルが上がる仕事とは言えず、レベル向上を考えている組合員たちはそれを受けるのはほどほどにしていた。


「まあ、二ヶ月後にあいつらに会った時は俺たちは四級になっているだろうから、いやでも連中にもわかるだろうよ」

「ああ、そうだな」


六人はうなずいてさらに訓練を続けた。


そしてその間に春が訪れて、魔法を学ぶためにマジェストンへ行っていた青き薔薇ブルア・ローゾの面々がロナバールへ帰ってきたのだった。

ギルバートたちも気づかぬ内に「あの人」との再会は間近に迫っていた・・・

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