男爵仮面の日常 01
私の名はルドルフ・ダンドリー男爵、アースフィア広域総合組合では「男爵仮面」として通っている。
そして日々、これ精進と考え、正義を執行している。
最近は迷宮へ行く途中で盗賊どもが増えていると聞いて、主にそこで盗賊退治をしている。
つい先日もどこぞの少年と奴隷が森で盗賊に襲われていたのを助けたが、なるほど聞いた通り、中々盗賊が増えているようだ。
そんな時、知り合いのグレイモン伯爵から要請があった。
何でもどこぞの少年に脅迫されていると言う。
仮にも伯爵である者を脅すとは驚きだ。
聞けばその少年が近く伯爵の屋敷に来るそうなので、その際に捕縛を手伝って欲しいと言う。
「ふむ、しかしその相手に言い分はあるのではないか?」
「いや、とにかくそやつは凶悪なので、まずは問答無用で捕まえてほしい。
一旦、捕まえれば後はどうとでもなるからな。
そやつを詰問したいのならば、その後で男爵に任せる。
とにかくまずは問答無用でそやつを捕まえて欲しいのだ」
「ふむ、まあそういう事ならば良かろう」
確かに一旦捕縛してしまえば、後はどうとでも出来る。
私は伯爵の要請を快く受ける事にした。
私が伯爵の連絡を受けて控えていると、その若者とやらがやって来たようだ。
隣室で様子を伺っていると、伯爵の用意した傭兵たちは尽くやられたようだ。
慌てたグレイモン伯爵が私を呼ぶ。
「男爵!出番だぞ!」
「やれやれ、やっと我輩の出番か?」
そう言って私は隣の部屋へと赴いた。
そこにいたのは見覚えのある人物だった。
「男爵仮面?」
おや?この少年はいつぞや森の中で助けた少年ではないか?
この少年がそれほどの悪漢には見えないのだが?
「おや?あの時の少年か?」
「なぜあなたがここに?」
「うむ、少年の姿をした悪漢がここに伯爵を襲いに来ると聞いてな。
まさか少年とは思わなかったが、これも運命、覚悟するがいい!」
「いや、ちょっと待ってください!」
少年はそう言うが私は容赦なく襲い掛かる。
「問答無用!」
しかし少年の側にいるエルフが呪文を唱えると、突然、その辺から緑色の蔓のような物が出現して、私の全身に絡み始める!
その蔓がギッチリと私の手足を拘束して動きが止まる。
「ぬぅっ!これは一体?」
私は懸命にもがくがこの蔦のような物はビクともしない。
蔓に拘束されて、全く動けない私に少年が話しかけてくる。
「聞いてください!男爵仮面!
我々は伯爵を襲いに来た訳ではありません!
むしろその逆です」
「逆?どういう事だ?」
「伯爵が私たちに対して執拗な妨害をするので、それを止めるよう話に来たのです」
「なんと?それは真か?」
「はい」
それを聞いて私はグレイモン伯爵に尋ねる。
「伯爵!どういう事だ?卿の話と違うではないか!
私は卿が子供の姿をした不届き者が今からうちにやってくる。
話をしても埒があかないので、もし来たら問答無用で追い払って欲しいと聞いた。
たまたま今日私が来たら、今からやって来ると言われたからここにいたのだぞ!
それなのに、これはどういう事だ?」
その私の問いに対して、伯爵は悪びれずに、あっさりと悪事を白状する。
「ちっ!ばれては仕方がない!
その通りだ、貴様を利用させてもらったのだが、とんだ結果に終わったようだな!
この役立たずめ!」
「ぬう!なんと言う事だ!
貴公の評判は良くはないが、相談があると聞いて、知らぬ仲ではないので、いざ来て見ればこのような事になるとは!
この私を騙すとは不埒千万!
許せぬ!少年よ、頼む!
これを解いてくれ!」
「はい」
少年が指図をすると、あっという間に緑色の蔓は消失して、私は自由に動けるようになる。
動けるようになった私は、まずは少年たちに頭を下げると謝罪をする。
「すまぬ、少年よ、伯爵に騙されたとはいえ、今回は迷惑をかけてしまった。
このような無様な事をしてしまうとは私もまだまだのようだ。
誠に申し訳ない。
詫びはいずれする」
「いえ」
「ところで、この男には私も腹を立てておる。
必要とあらば、これから一緒に正義の成敗を手伝うが?」
「いえ、この場は我々だけで話しをさせてください。
今日の所は、どうかお引取りください」
「さようか?ではさらばだ、また会おう!」
グレイモン伯爵にはかなり業腹ではあるが、当事者たる少年にそう言われては私も引き下がるしかない。
私はその場は大人しく引き下がる事にした。
後日、少年たちには詫びる事もあろう。
驚いた事に今日、あのグレイモン伯爵が私に詫びに来た!
何でもあの少年に諭されて今までの自分を悔いて詫びに来たと言う。
何やらあの少年の連れていたエルフそっくりなジャベックも一緒だ。
しかし疑わしい事だ。
「侘びだと?
そのような事を言って、また私を騙そうと考えているのではないか?」
「男爵がそう思うのはもっともだ。
しかし私は本当に今までの事を悔いている。
今までの事を許してくれとは言わないが、どうか謝罪はさせて欲しい」
「ふむ、では本当に謝罪するつもりと?」
「その通りだ」
「残念ながら今までの卿の行動からはとても信じられぬな。
もし本気で謝罪をするつもりであるならば、実際に行動で示してもらおうか?」
「行動・・・とは?」
不思議そうに尋ねて来る伯爵に私が説明をする。
「そうだな?
さしあたっては私と一緒に正義の奉仕活動をしてもらおう」
「それは構わないが、具体的には一体どのような事をすれば良いのだ?」
「うむ、まずは私と一緒にしばらくの間は盗賊退治の手伝いをしてもらおうか」
「それで男爵が納得してもらえるなら私は構わない」
「本気か?」
「ああ、本気だ。
しかし私はそういった事は全くわからないので、よろしく指導をお願いしたい」
「うむ、では早速明日からにでも一緒に盗賊退治をしてもらおうか?」
「わかった、どのようにすれば良い?」
「まずは名前を変えて組合に登録をしてもらおう」
「名前を?」
「うむ、正義を執行せし者は正体を隠さなくてはならぬ。
本名で正義の行為をするなど、単なる売名行為にすぎぬ。
そのような事は正義の恥だ。
だからまずは名を変えて正体を隠すのだ」
私のその説明に伯爵は納得する。
「わかった。
では伯爵仮面とでもするか」
「うむ、それで良かろう」
「ところでこの私の横にいるジャベックはテレーゼと言うのだが、この者も一緒に行動させても良いだろうか?」
「盗賊相手ではもちろん戦闘に及ぶのが前提だ。
そのジャベックは我らの戦闘に加われるほどの能力を持っているのか?」
「うむ、このテレーゼはレベル100で魔道士級の魔法を使えるので大丈夫だと思う」
「何と!レベル100だと!
それでは卿はおろか、私よりもレベルが上ではないか!」
「どうもそうらしい」
「それならば大丈夫だろう」
「うむ、ではこのテレーゼは伯爵仮面2号としよう」
「それが良かろう。
そして名前を変えるだけではまだ不十分だ。
顔を隠してこそ、正体もわからぬ。
二人とも顔を隠せ」
「卿のように仮面で顔を隠せば良いのだろうか?」
「ああ、それで十分だ」
「わかった、では明日までにそれも用意しておこう」
「では明日、朝10:00に組合受付で」
「わかった」
少々予想外の事だったが、私はグレイモン伯爵とそのジャベックと一緒に盗賊退治をする事にした。
これで伯爵が本気かどうかはわかるだろう。
翌日、本当に伯爵はそのジャベックを伴って組合にやって来た。
本当にやってくるとは感心だ。
「うむ、本当にやって来たな?」
「当然だ。
これで約束を破ったら二度と卿の信頼はなくなるだろう」
「うむ、殊勝な心掛けだ。
では早速組合員として登録をするか」
「どうすれば良いのかな?」
「卿は確かレベル60前後で魔道士の資格を持っていると記憶しているが?」
「うむ、57だ。
魔道士の資格も持っている」
「では取り合えず五級で登録をすれば良かろう」
少々ジャベックの事で問題もあったようだが、無事に書類は通ったようだ。
グレイモンはミノタウロスを倒し、無事に五級で登録が出来た。
テレーゼも傀儡の騎士を倒し、準青銅等級の登録を出来た。
「さあ、これで組合員としての登録も出来た。
早速、森へでも行って盗賊どもを退治しようではないか!」
「うむ、わかった」
我々は盗賊を倒すために森へと向かった。
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