ポリーナ・パーシモン 25 ゴブリン退治の相談

 ポリーナが到着すると、そこにはレオンハルト以外に、レオニー、ドロシー、マーガレット、オーベル、それに初めて見る銀髪の魔道士のような人物がいた。


「何か私に御用事があるとか・・・

なんでしょうか?」

「やあ、わざわざ呼びつけてすまないね?ポリーナちゃん。

 実は君に相談があるんだ」

「はい?」

「実はこのメディシナーの近くの村でゴブリンの大群が現れてね」

「え?ゴブリン?」


その言葉を聞いてゴブリンキラーを目指すポリーナはピクリと反応する。

いずれ高祖父の考えをまとめて本を出すつもりなので、今でも魔法治療をしつつも、ゴブリンの対策は常に考えている。


「ああ、それでうちの組合から2回ほど討伐隊が出たんだが、ほうほうの態で帰って来てね」

「そこで正式に新たな討伐隊を出そうと思うのだけど、専門家であるあなたに意見を聞いた方が良いと思って来て頂いたの」


まだゴブリンキラーを名乗れない身ではあるが、ゴブリンの専門家として相談されるとはポリーナも嬉しかった。


「専門家とは面映いですが、相手は何ですか?」

「どうもゴブリンソーサラーらしいんだが、相当こいつが強いらしいんだ」

「ソーサラーですか?」


ゴブリンソーサラーと言えば、確かに中位攻撃魔法を使い、下級の組合員ではとても相手にはならないだろう。

個体差もあるが、レベルが高く手下も多い老練なソーサラーであれば、討伐隊に1級の組合員がいても危うい。

決して舐めてかかれる相手ではない。

それはポリーナにもわかっていた。


「ええ、それで討伐に関して、何か助言をいただけないかと思ったの」

「わかりました、では私が退治しに行きましょう」


そのポリーナの言葉を聞いてレオンが驚く。


「え?いやいや、退治するのはこっちでするからポリーナは修行に専念して良いよ」

「いいえ、私はゴブリンキラーだった高祖父にもゴブリン退治をするように約束しました。

エレノア先生にも、両方とも精進して修行するように言われております。

魔法治療と共に、これも修行の一つです。

それに一応これでもアースフィア広域総合組合で、白銀等級シルバークラスの組合員です。

是非、そのソーサラーも討伐させていただきたいです」


そのポリーナの言葉を聞いて、レオンもレオニーと顔を見合わせた後にうなずいて話を続ける。


「そうか?ではポリーナに頼もうかな。

どれ位の人数を連れて行けば良いかな?」

「ソーサラーならば、確認のために2人も一緒に行っていただければ大丈夫です。

ただ、その方は鑑定や探知魔法が使える、多少レベルが高い方をお願いします」


ポリーナの返事にレオンとレオニーも驚いて答える。


「え?2人?」

「そんな少人数で大丈夫なのですか?

相手はゴブリンソーサラーですよ?」

「はい、私のジャベックたちと一緒なら恐らく大丈夫だと思います。

実際にロナバールでゴブリンソーサラーを倒した事もありますし」

「ソーサラーを?ポリーナさんが?」


驚くレオニーに、横にいたオーベルが説明をする。


「ははっ!ソーサラーどころか、このポリーナちゃんはゴブリンキングだって倒した事があるんだよ?」

「ええっ?ゴブリンキングをポリーナさんが?」

「ああ、その通りさ」

「それは凄い!」

「ええ!」


驚くレオンハルトたちに慌ててポリーナが答える。


「いえ、あれは大御爺様の言った通り、動いたのと優秀なジャベックたちがいましたから・・・」

「そのジャベックたちはそんなに強いのかい?」

「ええ、ヴェルダはレベル170の戦魔士で、フラーバとフォリオはレベル160、それにもう一体戦闘用のロカージョというレベル135のジャベックを持っているので大丈夫です」

「まあ、あのジャベックたちはそんなに強かったの?」

「なるほど、ではポリーナに正式に討伐を依頼する事にして、誰か確認のためにつけるか?」

「そうね、誰が良いかしら?」


二人がそう話していると、そばで話を聞いていたオーベルが進み出る。


「そりゃ僕が行くよ。レオン」

「ああ、オーベルが行ってくれるなら助かる。

ポリーナとも面識があるからな」

「はい、オーベルさんなら大助かりです」


ポリーナも嬉しそうにうなずく。

魔法修士であるオーベルは、もちろん鑑定魔法や探知魔法も使える。

気心も知れたオーベルが同行してくれるのであればポリーナも安心だ。


「ではあと一人は私が行きましょう」


そこで今度は、先程からそばにいた銀髪の青年が進み出る。


「そうだな、クレイグ、頼む」


レオンがそう言うと、その銀髪の青年がポリーナに自己紹介をする。


「私はアースフィア広域総合組合メディシナー支部の副支部長をしておりますクレイグと申します。

よろしく、ポリーナさん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「ええ、ポリーナさんのゴブリンキラーとしての御高名は伺っております」


しかしそのクレイグの言葉にポリーナは首を横に振って答える。


「それは私の高祖父のアルマンの噂だと思います。

私はまだ単なるゴブリン退治の初心者に過ぎません」

「御謙遜を・・・

アレックス支部長からも、ゴブリンキングに止めを刺したのはあなただと伺っておりますよ。

それに何でも聞いた所によると、先代から究極のゴブリン退治法を伝授されていらっしゃるとか?

今回はその辺を是非、御教授していただきたいと思います」

「はい、確かに高祖父から受け継いだゴブリン退治法は知っていますが、残念ながらそれは非常に特殊な方法なので、現状では私以外では実行不可能なのです。

ですからお伝えする事は出来ませんので、申し訳ございません」

「いえいえ、拝見させていただけるだけでも後学の参考になると思いますので、是非お願いいたします」

「それは僕も是非みたいねぇ」

「はい、わかりました。

それでは今回のゴブリン退治で機会があれば使ってみましょう」


こうしてポリーナはアースフィア広域総合組合から正式に依頼をされて、ゴブリン退治をする事となった。

三人はヴェルダ、フラーバ、フォリオのジャベック三体を伴い、馬車で目的地へと向かった。

オーベルが自分たちの後について来る荷馬車を見てポリーナに尋ねる。

それには山のように松明たいまつが積んであったからだ。


「ははっ、しかしずいぶんと松明を積んだね?

これもゴブリン退治に使うのかい?」

「ええ、そうです」


やがて目的地近くへ到着すると、クレイグが説明をする。


「あそこの廃村にゴブリンが巣食っているのですよ」

「村全体にですか?」

「ええ、そうです・・・」


その話を聞いたポリーナが首をかしげる。


「おかしいですね?

ウイザード以外のソーサラーやドルイドなどの魔法を使うゴブリンは洞窟や古城のような閉鎖された場所に巣食っていて、あまり村のような開けた場所に部下は配置しないはずなのですが・・・」

「そうなのですか?」

「ええ、大御爺様の記録を読んだ時にそう書かれていました。

実際に私もソーサラーやドルイドは退治した経験は何回かありますがそうでした」

「なるほどね?

ではまさかここにいるのはウイザードなのかな?」


オーベルの疑問にクレイグが答える。


「いえ、前回の討伐隊の報告では高位呪文を使ったゴブリンはいないとの事でしたが・・・

ただ気になるのはゴブリンソーサラーが複数いたそうです」

「複数?

ふむ?ソーサラーがソーサラーを部下にしていたという事なのかな?」


オーベルの疑問に今度はポリーナが答える。


「いえ、それはありえません。

ゴブリンソーサラーやゴブリンドルイドは同格の者には決して仕えません。

もし同じ場所で複数同格の者が生まれると、後から生まれた者はその巣窟から追い出されます。

それが複数いたという事は、ここには必ずそれ以上のゴブリン種がいるという事になります」

「それ以上と言うと?」


そのオーベルの質問にポリーナは考え込んで話し始める。


「そうですね・・・ソーサラーやドルイドよりも上級のゴブリンとなると少ないです。

キングかウイザード、それとマーシャルにジェネラル・・・」


そのポリーナの言葉に驚いてオーベルとクレイグが答える。


「おいおい、まさかキングやウイザードじゃないだろうね?

それだったら一旦引き上げて対策を検討した方が良いよ?」

「そうですね」


クレイグがうなずくが、ポリーナは首を横に振って答える。


「いえ、キングやウイザードでしたら、この程度の規模で納まる訳がありません。

マーシャルにしてもそうです。

私も実際に見ていますからそれはわかります。

ジェネラルはソーサラーよりも格上ですが、基本的に護衛役で、自分が頭目になる事はありません」

「では一体、奴らの頭目は何者なのでしょう?」


クレイグの質問にポリーナが少々考えてから答える。


「・・・アールなのではないかと思います」

「アールですか・・・」

「アール?まさかゴブリンアールの事かい?」


クレイグは思い当たるようにうなずくが、オーベルが意外そうに尋ねる。


「はい、ゴブリンアールはゴブリンキングの一歩前の段階で、ゴブリンロードが進化した者です。

ソーサラーを操る上位者としてキングやウイザードではないとすると、ゴブリンアールしか考えられません。

もちろん滅多にいないので、一般にはあまり知られていません」

「ボクも名前位は聞いた事があるが・・・キングの一歩手前だって?

するとそいつはかなり手強いんじゃないかい?」

「ええ、そう思います。

私も出会うのは初めてですが・・・」

「まあ、確かにそうちょいちょいいられても困るがね?

しかし、どうする?

そんな奴が相手なら一度引き下がって陣容を整えてから来るのも手だと思うよ?」

「そうですね。たった三人でそれほどの魔物と戦うのは無理がありますね」


そう言って二人はポリーナに一時撤退を提案する。

しかし再びしばらく考え込むとポリーナは返事をする。


「いえ・・・やってみます」

「えっ?大丈夫なのかい?」


驚くオーベルにポリーナが説明をする。


「はい、ソーサラーやウイザード戦の経験があるので、それを応用すれば大丈夫だと思います。

それに仮に失敗したとしても、かなり数が減らせるでしょうから、次の討伐が相当楽になるはずです。

それに組合から正式な依頼で来ている以上、最低でも本当に相手がゴブリンアールなのか確認する義務もあると思います」

「なるほどね」

「人質などは取られていないのですよね?」

「ええ、それは確認済みで大丈夫です」


クレイグの返事にポリーナも覚悟を決めた表情でうなずく。


「それでしたら遠慮せず、思いっきりやれるので大丈夫だと思います」

「はは・・ゴブリンキラーの愛弟子の思い切りか・・・こりゃ何だかちょっとワクワクしてきたね?」

「我々は何をお手伝いすれば良いですか?」

「それは当初の予定通り、確認のために様子を見ていてください」


そのポリーナの言葉にオーベルが驚く。


「おいおい!まさかそのゴブリンアールとやらを君一人でやる気かい?

手下だって何百もいるんだろう?」

「大丈夫なのですか?」


クレイグも心配そうに尋ねる。


「はい、お願いします!やらせてください」

「わかった、だけど無理はするなよ?」

「はい」


こうしてポリーナはゴブリンアール退治をする事となった。


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