男爵仮面の日常 02

 順調だった。

グレイモン伯爵こと伯爵仮面は私と共に盗賊どもを一掃しつつあった。

しかしながら我々が少々名が知れてきてしまったのか、最近では私が登場の曲を鳴らすだけで盗賊が逃げにかかるようになってしまった。


「男爵仮面、その登場する時に曲を鳴らすのはやめた方が良いのではないだろうか?」

「私もそのように思います」


伯爵仮面と伯爵仮面2号にそう言われても私はこれだけはやめる気にはなれないでいた。


「むう、そうだろうか?」

「ああ、それを鳴らしていると盗賊どもはすぐに気づいてにげてしまうぞ?」

「私もそのように思います」

「む、しかしな・・・」


私としてはこの登場の演奏はできればやめたくない。


そうこうして私が考えていると、またもや盗賊どもがいたいけな少女二人を襲っているのをみつけた。

早速私は登場の曲を演奏する。

途端に盗賊どもはピタリと相手を襲うのをやめてキョロキョロとし始める。


「まさか?この音は?」

「まずい!逃げろ!」

「奴が来るぞ!」

「ああ!奴には勝てん!」


そう言うと、獲物である少女たちを放り出して盗賊たちは全力で逃げ始める。


「あっ、待て!」


私は忌々しいが曲の途中で演奏をやめて奴らに無言で飛び掛かる。


「ぐわっ!」


盗賊は地面に倒れてそのまま気絶する。


「ぬう・・・人が名乗りを挙げる前に逃げ出すとは、全く、躾のなってない奴らよ」


私が、倒れた盗賊を見て、握った拳をプルプルと震わせながら、忌々しそうに唸る。


「だから、曲を流すのは止めた方が良いと言っただろう?

男爵仮面?」


そう言いながら見覚えのあるスーツ姿の男が、一人の盗賊を手刀一閃で倒す。

盗賊はその場で気絶して地面に倒れる。


「私もそう考えます。

伯爵仮面様」

「ぬう、しかし正義の使者として、あの儀式は避けられぬ」

「そんな事を言っても、今も私と伯爵仮面二号がいなければ、盗賊に逃げられたのではないか?」

「その通りでございます」


我々がそう話し合っていると、最後に残った盗賊が逃げられないと思ったのか、少女の一人に向かってくる。


「くっ!こうなったら!」


そう言って少女を人質に取る!


「シノーラちゃん?」


盗賊の頭は少女を人質に取ると得意げに我々を脅迫する。


「おい、お前ら動くな!

動いたら、こいつの命はないと思え!」

「ぬう、なんと言う事だ!」

「うむ、全く卑怯な奴よ」


しかし、伯爵仮面2号はそのまま動かずに小さく呪文を唱える。

眠りの魔法だ。

盗賊はその呪文を受けて、あっさりとその場で眠りこける。

おかげで盗賊たちは全滅した。

少女たちは我々に礼を述べる。


「あの、ありがとうございました。

おかげで助かりました」

「何の、そなたらが無事で良かったわ」

「うむ、それが何よりだ」

「その通りでございます」

「はい、大丈夫です、本当にありがとうございました。

それでは失礼いたします」


そう言って、足早に立ち去ろうとする少女たちに、心配になった私が声をかける。


「いや、待ちなさい」

「はい、何でしょう?」


私に呼び止められた少女は、なぜかおかしな様子で我々を振り返る。

周囲を警戒しているのだろうか?


「この森は魔物も出るし、今のようなならず者もいる。

そなたら二人では心もとないであろう?

入り口まで我らが送って行こう」


その私の言葉になぜか少女は必死そうに申し出を断る。


「いえっ!大丈夫です!

二人で何とかなりますので」

「さようか?」

「はい、では皆様もお気をつけて・・・」


彼女はそう挨拶すると、伯爵仮面二号が優雅に答える。


「はい、私どもはもちろん大丈夫です。

シノブ様もお気をつけて、エレノア様によろしく」

「シノブ?あの少年か?」

「何?シノブだと?テレーゼ?

どういう意味だ?」


驚く我々に伯爵仮面2号は優雅に答える。


「はい、そちらの金髪の方はシノブ様でございますが?

もう一方は存じ上げませんが?」

「そう言われてみれば、顔は似ているが・・・」

「うむ、金髪だし、エレノアが一緒でないので、気がつかなかった」


我々が騒いでいるとその少女が自ら正体を明かす。


「いやあ、久しぶり!

 男爵仮面、グレイモン、テレーゼ」

「何と!やはり少年なのか?」

「シノブ?なぜそんな格好をしてこんな場所にいる?」

「いや、実は魔法協会に頼まれて盗賊の囮捜査の最中なんだ。

それでわざと変装のためにこんな格好をしているんだよ、ホラ」


そう言いながら少年は魔法協会からもらった捜査官の令状を見せる。


「なるほど、そういう事だったのか?

私はてっきり少年の趣味でしていたのかと思ったが?」

「うむ、私も人の事は言えぬからな。

別にシノブがそういう趣味とて、何も言わぬ」

「違うっつーの!

それより、グレイモン!

お前も何でそんな格好でテレーゼと一緒にここにいるんだよ?

しかも男爵仮面と一緒に?」


少年にそう問われてグレイモン伯爵がこれまでの経緯を一通り説明をする。

そして我々も秘密捜査の事を説明されると納得して別れた。


 その後も私と伯爵仮面との精進は続いた。

すぐに音を上げるかとおもいきや、伯爵仮面は意外にも私との修行を続けた。

しかも近頃はそれを楽しんでいる風でもある。

私は彼の変わりように感心していた。


 そんなある日、シノブ少年からあるミッションの誘いを受けた。

聞けば何と迷宮に昇降機を設置するミッションだと言う。

それは公共のためになる非常に興味深いミッションだ。

私は強く興味を惹かれその仕事を引き受ける事にした。


「なるほど、それは中々意義のある仕事だな。

是非、私も加えていただこう」

「ありがとう」


すると、横で話を聞いていたグレイモンが話し始める。


「シノブ、私もそれに加えてもらえないだろうか?」

「え、グレイモンを?」

「うむ、今二人の話を聞いて、そのミッションは確かに公共性の高い話と思う。

是非、私も加えてもらえないだろうか?」

「どうする?エレノア?」

「そうですね・・・」


さすがに以前の事があるので、二人とも考え込んでいる様子だ。

無理もない。

ここで私は伯爵のためにひと肌脱ぐことにした。


「いや、最近のグレイモンは中々正義に目覚めていて良いぞ!

確かに昔のこやつは傍若無人で、人を人とも思わない奴であったし、自己中心的で、ロクでもない奴であった!

それは私も知っている!」

「そ、そうだな・・・その・・・すまぬ」

「しかし、私と一緒に正義の執行をするようになって以来、色々と目覚めた。

最近は進んで人助けもするようになってきたし、以前と比べると見違えるようだ!

ここは私に免じてこの貴重なミッションに加えてもらえないだろうか?」


私の力強い説明に少年もどうやら納得してくれたようだ。


「まあ、男爵仮面がそこまで言うなら・・・いいかな?エレノア?」

「はい、よろしいでしょう」

「すまぬ、シノブ、エレノア、私も汚名を返上するためにも、頑張りたい。

君たちに対する恩返しの意味も込めてな」

「そうか?まあ、やるからには頑張ってくれよ?」

「うむ!」

「そうだな。お主も精進せよ!伯爵仮面!」

「うむ」


こうして私と伯爵仮面、そして伯爵仮面2号は昇降機の設置作業に加わる事となり、無事にそのミッションも終えた。

そしてその作業の途中で私のレベルもついに100となった。

そして私は以前からの父の遺言により、祝いの会を開く事となった。

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